インド映画夜話

ハッピーただいま逃走中 (Happy Bhag Jayegi) 2016年 126分
主演 ダイアナ・ペーンティ & アバイ・デーオール & アリー・ファザル
監督/脚本/原案/台詞 ムダッサル・アズィーズ
"じゃあ、ハッピーはどこ行ったんだ!?"
"彼女は…逃げ出しました"




 アムリトサルに住むハッピー(本名ハルプリート・カウル)はその夜、親の決めた婚約者ダマン・シン・バッガと結婚させられることに反発して、恋人グッドゥとの駆け落ちを実行する。
 …が、ハッピーが逃げ出した先はグッドゥが用意したものとは別のトラック。そのトラックは、飛び込んだ際に気絶してしまった彼女を連れて、はるばる国境を越えてパキスタンのラホールに到着してしまった…。

 翌朝。政治家の父親から将来を期待されるビラール・アーメドは、玄関先の荷物からいきなり現れたハッピーに仰天。インドからパスポートもビザもなく、ラホールの政治家の家にやって来てしまったインド人の扱いに家中が四苦八苦する中、ハッピーは無我夢中で街中へと逃げ出してしまったからもう大変!!


プロモ映像 Happy Oye


 意に沿わない結婚から逃げ出した現代っ子主人公が起こす、国境を越えたドタバタ騒ぎを描く大ヒット・ヒンディー語(*1)コメディ映画。
 2018年には、続編「Happy Phir Bhag Jayegi (ハッピーまたまた逃走中)」も公開予定。
 日本では、2017年のIFFJ(インディアン・フィルム・フェスティバル・ジャパン)にて上映された。

 スニーカーを履いた花嫁衣装のヒロインが走り出す、印象的なヴィジュアルで大体の展開は予想される話ながら、印パを越えた友情や愛情、口から先に生まれたようなインド人&パキスタン人たちの小気味好い啖呵の応酬、マルチスター出演の誤解が誤解を呼ぶドタバタ劇と、テンポの良い軽快なストーリーに良い人ばかりのハートウォーミングなまとまりが美しい一作。

 インド人とパキスタン人の文化的ギャップとそれ以上に強調される共通性を笑い飛ばしつつ、双方の良心的交流によってみんなが"ハッピー"になる様を、軽快な音楽と共に魅せていく展開の楽しさが可愛い。本作公開以降、どんどんギスギスしていく印パ対立具合を見ていると、余計にこういう映画の楽しさが貴重で大切な感じに見えてしまうのが、良いんだか悪いんだか。ホントにもう…。
 主人公ハッピーを始め、とにかく饒舌でトラブルに遭っても口先八丁で相手を言いくるめ、自分のペースに引き込んで問題を踏み倒す登場人物たちのエネルギッシュさが頼もしく、見習いたいもんですよ。映画でしか知らないけど、インド人(+パキスタン人)はとにかくへこたれる前に散々しゃべくり倒して事態を好転させる天才よね!(*2)

 小気味好いチャキチャキ娘ハッピーを演じたのは、1985年マハラーシュトラ州ムンバイ生まれのモデル兼女優ダイアナ・ペーンティ。
 父親はパールシー教徒(*3)で、母親はクリスチャンだそうで、彼女自身はクリスチャン系の学校で育ち、大学でマスメディアの学士号を取得している。
 学生時代にファッションモデルのバイトを始めたことをきっかけに、モデル業界で活躍。そこから映画界からのオファーを受け、色々な調整の末に2012年のヒンディー語映画「カクテル(Cocktail)」で映画&主役級デビュー。BIGスター・エンタテインメント新人女優賞を始めいくつかの映画賞を獲得して大きな話題を呼んでいた。
 本作は、4年の沈黙の後の2作目の映画出演作で、Luxゴールデン・ローズ・ブレイクスルー・オブ・ジ・イヤー賞始めいくつかの映画賞にノミネートされていて、これ以降映画出演を増加させている。

