インド映画夜話

ジッラ 修羅のシマ (Jilla) 2014年 176分(170分、185分とも)
主演 モーハンラール & ヴィジャイ & カージャル・アガルワール
監督/脚本/原案/ゲスト出演 R・T・ネーサン
"警察は笑えばいい……だが、笑われちゃいけねえ"




 その夜も、マドゥライのギャングボス シヴァンは敵対するギャングの粛清を執行していた。「このシヴァンが望む答え以外は許さん…頂点はただ1人。つまり、この俺だ」

 マドゥライの裏社会をめぐる絶え間ない抗争の中、シヴァンを攻撃するギャングに手を貸す警察官に父親を殺された少年シャクティ(神力の意)は、以降シヴァンの養子に引き取られながら警察と警察制服を表すカーキ色を憎み、シヴァンに立ちふさがる敵対者たちを粉砕し続けるボディーガードとして活躍し続ける。マドゥライの頂点に立つシヴァンを助けて全ての荒事を解決するシャクティは、いつしか"ジッラ(縄張り)"の異名で恐れられる青年に成長していた。

 ジッラの警察嫌いはつとに有名で、警官になった幼馴染ゴーパルの身ぐるみを剥がすわ、警官に啖呵を斬っていた美女に一目惚れするわ、その美女が実は警察官シャンティであると知るやお見合いを断って平気な顔するわと、なにかとトラブルの元になっていた。
 そこに、新任の警視総監アジャイ・ラトールがシヴァン屋敷に乗り込んできてシヴァンを連れ出し「警察は犯罪者を恐れないが、犯罪者は警察を恐れる。私一人を殺したところでこの戦いは終わらないぞ」と脅してきたことから、怒り心頭なシャクティは総監を襲撃して意趣返しを果たすものの、シヴァンは総監の言葉を反芻しある結論に達する……「ジッラ、お前は今から警察になれ。警察を抑え込むために必要なことだ」!!
 冗談じゃないと最初は抵抗するジッラだったが、シヴァンの命令は絶対だからと警察学校にいやいや入学。不真面目な態度で落第を狙うも、シヴァンの口利きでマドゥライの警察署長に任命されてしまったジッラは、警察たちに「ダチを逮捕するな」と命令して遊び暮らすつもりだったのだが……その日、シヴァンの部下たちが暴れたせいで街中で大規模な爆発火災が発生。多数の死傷者を出す大惨事をジッラは目の当たりにする…!!


挿入歌 Kandaangi Kandaangi (美しいサリーをまとった君)

*唐突な日本ロケによるミュージカルシーン! このミュージカル直前に、警察訓練で泥にまみれたヒロイン&主人公が共にカーキ色に染まるエピソードを通して、ジッラの「カーキ色」嫌いが解消されている事を説明してからの、カラフルな日本ロケ色彩の洪水への移行が鮮やかですこと!
 このシーンのために、太秦映画村をはじめとした京都、兵庫各地域で撮影が敢行(色々なロケ地予定が、気候その他で直前に変更されまくりながらの日本ロケになったそうな)! 撮影当時、それを見かけた日本人から「謎のインド人ポップデュオ」とか言われてましたっけ。


 タイトルは、タミル語(*1)で「縄張り」「街」「地域」の意とか。劇中の主人公のニックネームのことであり、主人公の父親の支配する縄張りの意と、マドゥライ警察の管轄区の意味も含んでい… るのか?
 2007年の「Muruga(ムルガ)」で監督デビューした、R・T・ネーサンの2作目の監督作。タミル語映画界スターのヴィジャイと、マラヤーラム語(*2)映画界スターのモーハンラール共演による、2大スター共演映画。

 インドより1日早く英国、クウェートで公開が始まり、インドと同日公開でオーストラリア、マレーシア、シンガポール、米国でも公開されたよう。
 日本では、2020年のIMW(インディアン・ムービー・ウィーク)リターンズにて上映。その後のIMWや2023年のMMW(マドゥライ映画ウィーク)でも上映。2021年には鹿児島のガーデンズシネマで公開され、2023年の東京は新文芸坐、2024年の兵庫県は塚口サンサン劇場一週間限定上映作にも選ばれ、DVD&BDも発売された。

