Gajini 2005年 185分 その日、医学生チトラは、脳科学の課題で特殊記憶障害のサンジャイ・ラーマスワーミーの症例研究を選ぶも、教授から「止めなさい。彼は医療ケースではなく、刑事ケースだ」と拒否されてしまう… サンジャイ・ラーマスワーミー。脳の傷害によって彼の記憶は15分しか持続しない。 その彼が、発症の原因となったある人物を捜し出そうと、その関係者を襲撃・殺害する事件が続いていた。サンジャイは、15分で失われる記憶を補充するために、自身が追う目標や目的、自宅の場所やこれまでの自分の探索ルート・成果を逐一写真や身体中の刺青で残していく。その記憶の復元に、大きな苦痛が伴おうとも…。 彼の起こす殺人事件を捜査する刑事は、ついに彼の自宅を発見し格闘の末彼を捕縛する事に成功するが、そこで見つけた日記帳から彼の過去を知る…。 ******** 2002年。サンジャイは、大手携帯電話会社エア・ボイス社長として世界を股にかけるビジネスマンだった。彼は、自分の恋人を騙るCMの端役女優カルパナの嘘ニュースに抗議に出向くも、彼女の明るさ・困った人を手助けする素直さや行動力を目にして恋に落ち、以降"売れない役者マノハール"を騙って彼女と付き合うようになって、幸せな日々を過ごすようになる…。 挿入歌 Rahathulla (ねえ、魅力的な君) *ヒロイン カルパナ演じるアシンの初登場シーンを飾る、彼女の魅力全開のPVシーン! 05年に大ヒットしたタミル語(*1)サイコサスペンス・アクションの傑作! 色々に解釈されてるようだけどタイトルの語義は、11世紀に北インドへの征服行を何年も繰り返し、ついに北西インドの征服・略奪に成功したガズナ朝(*2)、もしくはそれを指揮したガズナ朝最盛期の君主マフムード(*3)の不屈の戦いを、映画本編の主人公に例えたもの…らしい(*4)。 ハリウッドの「メメント」をアイディア元にしながら、物語は完全にインド様式に作り替えられた一大復讐アクション。当初、「Mirattal(脅迫)」のタイトルで企画がスタートしていたものの、主役オファーしていたアジスの降板によって一端凍結。再度、スーリヤを主役に迎えて現在のタイトルとして企画が再始動されたと言う。 同年にテルグ語吹替版が公開され(*5)、08年にはムルガダス監督とヒロインのアシンその他数人をそのままに、主演男優にアーミル・カーン、セカンドヒロインにジヤー・カーン、音楽にA・R・ラフマーンを迎えたヒンディー語版リメイクも作られ、大ヒットを飛ばす。 中盤まではヒンディー語版リメイクとほとんど同じで「ああ、最初から完成度の高い映画だったのねえ」と思いながら見てたけど、リメイクに際してアーミル自身が書き換えたと言う終盤のオリジナル展開は、ヒンディーよりもバイオレンス度高め。悪役の名前が、ヒンディーではタイトルから取られていたのに対して、オリジナルのこちらでは叙事詩ラーマーヤナから持ってきてるあたり、映画構成そのものに復讐劇やバイオレンスに対するカタルシス以上に、寂獏感やアイロニーが組み込まれている感じ(*6)。 これ1本をきっかけに、活躍の場を大きく変えたヒロイン カルパナ演じるアシン(・トットゥムカル)は、1985年ケーララ州コーチン(現コーチ)のカトリック(*7)の家生まれ。父親は元大企業役員でビジネスマネージメント業を、母親は外科医をしている。 学生時代から父親の仕事の手伝いとモデル業を始める中、01年のマラヤーラム語映画「Narendran Makan Jayakanthan Vaka(ナレンドランの息子、ジャヤカンタンの土地)」で映画デビュー。03年にはテルグ語映画「Amma Nanna O Tamila Ammayi(父さんと母さんと、タミル人の彼女と)」で主演デビューして、フィルムフェア・テルグ語映画主演女優賞を獲得。翌04年には、そのタミル語リメイク作「M. Kumaran S/O Mahalakshmi」でタミル語映画デビューして以降、主にタミル語映画界で活躍。"クイーン・オブ・コリウッド"とも呼ばれていた。本作公開の05年には、他に3本のタミル語映画+テルグ語映画1本にも出演している。 08年、本作のヒンディー語リメイク作「Ghajini」に主演してフィルムフェア新人女優賞と主演女優賞ノミネートを獲得。これを期に活動拠点をムンバイに移し、ヒンディー語映画が主な活躍場所となっているよう。 セカンドヒロイン チトラを演じたのは、1984年カルナータカ州ベンガルール(*8)生まれの女優兼モデル兼プロデューサーのナヤンターラー(*9)。 