 ハッピーを助けるパキスタン人政治家の卵ビラール・アーメドを演じるのは、1976年パンジャーブ州チャンディーガル(*4)のシーク教徒家庭に生まれた、アバイ(・シン)・デーオール。
 有名な映画俳優ダルメンドラを叔父に持つ、俳優一族デーオール家の一員。さらに、親戚に映画監督グッドウー・ダノア、俳優ランミー・ディロンやヴェーレンドラなどがいる。
 本人曰く、映画一族の親戚のために当初は映画界に興味を持てなかったものの、学生時代に演劇にのめり込んで俳優業に興味を持ったとのことで(*5)、ムンバイの大学を卒業後に米国留学して演技を学び、05年のダルメンドラ プロデュースのヒンディー語映画「Socha Na Tha」で映画&主演デビューする。
 07年の「Manorama Six Feet Under」でいくつかの主演男優賞を獲得。09年の主演作「Dev.D」では原案コンセプトにも参加し、11年の出演作「人生は一度きり(Zindagi Na Milegi Dobara)」で歌手デビュー。14年の「One By Two」では出演の他プロデューサー補も兼任している。

 ハッピーの恋人グッドゥ役には、1986年ウッタル・プラデーシュ州ラクノウ生まれのアリー・ファザル。
 幼い頃から母方の祖母の家で育ち(*6)、バスケと演劇に熱中した後ムンバイの学校で経済学の学士号を取得。08年の印米合作映画「The Other End of the Line」に特別出演した後、09年に映画祭上映された「Ek Tho Chance」(*7)で本格的に映画デビュー(*8)。「きっと、うまくいく(3 Idiots)」の出演(ジョイ・ロボ役)を経て、11年の「Always Kabhi Kabhi(いつも、どこでも)」で主演デビューする。ヒンディー語映画以外では、15年のハリウッド映画「ワイルド・スピード SKY MISSION(Furious 7)」に出演、17年の「Victoria & Abdul」に主演している。

 ビラールの父親や婚約者ゾーヤーには、パキスタン人俳優ジャベード・シェイクーとモーマル・シェイクー父娘がキャスティングされ、制作上でも印パ共同でその垣根を乗り越える"ハッピー"を作り上げている本作。撮影でもパキスタンロケが計画されていたという噂があるものの、ロケ自体はアムリトサルとチャンディーガルでほとんどのシーンを撮っていたそう。

 ハッピーのキャラクターとしての強さも魅力的ながら、それをサポートする周辺のインド人・パキスタン人の人の良さが、人情劇としてよりお話の魅力を増幅させてくれて美しい。特に、ハッピーとグットゥを助ければ助けるほど、その両者の魅力に取り憑かれていくビラールとゾーヤーの適度に引いた目線の描き方が絶妙で、恋愛劇としてもコメディ劇としても人情劇としても楽しめる重層さ。コメディの作り方自体は、ボリウッドによくあるセリフ劇中心のドタバタから一歩も出ないとはいえ、それぞれに登場人物のキャラが立ちまくってる絵面がおかし楽しい愉快な作りなので、そのプロフェッショナルな仕事ぶりも一度見て損はない映画になっておりますことよ!
 その人気ぶりから続編もダイアナ主演で制作されていると言う事で、ダイアナ・ペーンティ演じる代表キャラになるかもしれないパワーを持つ"ハッピー"は要チェックですゼ!!

ED(用プロモ映像) Gabru Ready To Mingle Hai



「ハッピーただいま逃走中」を一言で斬る!
・サルマン主演作『Bajrangi Bhaijaan(バジランギー兄貴と)』では、パキスタン行きのビザを取るのは難しいって話してたけど、こっちではみんな割とサクッと取ってるよね!

2018.6.29.

戻る

*1 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
*2 お話だからね、とツッコんではいけな…い?
*3 イラン系ゾロアスター教徒。
*4 マハラーシュトラ州ムンバイ生まれとも。
*5 ホンマかいな。
*6 のちに両親は離婚している。
*7 一般公開は15年。
*8 同じ年に、TVドラマシリーズ「Bollywood Hero」にもレギュラー出演している。