 2017年には、オリヤー語(*3)リメイク作「Bajrangi」も公開。ヒンディー語(*4)吹替版「Policewala Gunda 2」もTV放送されている。

 タミル語映画界で、特にマフィア抗争劇の舞台として描かれているマドゥライを舞台に(*5)、ヤクザの親分とその義理の息子の家族愛とその決裂、その和解を描く映画……と言ってしまえば、よくあるヤクザもの家族映画ではある。
 んが、本作では前半は「ヤクザの息子が、愛する親父の命令で警察官になっちゃった!」を強引に押し進めるコテコテコメディで父子の結びつきの強さを描きながら、後半で警察官としての社会正義に目覚めた主人公による、ヤクザ頭領の父親への反発、隠された陰謀の発覚、様々な犠牲を伴う家族の再結集と言う、家族ドラマとしてもヒーロードラマとしても盛り沢山の要素を詰め詰めに詰め込んだ濃厚マサーラー大作に仕上げてある。
 タミル語映画界でも活躍しているとは言え、マラヤーラム語映画界を代表する映画スター モーハンラール(*6)を迎えて、彼の活躍をタミルの若大将ヴィジャイ(*7)の先達者としての姿に重ねて、その父性の壁をこれでもかと見せつけて行く対立相手であり、共闘して行く頼もしき先輩として描いて行く姿勢に、2大スターのキャリアそのものをも透けて見せていってるようなスター映画構造としても楽しめるか。

 本作の監督を務めたR・T・ネーサンは、1972年タミル・ナードゥ州テーニ県ボディナヤカヌル生まれ。
 マドラス(現タミル・ナードゥ州都チェンナイ)の大学で商学士を取得後、マドラス映画&TV研究所で監督&脚本コースを修了。そのまま1999年の「Iraniyan(イラニヤン)」、2001年の「Prematho Raa(愛とともに)」などで助監督を務め、タミル語映画界で働き始める。
 2007年に「Muruga」で監督&脚本デビュー。2011年のヴィジャイ主演映画「Velayudham(ヴェラユダム)」の脚本を挟んで、本作が2本目の監督作となった。

 前半の話だけだと、お調子者ヤクザが好き勝手やってるはた迷惑ストーリーにも見えてきてしまうけども、警察が頼りにならないまま法では裁けぬ悪を裁く地域密着型裏世界のパワーバランスが、警察と方法論は全く違うながら警察的役割をも担っているように見せてくる任侠物語は、皮肉的構図と共にインド映画における「警察」の描かれ方の1典型を見るよう。本作と同じヴィジャイ&カージャル主演作で、軍人へのリスペクトを前面に押し出していた「Thuppakki(銃)」の描く軍隊への信頼感とは全く違う警察像がそこにあるのも比べて見ると面白いかも(*8)。
 そんだけ、警察はインドの日常では憎まれ役なんだなあ…とか思っていると、後半の大事故から来るヤクザたちの無礼講活動の混乱を見せつけてからの警察による制裁、社会正義への目覚めを受けて、裏社会の考え方に精通した警察がどれだけ有能で頼りになるかをアピールする、「有能警察のあり方」が前半との対比・皮肉にもなっていて効果的。
 真面目な法の番人よりも、人情と気っ風の良さをこそ正義とする下町気質にヒーロー資質を見つけるマサーラー文法が描く警察ヒーローは、やっぱどこまでも荒っぽいほうがカッコよくなるって事でしょか。イイゾモットヤレー。

 ヴィジャイ&モーハンラールの2大スター対決を重視したからではあるけれど、ヒロイン演じてたカージャルとのロマンスはそこまで深掘りされないまま一気に日本ロケ・ラブソング・ミュージカルに突き進んだ感は否めないし、モーハンラールの年を考えてか2大スターが踊るダンスシーンの振り付けは、ヴィジャイ単独のものより大人しめなのもやや残念ではあるけれど、恋にドキドキしたり、子供の不幸に涙したりするヴィジャイの感情に振り回される表情の多彩さ、可愛さはより以上に増し増しになってて楽しさ倍増。マドゥライネタも色々に拾えればもっと楽しかったかな、とは思うから、いつか寺院を愛でながらマドゥライ名物を食べてとっとと帰りたいであります!



挿入歌 Yeppa Maama Treatu? (いつ誘ってくれるの?)





「ジッラ」を一言で斬る!
・やはりクリケットのバットは凶器。ま、私も子供の頃は野球のバット振り回して遊んでたしぃ。

2024.12.6.

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*1 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。スリランカとシンガポールの公用語の1つでもある。
*2 南インド ケーララ州と連邦直轄領ラクシャドウィープの公用語。
*3 北インドのオリッサ州の公用語。
*4 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。フィジーの公用語の1つでもある。
*5 実際はそうじゃないよー、映画がそう描くだけだよー、って映画もある。
*6 1960年生まれで、公開当時53歳。
*7 1974年生まれで、公開当時39歳。
*8 警察学校や警察内訓練が、やや軍隊訓練風味だったけども。