Gautamiputra Satakarni 2017年 131分(135分とも)
主演 ナンダムリ・バラクリシュナ & シュリヤー・サラン & ヘーマ・マーリニー
監督/脚本/原案 クリシュ・ジャガルラムディ
"語られたることのなかった、最も偉大なる物語"
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「母上、何故戦争が起きるのでしょう? 何故仲間同士で争うのでしょうか?」
「息子よ、国を救うために皆は戦い、国を守る者に権力は与えられるのです。より大きく、強い国になるために」
「でも、こんなにたくさんの国は必要なのですか? 皆が団結して1つの国を作れば、戦争など起きないのではありませんか?」
「それをやり遂げるほど偉大な人物になるのは難しいでしょうね…皆がそうなるように努力しなければ」
「私がそうなりましょう、母上。我々は1つの国となるのです。争いは起こるかもしれませんが、1度だけです。それからは、平和な国が1つあるだけになるのです…」
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時に西暦2世紀。
アマラーヴァティ(*1)に住まうサータヴァーハナ朝の王シャータカルニの名において、南インド諸王に「服従か、はたまた戦争か」の書状を持つ使者が突如届けられる。
各地の王は、血気盛んなサータヴァーハナ朝に従う事を良しとせず反抗を開始。しかし、その侵攻を止めることもできずに次々に降伏せざるを得なくなるが、シャータカルニは各地の王をそのまま存続させ、自らがその上に立つ大王として南インド一帯を統一する事を宣言。サータヴァーハナ朝は、その支配地域を刻一刻と拡大していく…。
そんなシャータカルニの目的こそ、南インド33国の統一によって戦乱をなくす事。そのための戦争で各地を飛び回る王は全戦全勝ながら、戦のために王妃や王子たちと過ごす時間がほとんどない。
王子プルマーヴィーの誕生日に久しぶりに王妃ヴァーシシュティ・デヴィと語らう王であったが、次なる戦争の相手…ヤヴァナ(*2)の後援を受けた西クシャトラパ(*3)のクシャハラータ朝の王ナハパーナが、周辺国の王子を奪い取って幽閉する事で支配権を確立していた事から、ナハパーナとの戦いにおいて彼をおびき出すためにシャータカルニの王子プルマーヴィーを戦場に出す必要があると聞いた王妃は、断固としてこれに反対する…「王子が私のお腹にいた時、貴方は戦場の中にいました。その王子が成長した祝いの時に、私たちをも戦場の中に連れ出すと言うのですか? ……それでも貴方は、人なのでしょうか!?」
挿入歌 Singhamu Pai Langhinchenu (Kadhaa Gaanam)
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タイトルは、主人公である古代インドのサータヴァーハナ朝(*4)第2次拡大期の王の名前「ガウタミープトラ・シャータカルニ(*5)」。日本語表記では、「ガウタミープトラ」と略称されることも多いみたいだけど、その語義は「王妃ガウタミーの息子、シャータカルニ」になる(*6)。
日本では、2017年にMadras Movie Japan主催の自主上映で埼玉県にて英語字幕上映さえている。
2世紀に実在したサータヴァーハナの統治者ガウタミープトラ・シャータカルニの生き様を描く時代劇。
アーンドラ・プラデーシュ州を代表する偉人でもあろう征服王の軌跡を通して、新州都予定地の開拓者でもあるサータヴァーハナ王家を振り返ろうとでもする1本で、群雄割拠の戦国時代に強大な統一王朝を築いたガウタミープトラ・シャータカルニを通してインドの多様性を見せつけながら、その団結・自立自尊を訴えかける愛国的な映画にもなっている。
劇中の文物がどれくらい時代考証的に正しいかは分からないけれど(*7)、サータヴァーハナ朝を始め南インドの各王朝の宮殿にバラモン僧に混じって仏教僧が影響力を持って登場してきたり、今まで映画で言及されているのを見たことないインド・グリーク朝のギリシャ人たちが登場してきたりと、一筋縄にはいかない多様で複雑なインドの辿った無数の民族・宗教の歴史の一端を見せつけるようなボリュームである。
もっとも、そのボリューム故にかテーマ先行がちな物語進行になっていて、絵造りそのものも舞台的。主要登場人物が大げさに見栄を切り、長々と演説するカッコ良さを優先して描いているところなんかは、2015年の「ルドラマデーヴィ(Rudhramadevi)」のような絵物語的な画面が意識されているともいえようか。
サータヴァーハナ朝を代表する王の1人である歴史的偉人ガウタミープトラ・シャータカルニを演じているのは、1960年マドラス州(*8)都マドラス(現チェンナイ)に生まれたナンダムリ・バラクリシュナ。通称NBK。ユガ・スターとも。本作が、映画出演100本目の作品とか。
父親は、やはりテルグ語圏を代表する偉人である映画俳優にして州首相になったナンダムリ・タラーカ・ラーマ・ラオ(通称NTR)。兄に男優兼プロデューサー兼政治家のナンダムリ・ハリクリシュナが、甥に男優兼映画プロデューサーのナンダムリ・カールヤン・ラーム、男優NTR Jr.ことナンダムリ・タラーカ・ラーマ・ラオ(*9)がいる。
生まれた当時、テルグ語映画の製作拠点にもなっていたマドラスで幼少期を過ごし、父親の監督&製作&主演作である1974年のテルグ語映画「Tatamma Kala(偉大なる祖母の夢)」から子役として父親関連の映画に多数出演。青年期にテルグ語映画の拠点がハイデラバードに移ったことから、ハイデラバードに移住してそこの大学で商学士を取得する。
1984年の「Sahasame Jeevitham(人生は冒険)」で主演デビューを果たし、本格的に映画俳優活動を開始(*10)。すぐに年間複数本の主演作を抱える人気俳優になっていき、2001年の主演作「Narasimha Naidu(ナラシンハ・ナイドゥ)」でフィルムフェア・サウスのテルグ語映画主演男優賞とナンディ・アワード主演男優賞を獲得。以降も数々のヒット作を生み出し、多数の映画賞を獲得している。
2004年、ハイデラバードのジュビリーヒルズで起きた銃撃事件に関与したとして逮捕されるものの、被害者側がのちに供述を撤回(*11)。条件付きで保釈される事件を起こしている。
また、長年父親が創始したテルグ・デサム党の活動を支持していて、2014年選挙に出馬。ヒンドゥプール議会選挙区で下院議員当選して兄と同じ政治家に転身するも、その後も映画出演作は途切れず、映画俳優として活躍中。2019年の父親の伝記映画「N.T.R: Kathanayakudu(指導者NTR)」「N.T.R: Mahanayakudu(偉大なる先達者NTR)」2部作に主演しながらプロデューサーデビューもしている。
キャスト的には、タミルのアイアンガール・ブラーミン出身でヒンディー語(*12)映画界の大スターであるヘーマ・マーリニーが王母ガウタミー役で出演しているところも注目(*13)。83年のウルドゥー語(*14)映画「Razia Sultan(女帝ラズィーヤ・スルターン)」でイスラーム世界を代表する女性君主の1人を演じていた人が、本作で息子を諌めながらその夢を共に追おうとする強き母親役を好演。テルグ語台詞は自分でしゃべっている…のかな?
