インド映画夜話

Jil Jung Juk 2016年 136分
主演 シッダールタ(製作も兼任) & アビナーシュ・ラグーデーヴァン & サナント・レッディ
監督/脚本/作詞 ディーラジ・ヴァイディ
"世界で最も危険な3人だ。…オレが見た所な"






 時に2020年。世界は、マフィアたちの跋扈する無法地帯と化していた。
 インドの大半を牛耳る麻薬王ディーヴァ・ナヤガムが造った、コカインでコーティングされたピンクの軽自動車。この車の買い手になった中国マフィアへの密輸のため、共通性のない3人の男が選ばれる。
 口八丁で世間を渡り歩くトリックスターの賭博師ジル(本名ナンジル・シヴァージー)。
 手先の油断ならないこそ泥ジャング(本名ジャングリンガム)。
 気障でおバカで、暴走バス運転手の父をもつジャク(本名ジャガル・ジャガン)。

 車をアーンドラ・プラデーシュ州まで運べば大金が手に入ると、軽い気持ちで仕事を引き受けた3人は、自己紹介がてら軽口を叩き合いつつ旅を楽しんで行くが、このコカイン・カーをねらう影は警察だけではなく、事態は3人(+1人)のせいでいつの間にかメチャクチャな方向へ……。


プロモ映像 Shoot the Kuruvi



 タイトルは、主要登場人物3人の名前だけど、それぞれ「甲・乙・丙」、より正確に言うなら「良・可・不可」の意味とか。94年のシャンカル監督のタミル語(*1)映画「Kaadhalan(恋人)」の台詞からの引用タイトル。

 主演シッダールタのプロデュースでもある西部劇風コメディ映画で、特定のヒロインもコメディアンも(ヒーローも?)いない、話芸コメディ+マカロニウィスタンな、肩の力を抜けたゆるい系映画。
 当初、2015年のクリスマス公開の予定だったのが、チェンナイ洪水被災者支援のため、翌16年2月11日クウェート公開(インド国内では12日)まで公開延期されたと言う。

 いきなり冒頭から「時に2020年」と出てくるので「む? インド映画に珍しい近未来SF?」と思ったけど、マッドマックスや北斗の拳風の荒廃したなんでもあり世界が舞台ってだけで、ノリとしては現代劇でも西部劇でも成り立つ話ではありました(*2)。
 青髭ならぬ青髪(*3)のシッダールタが強烈でありますが、映画スターは彼と悪役他の特別出演枠をのぞけば、新人か若手スタッフで固めた新人育成映画…って感じもある。監督を務めたディーラジ・ヴァイディは、12年の短編映画「Padma Vyuham」に続き本作で商業映画デビューした人だそうで、監督・脚本の他、作詞(Red Road-U)も担当してるとか。ジャング役のアビナーシュ・ラグーデーヴァンは、この監督の短編映画出演から、14年の「Arima Nambi」を挟んでの本作出演なんだそう。

 基本的に話芸ドタバタコメディなので、その早口のタミル語への理解が必須って感じの映画ではあるものの、バタフライ・エフェクトの名のもとに突然事態が転換することがどの瞬間でも了承され、いきなりの絶体絶命や起死回生が、予想外な方向からやってくる楽しい映画で、その画面構成・視覚効果のバラエティも見物。
 とにもかくにも、主役シッダールタが楽しそうに作ってるのがこれでもかと伝わってくるのが見ていて微笑ましい佳作なわけですが、そこまで予算かかってなさそうな企画でもドカンドカン盛大に車ぶっ壊すし、煙幕は上がるし、ヘリコプターは暴走するし、次々と変わる荒野&閉鎖空間の舞台の中で登場人物が暴れ回るわで、つくづくインド映画界の元気の良さが羨ましい。多少の無理無茶がなくっちゃ、映画なんて楽しくなんないよね、ってネタ振りに正直に答える映画構成に万歳!
 そしてなにより、この映画を魅力的にしているのは、主役3人(+悪役3人)の丁々発止の演技力と、音楽監督ヴィーシャル・チャンドラシェーカルのノリノリ音楽の数々! 何度でもヘビロテしてしまう、常習性の高さがハイになっちまって…ヤバいぜ!!


挿入歌 Red Road-u







「JJJ」を一言で斬る!
・OPの本編シャッフル映像の中で、一瞬鳥居めいたシルエットが出てくるけど、中国マフィアとの取引と言う話のためのイメージだから……なんだろうなあ、きっとw

2016.3.4.

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*1 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。
*2 どっかの解説に"curry western"とか書いてありましたっけ。
*3 青い蝶、青文字CGとともに、神意=デウス・エクス・マキナ的な象徴色?