両親共にケーララ州サーウーバラ出身のカトリック(*7)で、父親はインド空軍所属。幼い頃からジャームナガルやデリーなど北インドで育ち、両親の故郷サーウーバラの高校に進学。そのままサーウーバラの大学で英文学を専攻しつつモデル業を始め、そこで知り合った映画監督サティヤン・アンティカッドの03年マラヤーラム語映画「Manassinakkare(心を越えて)」で映画デビューし、アジアネット・フィルムのニューフェイス・オブ・ジ・イヤーを獲得。 05年に「Ayya(主人)」でタミル語映画に、06年には「Lakshmi」でテルグ語映画にもデビュー。以降、タミル語映画を中心に南インド映画界で活躍している。日本公開作では、ラジニカーント主演映画「チャンドラムキ(Chandramukhi)」に出演してるので要チェック! 近年では、11〜12年の振付師兼映画監督のプラーブデーヴァとの略奪愛結婚と破局、ヒンドゥー教への改宗などでも世間で騒がれていたよう。 監督と共に脚本兼原案を務めたAR・ムルダガドス(本名ムルガドス・アルナサラム)は、1977年タミル・ナードゥ州カルイデイカーチ生まれ。本名の"アルナサラム"は姓ではなく父称名。 学生時代からものまね芸や絵画などのイベントに参加して、脚本家を目指してマドラス映画研究所の試験を受けるも不合格に。しかし、なお映画界への売り込みを続けて脚本アシスタントや台詞補、助監督、端役出演などで働き、知り合いとなった映画監督兼プロデューサー兼役者のS・J・スルヤの協力を得て、01年のタミル語映画「Dheena」で監督&脚本家デビュー。3本目の監督作となる本作で、タミル・ナードゥ州監督賞を受賞し、06年には「Stalin」でテルグ語映画にも監督デビュー。さらに、08年のヒンディー版リメイク「Ghajini」で広く注目される名監督に成長している。 その後も、タミル語映画界で活躍しつつ、14年にはベンガル語映画「Game」で脚本を担当、ヒンディー語映画「Holiday」の監督&脚本、FOXスター・スタジオ配給でタミル語映画「Akira」を監督したりと多方面に活躍している。 困った人を助けずにはいられないヒロイン、ってのはインド映画にしょっちゅう出てくるキャラクターなんですが、本作のカルパナ役のアシンも軽快に、率直に、嫌味なくそんなキャラを演じてくれていて、初登場シーンを飾るミュージカル"Rahathulla (ねえ、魅力的な君)"から一気にその魅力を振りまいて観客をノセてくれる。物語上・演出構造上のさまざまな対立構造と共に、朴訥な、どこかあか抜けないサンジャイ役のスーリヤとの対比になって輝くアシンのオーラが、どこまで意図されて出て来ているものなのかが気になる所? アシン自身が、本作のカルパナ役を「私の人生を代表する役」と語るのに対し、チトラ演じるナヤンターラーが「出演を決めた事が大きな間違いだった」と語ったと言うのも映画の対比構造を増幅させるよう。なにしろこの2人、同じくケーララのカトリック家系生まれで(*10)、モデル業から映画界入りしてタミル映画界で活躍すると言う似たような境遇にあるから、余計になんか運命的なものを見てしまいそうになりますわ…。 挿入歌 Rangola Ola (ああ、色鮮やかな乙女よ [君とのキスで僕も色鮮やかになる])
受賞歴
「Gajini」を一言で斬る! ・時々仕込まれるムトゥやDDLJの音楽が卑怯。気になってしまうジャマイカ!!w
2016.3.18. |
*1 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。 *2 別名ガズニー朝。現アフガニスタンのガズニー州の州都ガズナを首都として、西〜中央〜南アジアに勢力を拡大したイスラム王朝。 *3 ガズナ朝7代目君主ヤミーン・アッダウラ・アブー・アッカシム・マフムード・イブン・セブク・テギーン。 *4 映画本編における、善悪の等価値化って意味も…ある? *5 1度、テルグ版リメイクのオファーがあったものの、監督自身が断ったとか。 *6 悪役の設定への分かりやすい伏線ってだけかもしれないけど。まあ主人公も"ラーマスワーミー(=ラーマ尊師の意)"だし。 *7 シリア=マラバル典礼カトリック。別名シロ=マラバル、ナスラーニーとも。インドで発達したキリスト教の東方教会。 *8 またはバンガロール。 *9 生誕名ダイアナ・マリアム・クリアン。 *10 年も1才違い! |