南インド統一のための戦争を続ける常勝の王に対し、劇中の武人たちは特に疑問も挟まず(*15)共に戦おうとする猪突猛進ぷりも素直ではあるけれど、その辺の「戦う意味」「争いの連鎖」への疑問を、真っ先にぶつけてくるのが、史実的にもサータヴァーハナ朝で重用されていたと言う仏教集団である所も印象的で、その声を聞いて戦争の無意味さ・不合理さを説くのが王妃と王母と言う女性権力者たちと言うのは、王命に母称名をつけるサータヴァーハナの伝統の反映描写か、はたまた武人たちとの対比構造を意識する故か。
まあ、映画はサータヴァーハナ朝の政治・社会構造やその改革の様子にはあまり関心を払わず、あくまで殺し合いの不合理を家族劇の中に落とし込んで家族の分裂を国の分裂に例えて描き出すにとどまるものではあるけれど。
その、国を家族に例えて「母なるもの」を讃え敬うことでインド人そのものをも守ろうと言う愛国的メッセージへとつなげていく力強さのもと、その敵となるのが子供達を幽閉する残酷な王ナハパーナ(*16)であり、インドに侵攻してくるインド・グリーク朝の王デメトリオス(*17)となるのは、象徴的でわかりやすい構図。
とは言え、実際にガウタミープトラ・シャータカルニが残した碑文に「サカ人、ギリシャ人、パルティア人を滅ぼした」と言う記述があると言うので、サカ人の王朝 西クシャトラパを中盤の敵として、ギリシャ人、パルティア人と言う外国人勢力をインド・グリーク朝に照合させて後半の敵に使っていると考えれば、ある程度は史実を基にした物語構成と言っても通る…か?
当時、ほぼ勢力的には無視されるほどに小規模になっていたか消滅していたらしいインド・グリーク朝を強大な敵として登場させているのは、愛国テーマ故であると同時に、そうした史料記録から想像たくましく補強された存在として描いているからと言うのも、ある意味ではインドと西洋とのヘレニズム的な歴史・文化のつながりの反映を見るようでもある。史実として、ローマとの交易もサータヴァーハナ朝の繁栄の一翼を担っていたと言う欧州〜西アジアとインドのつながりを、こんな形で見ることができるのも一興かもしれない(*18)。特に、歴史資料が乏しくその詳細がほとんどわからないインド・グリーク朝のギリシャ人たちの動向を、物語の中で再構成している映画なんて、歴史を考える中では貴重なものになるんでなかろか(探せば、他にもあるかも)。
ヴェーダ文献では「ダユス(*19)」とされたアーンドラ人の壮大な歴史絵巻となるガウタミープトラ・シャータカルニの時代は、アーンドラ人のみならず、その周囲の遊牧民や南インド系の王国群、さらにその外に広がるギリシャ人やパルティア人たちの、大きな世界史の中ではあまり注目されないながらも、さまざまな交流のもとに多様な歴史を渦を紡ぎあげている頃でもある。
そんな、あらゆる価値観が渦巻く人々の交流の歴史が、この映画をもとにもっといろんな角度で注目されるきっかけになったりとかしないかな、とか色々と期待したくなるほどにはボリューミーで魅力的な作品でありますことよ。
挿入歌 Mrignayanaa
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受賞歴
2018 Cinegoers Awards 主演男優賞(ナンダムリ・バラクリシュナ)・監督賞・台本ライター賞(サイ・マーダヴ・ブッラ)
2018 Santosham Film Awards 主演女優賞(シュリヤー・サラン)・台本ライター賞(サイ・マーダヴ・ブッラ)
2018 SIIMA(South Indian International Movie Awards) 批評家選出テルグ語映画主演男優賞(ナンダムリ・バラクリシュナ)
2019 TV9 Natinal Film Awards テルグ語映画作品賞・テルグ語映画主演男優賞(ナンダムリ・バラクリシュナ)・テルグ語映画監督賞
「GS」を一言で斬る!
・バーフバリ にも出てきたけど、こっちでも登場する「クンタラ」と言う南インドの国名(民族名?)の語義と由来はなんじゃらほい?
2024.5.3.
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