インド映画夜話

Josh 2000年 151分(162分とも)
主演 シャー・ルク・カーン(歌も兼任) & アイシュワリヤー・ラーイ & チャンドラチュール・シン
監督/脚本/原案 マンソール・カーン
"精一杯の熱狂を、君に"




 1958年。ゴアはインドに返還されておらず、なおポルトガル人たちの支配下にあった。総督アルベルト・ヴァスコは王様のように権力を持ち、自らの名前を冠するヴァスコタウンを建設。その式典に集まった大衆から大いに祝福されていたものの、その場でただ1人彼を罵り悪態をつく女性がいた……。

 時は移り、1980年のヴァスコタウン。
 この街には、2つの不良グループが毎日喧嘩を繰り返していて、地元人たちのビッチョー(蠍)団とクリスチャンの移民たちによるイーグル団を形成していた。
 イーグル団リーダーのマックス・ディアスは、今は亡き両親に代わって双子の妹シャーリー・ディアスを育てつつ、教会の神父ジェイコブに励まされながら生活している。
 一方のビッチョー団のリーダー プラカーシュ・シャルマーは不動産業者の依頼を受けて地上げ屋要員に団員を使いつつ、2年ぶりに帰って来た料理人の弟ラーフルからの「家族全員でボンベイ(現ムンバイ)に引っ越そう」と言う提案をはぐらかし続けていた。
 ラーフルは、引っ越し案に難色を示す家族への鬱憤から気晴らしの散歩に出かける中、イーグル団の支配地区にてシャーリーを見かけて一目惚れしてしまう! 彼女と親しくなろうとゴアに留まることを決意する。喜ぶ兄プラカーシュの無理矢理な地上げ仕事で自分の店頭販売店を開店できたのはよかったものの、その過程でシャーリーが兄に敵対するイーグル団リーダーの妹であることを知ってしまって…!


挿入歌 Zinda Hain Hum To (僕は、君の愛だけが生きる糧)


 タイトルは、ヒンディー語(*1)で「熱意」とか「興奮」の意、らしい。

 1980年のゴアを舞台とした、ヒンディー語+コーンカーニー語(*2)映画。そのプロットの1部は、1961年のハリウッド映画「ウエストサイド物語(West Side Story)」から影響を受けていると指摘されている。

 インド版「ウエストサイド物語」があると聞いてワックワクで見てみたけど、まあ予想通り「ウエストサイド物語」のような新機軸ミュージカル映画という作りにはなってなくて、物語のプロット、登場人物配置にネタ引用している感じで、映画としては普通。
 公開当時、古臭い映画と言われてあんまりヒットしなかったらしいけれど(*3)、まあ「ウエストサイド物語」自体が古典的悲恋劇「ロミオとジュリエット」の翻案物でもあるので、物語だけ追おうとすれば古臭いお話にはなるわなあ…って感じの映画。

 劇中舞台となるヴァスコタウンという名前は、ゴアに実在するゴア最大の都市ヴァスコ・ダ・ガマ(通称ヴァスコ。コーンカーニー語名ワースクー)と同じ名前ながら、架空のゴア総督に因んで建設された街という設定から、実在の都市名を投影した架空の街…ということになっているみたい。
 2大不良グループが、地元人VS移民労働者の子供、ヒンドゥー教徒VSキリスト教徒という対立構造で描かれるものの、お話自体がそこにあまり注目せず、それぞれの登場人物たちの背景説明にとどまっているのはなんらかの配慮なのか、単純にそっち系に興味ないまま話が転がしているのか。やや勿体無い要素に見えてしまう。
 主役演じるシャー・ルクにしろアイシュにしろ、まー綺麗な顔して喧嘩っ早いチャキチャキ下町っ子をめいいっぱい演じていて「可愛いですね〜」とニコニコしてしまう若々しさが楽しい…けど、双子の兄妹にはなかなか見えんよね。うん。方向性の違うお綺麗さが、目の保養ではありますが。

