インド映画夜話

THE FLIGHT ザ・フライト  (Flight / 2021年ヒンディー語版) 2021年 116分
主演 モーヒト・チャッダ(脚本/製作補も兼任)
監督/製作/脚本 スーラジ・ジョーシー
"脱出は100%不可能"




 その日、ムンバイに本社を構える航空機メーカー アディティアラジ社製の旅客機815便が墜落。航空業界に激震が走った。

 この事件に対しアディティヤラジ社は終始沈黙。
 しかし、創業者の息子でMD(マネジメントディレクター)を務めるランヴィール・マルホートラは単身事件の真相を突き止め、それをドバイで開かれる投資家達を交えた記者会見で発表すると宣言する!

 その足で、プライベートジェット"フェニックス"でドバイへと出発したランヴィールだったが、出発準備の軽口で機内スタッフをねぎらいつつ仮眠に入って目覚めると…そこは、機内が荒らされ客室乗務員が射殺されていて、通信機器や脱出用パラシュートすら破壊されたジェットの只中だった…!!






 ヒンディー語(*1)映画による、航空機パニック映画。
 2012年の同名ハリウッド映画「フライト(Flight)」とは別物。
 日本では、2022年にDVD発売。

 目覚めてみれば、飛行中の脱出不可能な無人ジェット機の中だった!
 …の1アイディアからこれでもかと練りこんだ危機また危機のパニックサスペンス。最初の30分くらいの詳細な状況説明の経緯と、主人公の(無駄な?)ヒーロー性アピールまでは、どこにでもある凡作の雰囲気を醸しながら、突如不可解な状況に陥ったのち、必死の打開策確保に走り回る登場人物達の、手に汗握る展開の連続が熱い。
 物事の推移を詳細に説明したがりとか、伏線をきっちり伏線ですよと描きたがるインド物語文法は健在ながら、それでも物語は予想の斜め上を飛び続け、復讐劇も相まって爽快感極まるトンデモラストへとブッ飛ばし続けてくれるからもーたまりまへん。これが初監督作となるスーラジ・ジョーシーのケレン味の良い演出力は今後も期待大? …かもしれない(*2)。

 主人公ランヴィール・マルホートラを演じたのは、マハラーシュトラ州ムンバイ生まれのモーヒト・チャッダ。
 詳しいデータが出てこないけど、03年のテルグ語(*3)映画「Ammayilu Abbayilu」と「Aithe(もしも…)」で映画&主役級デビューし、翌04年にはタミル語(*4)映画「Adhu(それ)」に役名と同じ"アルヴィンド"名義でデビュー。07年に「50 Lakh」でヒンディー語映画デビューし、以降ヒンディー語映画界で活躍。俳優としては13年の短編映画「Call Waiting」から8年ぶりの出演作となる本作で、脚本&製作補デビューもしている。

 初登場シーンではあまりパッとしない赤ジャン姿で印象薄めな主人公ながら、セレブらしいスーツ姿でジョット機内でパニクるあたりから徐々に凛々しさを見せつける眼力を発揮。人情を理解するお調子者セレブ坊ちゃんと言うキャラを、嫌味なく演じられるのはこの人の持ち味か、はたまた脚本&演出の勝利なのか…。プライベートジェット機に持ち込まれた数々の小道具が「どーせ後で重要アイテムになるんでしょ?」と思わせつつ「そんなん機内にあったら、乱気流とかで盛大に暴れまわったりしません?」と気になっちゃうものも多くて、主人公のチャラいキャラクターを強化するものにもなっておりましたネ(*5)。ああいう風に収納されるのか、と感心してしまうほどには飛行機というものに馴染みのない自分なんですけども。私なんて、離陸の時とかいつも窓から目を離さない人間ですからよってー!

 タイトルロゴが出る映画開始30分からの、本格的な「さあ、ここから物語が一気に飛び立ちまっせ」って演出も小粋なら、「目覚めてみれば、生きた人間は機内で自分1人」と言う不穏さは「ソウ(Saw)」とかのゲーム的なノリのホラー映画な状況で、まさに一気に映画の中へ意識が持ってかれる瞬間。そこからしばらくはモーヒト・チャッダの一人芝居だけでここまで緊迫感も、ハラハラ感も、頼もしさが垣間見えてくるおちゃらけ具合も映画を支える屋台骨として機能するんだから偉い。
 もちろん、物語はそこだけで終わらず行方不明のジェット機を探す叔父バルラージ・サヒーニー(*6)側の管制室メンバーのプロフェッショナルな仕事ぶりもスンバラし。操縦に関しては素人な主人公との通話のみでの状況分析や対処法の模索、主人公を狙う陰謀によって動きが封じられるジリジリ感も映画の疾走感を加速させる。
 陰謀の首謀者が、わざわざ映像データで真相を主人公に伝える小者っぷりも楽しいけれど、「なぜ殺されるのか」の理由を伝えて状況を理解しさせてから死んでくれと言い放つ悪役の死生観は、まあ、伝えないまま殺そうとするよりは陰険さがないので好感が持て…持て……いや、やっぱ殺そうとした時点で陰険だわ。うん。
 それに対して、絶体絶命の状況から「どうせなら」と一計を案じて殺意満々でやり返そうとする主人公の姿もトンでもね。日本だったら、とりあえず事態が収束してからの復讐劇に入りそうな所を、一気に流れを加速させたまま終幕までぶっちぎるその爽快感は、インドの元気さを見せつけてくるようですわ!



「THE FLIGHT ザ・フライト」を一言で斬る!
・最後の最後にどんでん返し的な『続編に続く!』が出てくるのは、バーフバリ演出へのリスペクト? 2023年予定ってことは、公開は2024年だネ!!

2022.5.13.

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*1 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
*2 1発ネタだからかもしれない?
*3 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*4 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。
*5 より効果的なブラフにもなってたけど。
*6 演じるは、「Aithe(もしも…)」や「50 Lakh」でモーヒト・チャッダと共演している名優パーヴァン・マルホートラ。