インド映画夜話

ヒーロー気取り (Heropanti) 2014年 146分
主演 タイガー・シュロフ & クリティ・サノーン
監督 サッビール・カーン
"さあ、怒り、勇敢に、反抗して、狂ったように、クールに行こうぜ"




 ハリヤーナー州のジャート族(*1)の村を支配する一族の長チョウドリー氏は、娘レーヌーが結婚式直前に家族非公認の恋人ラケーシュと駆け落ちしたと聞いて激怒。弟たちを使って、2人の行方を徹底的に探らせる。

 この2人の逃亡を手助けしたとして、デリーに住むバブルーとその友達2人(+ロンドンから来たキキ)が誘拐されてくるが、「すぐに逃げ出さないと俺たちの命がヤバい」と焦る友達たちを尻目に、バブルーはデリーで一目惚れしてこの村でも見かけた誰とも知れない美女のために逃亡をやめると言い出した!
 そのバブルーが一目惚れした美女とは、実はチョウドリー氏の次女ディンピィ(本名ディンプル・チョウドリー)だった。彼女は、姉のせいで自分が自宅軟禁状態にさせられ大学にも行けなくなってる事を嘆き、倉庫に閉じ込められているバブルーたちに姉の行方を語らせてしまおうと近づいて行くが…。


挿入歌 Whistle Baja


 2008年のテルグ語(*2)映画「Parugu(走れ)」の、ヒンディー語(*3)リメイク作。
 大型新人俳優タイガー・シュロフの映画デビュー作で、クリティ・サノーンのボリウッドデビュー作(*4)。
 日本では、2016年(?)頃にNetflixにて「ヒーロー気取り」のタイトルで配信。

 元映画は、本作の他に2010年にオリヤー語(*5)リメイク作「Sanju Aau Sanjana」が、同年にベンガル語(*6)リメイク作「Shedin Dekha Hoyechilo」も作られている。

 まあ、なんといっても主役演じるタイガー・シュロフ&クリティ・サノーンのお披露目映画と言った感じで、お話的に特に目新しいものはないけれど、やたらとキレのいい身体能力を見せつけるタイガーのアクションとダンスはこの時から健在。クリティの美貌も存分に映画内で発揮されていて「この2人をよろしくお願いしまっせ!」って声が画面全体から聞こえてくるよう。

 予告編で見せてくれる超絶アクションはとことん凄いながら、映画としてはアクション主体というよりシュチュエーションコメディ色が強く、アクションは要所要所でまとめて入れてきてる感じなのが「あれ?」って感じではある。まあ、まだタイガー・シュロフの表情芝居が硬い感じがあるのもあって、スタッフ側からの特訓の意味と「これくらいだったらできるでしょ?」って手探りな作りになってる感じでしょか。ダンス&アクションは、さすがリティックを目指してたというだけあって相当なレベル。映画撮影前に、約3年を費やして肉体改造したっていう筋肉の見せびらかしさまは、やたらサマになっていますことよ(*7)。

 監督を務めたサッビール・カーン(またはサビル・カーン)は、男優兼作詞家の父ノール・デワーシーの影響で幼少期からヒンディー語映画界に慣れ親しんでいたという人。
 広告界で短期間働いた後、09年のヒンディー語映画「スタローン in ハリウッド・トラブル(Kambakkht Ishq)」で監督&脚本デビュー。本作が2本目の監督作となり、続く16年の「Baaghi(反抗)」、17年の「ムンナー・マイケル(Munna Micheal)」と3本続けてタイガー主演の映画を監督し続けている。

 元映画未見なので比較できないけど、冗長なコメディ劇が進行する中で強固なジャート・コミュニティの氏族社会の有様をプラスマイナス両面で描いていく様は、本作のそれなりの刺激的なポイント。
 親の決めた見合い結婚から逃げ出したカップルを、村の名誉のために一族をあげて殺しに行こうとする名誉殺人の有様、その周囲で展開する女性蔑視・性犯罪の横行具合を批判的なメッセージとして挟んで、かつそこに表される父親側の間違った愛情が絡んでくる。この父親の娘を思う愛情が、後半になっていくと主人公のヒロインへの愛情と等価値化されていき、間違っているとはいえ子を思う親の愛情の純粋さにおける「父性」の発揮が、愛するが故にヒロインにせまる危険を暴力的に解決する主人公の「ヒーロー性」と対照的な関係になっていくことでタイトルの「ヒーロー気取り」の意味に多重な読み取りが可能になっていく。
 チョウドリー氏の「父性」も主人公の「ヒーロー性」も、方向性次第によっては危うい爆弾にもなり、問題解決の神の一手ともなり得る。娯楽映画で多用されるヒロイズムやダンディズムへの問題定義になっていたり……しないよなあ、この軽いノリのコメディ映画では。むぅ。終わり方が、わりとかるーく「ちゃんちゃん」ってなってるところが良きかな。

ED The Pappi Song


受賞歴
2014 Stardust Awards 明日のスーパースター男優賞(タイガー・シュロフ)
2014 Star Box Office India Awards 男優デビュー・オブ・ジ・イヤー賞(タイガー・シュロフ)
2015 BIG Star Entertainment Awards 娯楽映画スター女優賞(クルティ・サノーン)・娯楽映画スター男優賞(タイガー・シュロフ)
2015 Filmfare Awards 女優デビュー賞(クルティ・サノーン)
2015 IIFA(International Indian Film Academy) Awards 女優デビュー・オブ・ジ・イヤー賞(クルティ・サノーン)・男優デビュー・オブ・ジ・イヤー賞(タイガー・シュロフ)
2015 Star Guild Awards 女優デビュー賞(クルティ・サノーン)・男優デビュー賞(タイガー・シュロフ)
2015 Screen Awards 期待の新人賞(タイガー・シュロフ)
2015 ETC Bollywood Business Awards 最高収益新人男優賞(タイガー・シュロフ)
2015 Lion Gold Awards 男優デビュー賞(タイガー・シュロフ)


「ヒーロー気取り」を一言で斬る!
・2016年の【ピンク(Pink)】に先駆けて、性犯罪者に対して『NOはNOだ』と啖呵切ったヒーローがここにいた。エラい!

2021.7.17.

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*1 現パキスタン南部シンド地方を起源とする、18世紀に北インドで勢力を拡大した農耕民族。





*2 南インド テランガーナー州とアーンドラ・プラデーシュ州の公用語。
*3 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。その娯楽映画界は、俗にボリウッドと呼ばれる。
*4 クリティ自身の映画撮影の順番では、本作が最初の映画出演作だそうだけども。
*5 東インド オリッサ州の公用語。
*6 北東インド 西ベンガル州とトリプラ州の公用語。
*7 しかし、表情の硬いニヤケ顔がそれを無効化してしまうマイナスポイントで…oh。