 そんな2人に囲まれつつ、ロミオ的な役回りとなって主人公的位置にくるラーフル・シャルマーを演じていたのが、1968年ニューデリー生まれ(*4)のチャンドラチュール・シン。
 弟(兄?)に脚本家兼プロデューサーのアビマニュ・シンがいる(*5)。
 古典音楽を学び、音楽教師、歴史教師として別々の学校で教鞭をとりつつ、1990年の「Awaargi」で助監督を務めて映画界入り。そのまま「Jab Pyar Kiya to Darna Kya」で男優デビューするも、完成間近で映画企画が凍結されてお蔵入り。短編映画「The Waiter in Slow Motion」出演を挟んで、1996年の「Tere Mere Sapne(君たちと僕の夢)」「Maachis(マッチ棒)」で正式に娯楽映画に主演デビューする。後者でフィルムフェア・アワードやスクリーン・アワードの新人男優賞を獲得。以降、ヒンディー語映画界で活躍するもヒット作に恵まれない中、1999年の「Daag: The Fire(汚れ)」と本作で人気が急上昇。しかし、ゴアでの水上スキー中の事故で大怪我を負い2003年以降俳優活動を休止してしまう(*6)。
 しばらくの休養ののち、2009年のオリヤー語(*7)映画「Kemiti Ae Bandhana」、2011年のヒンディー語映画「Chaar Din Ki Chandni(月光の四夜)」で俳優復帰。その後もヒンディー語映画界への出演が続く中、13年には、米英カタール合作のミーラー・ナーイル監督作「ミッシング・ポイント(The Reluctant Fundamentalist)」で英語映画デビューしつつ、TVシリーズ「Savdhaan India(注目せよ、インド!)」にも出演して、映画・TV双方で活躍中。

 ラーフルの兄でビッチョー団リーダー プラカーシュ・シャルマーを演じるのは、1976年西ベンガル州都カルカッタ(現コルカタ)生まれのシャラド(・S)・カプール。
 詳しい経歴が出てこないけど、1991年のヒンディー語映画「Lakshmanrekha」で助監督兼ダンサー出演して映画入りしているよう。95年のTVシリーズ「Swabhimaan(自尊)」に出演するかたわら、同年公開作「Dastak(ノック)」で主役級デビュー。以降、ヒンディー語映画界で活躍する他、99年の「Bhagya Bidhata」でベンガル語(*8)映画にもデビューして、双方の映画界で活躍している。本作で、フィルムフェア悪役賞ノミネートしている。

 「ウエストサイド物語」が、マンハッタンにおけるポーランド系とプエルトリコ系移民たちの対立と苦悩と言うアメリカ社会特有の背景を取り込んだ舞台設定だったんだけど、本作はある程度そこに対応するインド特有の移民問題を意識しているかと言うと……意識はしていても、そこまで換骨奪胎されていない直球若者青春成り上がり劇みたいな勢いで突っ走る映画になっている。
 もちろん、あくまで「ウエストサイド物語」がアイディア元であって、本作は独立したお話なんだと割り切るべきではあるけれど、その人物関係図を意識させるが為にお話の広がりが限定的になった気もしないではない。相変わらずの下町ヒーローの元気良さと猪突猛進の成り上がりは、インドの下町庶民気質万歳によるインディアンドリームを見せてくれて、その部分では及第点のパワフルな映画ではあるんだけど。その下町人の野放図さが、プラス方向にもマイナス方向にも暴走して話をこんがらせるのはいつも通りだけど、そのセットであることが丸わかりの下町の風景の中で交流する下町っ子の人の良さに、インド庶民文化の肯定と言うより脚本・演出担当の人の人の良さを感じるのは、穿ちすぎだろか。「ファイト・クラブ(Fight Club)」のヘレナ・ボナム=カーターみたいに、下町っ子キャラを演じるには良い子オーラが強いアイシュの礼儀の良さが染み付いた立ち居振る舞いと同じようなものを、映画全編から感じてしまうのよね(*9)。そのギャップもまた、この映画の味ではありましょうか。うん。



挿入歌 Sailaru Sailare (サイラル・サイラレ)

*「サイラル・サイラレ」は、リズムの調子をとる囃し言葉?


受賞歴
2000 Kalashree Awards ニューカマー賞(プリヤー・ギル)
2001 IIFA (International Indian Film Academy) Awards 美術監督賞(ニティン・チャンドラカーント・デーサーイ)
2001 Bengal Film Journalists’ Awards ヒンディー語映画助演男優賞(シャラド・S・カプール)


「Josh」を一言で斬る!
・「ナラクって何が?」「地獄って事さ」ってセリフに見る、仏教用語『奈落』がヒンディーにも受け継がれている楽しさよ(分かる、そこだけ意味が分かるぞー!!)

2025.3.9.

戻る

*1 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。フィジーの公用語の1つでもある。
*2 南インド ゴア州の公用語。
*3 その興行不振によって、マンソール・カーンは監督業から完全に退いてしまう。
*4 ウッタル・プラデーシュ州アリーガル県アリーガル生まれとも。
*5 同姓同名の男優とよく間違われるそうだけど、別人。
*6 その間にも公開の遅れていた出演作が一般公開されてはいたが、ヒットには繋がらなかった。
*7 東インド オリッサ州の公用語。
*8 北インドの西ベンガル州、トリプラ州、アッサム州、連邦直轄領アンダマン・ニコバル諸島の公用語。バングラデシュの国語でもある。
*9 シャレにならん悪戯とか喧嘩とかも出てくるけど。