別題「The State vs Jolly LL.B 2 (国 vs 弁護士ジョリー 2)」。
同じくスバーシュ・カプール監督による、2013年のヒンディー語(*1)映画「Jolly LLB (弁護士ジョリー)」の続編。
裁判長役のサウラブ・シュクラーとバラナシのグル・ジー演じるサンジャイ・ミシュラーのみ続投で、その他の登場人物は全て一新されて、前作との物語的つながりはない(*2)。その大ヒットにのって、シリーズ3作目の企画もあるとかないとか。
独立のために手段を選ばないダメ弁護士ジョリーの、ハチャメチャな活動から始まる映画は、コメディ的に描かれるカンニング指導やら裁判官への侮辱演技なんかで主人公の強引な性格を描いていく事が以降の伏線になっていくんだけど、「ロボット(Enthiran the ROBOT)」とかでもテストのカンニング行為で笑いを取ってたけなあ…と、つかみはOK的なその定番コメディ要素がニントモカントモ。
そんな常識破れな主人公が、自身の行為によって起こる取り返しのつかない顛末を悔い、そこから始まる原告不在の公益訴訟を通して、インドの公権力にはびこる不正・人命軽視・腐敗の有様を露わにしていく。自身の欲望に忠実な庶民な凡人が、一念発起して社会を変えていく様は、その重すぎる業ゆえの目覚めではあるものの、そのまま正義に目覚められてもなあ…と思っていれば、相手はより以上の極悪人が勢ぞろいだし、最終的にいいとこ持っていくのはサウラブ・シュクラー演じる裁判長の演説だったりする所も、心得た演出すぎてニクい。
事件の背景にある公権力腐敗・寡婦問題・カシミール問題も交えて、警察も政治も頼りにならないインドの現状に対し「裁判所だけは皆が頼りにして来る場所である」と断言するインドという社会の持つ「法治主義」への信頼とそれを裏切るまいとする心情が、映画のように社会を良き方向へと変えていってほしい…と願わずにはいられないインパクトある一本となっている(*4)。
監督を務めるスバーシュ・カプールはニューデリー出身。
ヒンディー文学の修士号取得後、政治記者として働き出す中、00年代に入って短編映画、ドキュメンタリー、CM制作を手がけ、06年にムンバイに移住して本格的に映画制作に着手。07年のヒンディー語映画「Say Salaam India」で長編映画監督デビューを果たす。続く10年の「Phas Gaye Re Obama(オバマ、俺たちは閉じ込められたよ)」がそこそこのヒット作となった後、3本目の監督作である「Jolly LLB」が大ヒットを飛ばしてフィルムフェア原案賞と台詞賞を獲得。
しかし、14年に女優ギーティカー・タイヤーギーが監督から直接の暴力と性暴力を受けたと告発され逮捕(ののち即保釈)。本作以降、映画界から一旦距離を置かれているよう(19年現在)。
ジョリー役のアクシャイとともに映画の顔となっている裁判長スンデルラール・トリパティを演じているのは、1963年ウッタル・プラデーシュ州ゴーラクプルに生まれたサウラブ・シュクラー。
母親はインド初の女性タブラ奏者ジョーガマーヤー・シュクラー。父親は歌手シャトルガン・シュクラーになる。
2才の頃にデリーに家族で引っ越して、デリーの大学に進学する中で舞台演劇に参加。91年にはNSD(国立演劇学校)レパートリーカンパニーに籍を置き、94年のヒンディー語映画「女盗賊プーラン(Bandit Queen)」で映画デビュー。男優活動と並行して、98年のラーム・ゴーパル・ヴァルマー監督作「Satya(真実)」ではアヌラーグ・カシュヤプとともに脚本を担当して脚本家デビューし、スター・スクリーン脚本賞を獲得。以降、ヒンディー語映画を中心に男優兼脚本家として活躍し、00年の出演作「Hey Ram」タミル語(*5)版でタミル語映画デビューした他、05年の「Balu ABCDEFG」でテルグ語(*6)映画に、翌06年の「Care of Footpath」でカンナダ語(*7)映画に、08年の「スラムドッグ$ミリオネア(Slumdog Millionaire)」でイギリス映画にもデビューしている。