インド映画夜話

私たちの予感 (Jab Harry Met Sejal) 2017年 144分
主演 アヌーシュカ・シャルマー & シャー・ルク・カーン
監督/脚本 イムティアーズ・アリー
"探し物はなんですか? それもきっと、君を探していますよ!"




 毎日ヨーロッパを飛び回る、プレイボーイ気取りの観光ガイド ハリー(本名ハリンダル・シン・ネーフラー)は、その日ようやくヨーロッパ一周コースの団体客とアムステルダムの空港で別れて一安心。

 だが、仕事を終えて帰ろうとしたその瞬間に、客の一人セージャル・ザヴェーリが戻ってきて「婚約指輪をなくしたの。昨日婚約式をやったホテルまで私を連れてって」と言い出したからさあ大変。「もう仕事は終わったから、関係ない」で振り切ろうとした彼を「協力してくれないなら訴えるわよ」と脅す法律の専門家セージャルは、ホテルでも見つからない指輪を追ってハリーが案内してきたコースを逐一巡りなおそうと言ってくる…!!


挿入歌 Radha (貴方が愛するラーダになろう)


 シャールク&アヌーシュカ、3回目の主演での共演となるヒンディー語(*1)・ロマンス映画。
 製作は、シャールク夫婦の自社プロダクションであるレッド・チリーズ・エンタテインメント。

 インドより1日早くアラブで、インドと同日公開でベルギー、デンマーク、英国、インドネシア、オランダ、ノルウェー、パキスタン、米国などでも一般公開されたよう。
 日本では、2017年にSPACEBOX JAPAN主催で東京と大阪にて英語字幕による自主上映が行われた。その後、Netflixにて「私たちの予感」のタイトルで配信。

 英訳タイトル「When Harry Met Sejal」&Netflixの邦題が、89年のハリウッド映画「恋人たちの予感(When Harry Met Sally… )」に似ているけど、なにか関係がある…? と思って見てたけど、男女の掛け合いによって進むロマンス劇という点のみ共通するだけで、全く別の映画でありました(*2)。

 ロマンス映画を多く手がける名匠イムティアーズ・アリー監督と、ボリウッド・ロマンス映画のキングでもあるシャー・ルク・カーンの初タッグとなった映画ながら、わりと全編肩の力の抜けた軽快で小洒落たロードムービーでありデートムービーになってる感じ。
 最近のボリウッドの傾向に比して、かなりの量の挿入歌が投入されてるあたり、歌主導のラブロマンス映画、と捉えてもいいかもしれない…感じ?
 ラスト以外はインドの風景は(ほぼ)登場せず、アムステルダム、プラハ、ブダペスト、リスボン、フランクフルトと、ヨーロッパの観光都市(*3)を背景に男女二人が衝突しつつ距離を縮めていき…と説明すると特に意外性のない手堅い構成の映画ではある。
 主演のアヌーシュカ&シャールクも、いつも通りと言えばいつも通りなパフォーマンスを発揮し、観客が求めるものを素直に出してくる「分かってますよ。こう言うのが見たいんでしょ?」なベーシック感が、落ち着いたラブコメ劇を堅実に盛り上げる。「こんな相手と、ヨーロッパ旅行できたら楽しいだろうね」をそのまま映像化したような映画ですわ。無駄に胸を開けたファッションを維持するシャールクと、目をまん丸くむき出すアヌーシュカの魅力全開っぷりがスンバラし。

 企画当初は、自殺を考えている男主人公の話だったそうだけど、いつも通りのチャラい観光ガイドとわがまま娘のコンビに変更となったことで、そんなに重い話にもならず、変に詩的な映画や哲学的問答に偏るでもなく、風光明媚な観光地の景色とともに気軽に楽しめるラブコメに仕上がってるのは、プロの仕事ぶりってやつでしょか。
 相変わらず、間抜けな白人や嫌味な白人も登場するとはいえ、基本観光地にやってきたインド人をしっかり迎え入れてくれる洗練された都会人として描かれるヨーロッパ人への憧れめいたものもキッチリ入れてありつつ、それでも「やっぱりインドが最高」で締めてくるのが上手いと言うかズルいというかw そんな中で、不法入国してるインド人たちのダメダメさが話をこんがらがらせてるのもナイス。
 ハリウッドやヨーロッパの映画なら、ラスト20分は描かれないまま、ヨーロッパロケだけで終わらせるよなあ…それはそれで美しい映画にはなると思うけどねえ…と思わないでもないけれど、そこをキッチリとオチつけてくれるところがインドらしさでございましょうか。そりゃ、プラハの早朝に盛大に大声でパンジャーブソングを歌いたくなっちゃうよね!

挿入歌 Beech Beech Mein (時々は)


受賞歴
2017 FOI Online Awards 男性プレイバックシンガー賞(アリジット・シン / Hawayein)
2018 Mirchi Music Award ソング・オブ・ジ・イヤー(Hawayein)・アルバム・オブ・ジ・イヤー(プリタム & イルシャード・カミル)・男性歌手・オブ・ジ・イヤー(アリジット・シン / Hawayein)・音楽コンポーザー・オブ・ジ・イヤー(プリタム / Hawayein)・作詞家・オブ・ジ・イヤー(イルシャード・カミル / Hawayein)
2018 IIFA(International Indian Film Academy) Awards 男性プレイバックシンガー賞(アリジット・シン / Hawayein)
Asian Customer Engagement Forum and Awards ソーシャル・メディア開発賞(Safar)


「JHMS」を一言で斬る!
・非英語圏のヨーロッパ諸国を周ってても、現地の人はしっかり英語(&ヒングリッシュ)を理解してくれるのね!

2022.8.27.

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*1 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。その娯楽映画界は、俗にボリウッドと呼ばれる。
*2 ヒンディータイトルは、当初「The Ring(指輪)」だったものが没になっていくつかのタイトルが候補に上がった後、シャールク主導によるネット上での賞金付きタイトル募集をかけた所、最初主演オファーされていたランビール・カプールが提案した「恋人たちの予感」にかけたタイトルが採用されたんだそうな。
*3 全部非英語圏ダネ!