インド映画夜話

百発百中 (Ghilli) 2004年 168分
主演 ヴィジャイ & トリシャー
監督/脚本 ダーラニ
"売られたケンカは必ず買う…買った勝負には必ず勝つ!!"






 チェンナイの下町に住むカバディ狂なヴェルー(本名サラヴァナヴェルー。通称ギッリ)は、カバディ国内リーグ優勝を狙って今日もトレーニングの毎日。ランニング中にケンカを売ってくる敵チームの面々はボコり倒し、ゴロツキたちをふんじばる彼の人気は近所では絶大。

 しかし、そんなヴェルーを「ただの遊び人」と怒る警視副長官の父親シヴァスブラマニアンは、彼にさっさとカバディを止めて真面目に進学・就職してもらいたいと説教を繰り返す日々。
 ある日、説教の中で親戚の結婚式に家族代表で行って来いと命令されたヴェルーだったが、言う事を聞くふりをして同じ日にあるカバディの試合に行こうと決意。だが、そんな彼が途中下車したマドゥライの街は、地元とは比べ物にならないくらい危険な所。白昼堂々殺人が起こっても、だれもが犯人を見て見ぬふりをするのだ!!
 その犯人、大臣の息子ムトゥパンディは、最近ご執心の美女ダナラクシュミーとの結婚を希望し、それに反対する彼女の兄たちを殺していた所。大臣一家には逆らえないマドゥライにて、結婚を嫌がるダナラクシュミーは両親の手助けで密かに逃げ出すのだったが、彼女は結局ムトゥパンディに見つかって無理矢理彼の家へ連れて行かれようとしていた…!!
 泣き叫ぶダナラクシュミーを前にしても誰一人ムトゥパンディに意見しない街の連中を目撃したヴェルーは…!!


挿入歌 Soora Thenga



 本作は、2003年のテルグ語(*1)映画「Okkadu(ザ・ワン)」のタミル語(*2)リメイク作。元映画と同じ悪役を、プラカーシュ・ラージが再度演じている。
 公開後、マラヤーラム語(*3)吹替版、ヒンディー語(*4)吹替版「Keertimaan」も公開された。日本では、2016年に、インド映画同好会で上映。2019年にはインド大映画祭でも上映。2024年には、4K版が埼玉県にて自主上映(英語字幕)で上陸している。
 この映画は、タミル語映画史上、初めての50カロール(=5億ルピー)越えの成績を叩き出した人気作でもある。

 オリジナル版未見なのでなんとも言えないけど、本作の暴走マサーラー・アクションの派手なシーンの数々の爽快さはやたらカッコよく、後のサウスブームを受けたボリウッドの「ダバング」「チェンナイ・エクスプレス」で見たさまざまな演出も、ここに元があるのか! って感じのインパクト。
 よくあるヤクザ抗争ものに、インドの国技カバディを混ぜ込んだ所も新鮮で、カバディのルールがよくわかんない身ながら、スポ根&ヒーローアクションをコメディ仕立てに見せていく構成の歯切れの良さの爽快感と言ったらもう! "メロディ・キング"の肩書きを持つヴィディヤサガル担当の音楽もカッコEー!!

 まあそれにしても、ヤクザたちの人命軽視はいつもの事だけど、命を狙われてるヒロインが勝手に外を出歩いたり、そんなヒロインに激怒して平手打ちしたりする主人公もビックリながら、誘拐容疑の息子を前にして、祭の人込みも無視してピストルを水平に構える父親もビックリ。いつも悪役親父を演じるアシーシュ・ヴィディヤルティは、登場シーンの「わあ、ワルそ」なオーラに反して家族思いのいい父親役ながら、堅物警官故に事件の当事者になった息子を許せない気持ちの現れとしてのシーンなんだろうけど…けど…、その態度は警察としてどうなのー!!w

 監督兼脚本を担当したダーラニ(本名V・C・ラマニ)は、1999年のタミル語映画「Ethirum Pudhirum」で監督デビューした人。この映画のヒットによってタミル・ナードゥ州映画賞の次席作品賞を獲得。これに続いて、01年の「Dhill(度胸)」も大ヒットを記録してヒットメーカー監督となっていく。
 本作は4作目の監督作であり、自身の代表作の1つ。この後、06年に「Bangaram(黄金)」でテルグ語映画にも監督デビューしている。

 本作の撮影は、ほとんどがチェンナイとその周辺で行なわれたものの、劇中に登場するマドゥライのミーナクシー寺院前や、ガネーシャ祭(ヴィナヤーガル・チャトゥルティ)は、実際にその現場で撮影されたものとか。タミル第2の都市と言う古都マドゥライが、物語上ではヤクザが跋扈する治安最悪な場所として描かれてたけど、大丈夫だったのかなあ…w

 基本がマサーラー・アクションに加えてコメディな段取りで進む物語のせいか、わりと強引な所は多々あるも各登場人物たちの愛嬌がこれでもかと発揮されて、見ていて可愛い楽しい映画になっている。
 もはや安心の存在感を発揮する主役2人と共に、主人公の家族たちの丁々発止の日常会話、悪役ムトゥパンディのどこまでも一途な恋心となんかよくわからん必殺技もナイスであります。濃いい濃いい登場人物たちそれぞれに見せ場がある故に、見てる側は自分の好みの視点で映画の中に入り込める感じな作りなのが、スンバラしか!


挿入歌 Sha La La




受賞歴
2004 Filmfare Awards South タミル語映画悪役賞(プラカーシュ・ラージ)・ダンス振付賞(ラジュー・スンダラム)
Madras Corporate Club Awards 主演男優賞(ヴィジャイ)
Dinakaran Awards 主演男優賞(ヴィジャイ)・悪役賞(プラカーシュ・ラージ)
Film Today Awards 主演男優賞(ヴィジャイ)




「百発百中」を一言で斬る!
・天井から忍び込んでベッドの上に降りる時は、頼むから靴は脱ごうよ…(そしてなんで子供部屋が、あんなに広いのー!!)。

2016.10.22.
2024.4.14.追記

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*1 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*2 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。その娯楽映画界は、製作拠点のチェンナイはコーダーンバーッカムにかけて"コリウッド"と俗称される。
*3 南インド ケーララ州の公用語。
*4 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。