インド映画夜話

ガネーシャ マスター・オブ・ジャングル (Junglee) 2019年 115分
主演 ヴィドゥユト・ジャームワール & プージャー・サーワント & アーシャ・バット
監督/脚本 チャック・ラッセル
"伝説のヒーローが蘇る!"




 チャンドリカ保護区で象の保護活動をしているシャンカラ(通称シャンクー)は、日を追うごとに増える密猟にディパンカル博士と共に悩まされながら、長い間帰ってこない博士の息子で幼馴染のラージとの再会を待ち望んでいた。

 その頃、ムンバイにて人気の獣医であり伝統格闘技カラリパヤットの達人に成長していた当のラージ・ナーイルは、動物愛護活動を取材する記者ミーラに感化され、母の10周忌もあって10年ぶりに故郷へ帰ってみようと思いたつ。
 しかしいざ帰郷を果たすと、幼い頃から友達だった保護区の人々や象たちとの再会を喜びはしたものの、母亡き後ずっと仲の悪い父とは相変わらずのラージは、結局父親との間の軋轢を埋めることはできないまま。
 そんな中で母の10周忌の儀式が終わった夜、ケーシャヴ・コティアン率いる密猟者たちが保護区に侵入し、象牙目的に象たちを虐殺し始める。これを止めようとした父が殺される所を目撃したラージは、怒りに震えながら密猟者たちを撃退しようとするが逆に気絶させられてしまい…!!


挿入歌 Fakeera Ghar Aaja (旅人よ、帰っておいで)


 原題は、ヒンディー語(*1)で「野生(児?)」。
 1961年の同名ヒンディー語映画、2009年の同名カンナダ語(*2)映画とは別物、のはず。

 「マスク(The Mask)」、「スコーピオン・キング(The Scorpion King)」などで知られるハリウッドの監督チャック・ラッセルが、インド映画界に招聘されて手がけたヒンディー語映画。製作は、14年設立のムンバイの映画会社ジャングリー・ピクチャーズ。
 その物語は、1971年のヒンディー語映画「Haathi Mere Saathi」をアイディア元にしていると報道されている。
 インドの他、クウェート、オーストラリア、カナダ、インドネシア、米国、英国、ニュージーランドなどでも公開。日本では、2020年に「ガネーシャ マスター・オブ・ジャングル」のタイトルでDVD発売。「ガネーシャ」と言う邦題の通り、象頭神ガネーシャも一瞬出てはくるけどあんまり関係ないお話で、人と野生の象との関わりを描く映画である。

 出演作全て、スタントなしで全部自分で振り付けるアクションを見せつける俳優兼格闘家ヴィドゥユト・ジャームワールの超絶アクションを売り物にした一本。
 元々はローハン・シッピー監督作として企画された映画とのことだけど、当初から「Haathi Mere Saathi」やタイ映画「トム・ヤム・クン(Tom-Yum-Goong)」との類似性が指摘されていた所へ、製作会社の招待と説得に乗ったチャック・ラッセルが正式に監督就任して進められた映画企画だそう。王道インド映画劇と世界プロモを意識したグローバル性が融合した映画、って感じでしょうかどうでしょか。

 逆ターザン、と言うか逆クロコダイルダンディーと言うか、ジャングル育ちながら父親との対立で家出して都会人になった主人公が、実家に戻って野生動物たちとの絆を取り戻す話…と書くとまあ、直球な「自然を大切に」映画なんだけど、複数の象たちとの共演具合(*3)、主役ラージを演じるヴィドゥユトの貫禄の身体能力具合と言い、象とマッチョマンとの肉体美&肉弾戦を見せることに特化した展開。
 その分、物語的魅力は弱く、特に後半はわりとやっつけ気味な感じがしないでもない。思わせぶりに出てきながらいてもいなくてもいいような役回りの密猟団の顧客の愛人なんだか奥方なんだかの白人女優は誰やねんって思ってたら、本作が映画デビュー(*4)となるチャック・ラッセルの妻アニア・ゼインなんだそうで…って監督ぅ! インドになにしに来てんスか!!

 一方で、ヒロインの1人シャンカラを演じたのは、1990年マハラーシュトラ州ムンバイ生まれのプージャー・サーワント。
 08年にマハラーシュトラ・タイムズの美人コンテスト シャラワンクイーンに優勝した事で、10年公開のマラーティー語(*5)映画「Kshanbhar Vishranti」に招かれ映画デビューする。翌11年の「Zhakaas」で主役級デビューとなり、以降マラーティー語映画界やTVショーなどで活躍。本作が、ヒンディー語映画デビュー作となった。

 もう一方のヒロイン ミーラには、1992年カルナータカ州シヴァモッガ県バードラヴァディ生まれのアーシャ・バット。
 両親ともにカンナダ・ブラーミンの医療検査技師で、姉は小児科医をしている。
 陸軍士官学校に進学して国立士官候補生代表団に選出されつつ、工科大学で電子工学の学士号も取得している。14年度ミス・ディーバに参加し、ミス・ビューティフルスマイル他2部門のモデル賞を獲得したのを皮切りに、世界中の美人コンテストで数々の賞を獲得。モデル業を経て本作で映画&主役級デビューする。
 モデル業や女優業の他に、社会活動のための団体"アストラ財団"を立ち上げる社会活動家としての面もあるそうな。

 とにかく圧巻なのは、主役ヴィドゥユトの肉体美やアクションのキレとか、ダブルヒロインの美しさ以上に、出てくる象さんたちの演技力でありましょうか。
 撮影に先立ち、インドとスリランカで象のオーディションをおこなって100頭の中から選出された4頭の象さんたちの、がっつり役者とからむ演技と言い、仲間が殺されていく中での悲しみや怒りの演技と言い、よくもまあきっちり演技させてるなあ…って言うその身のこなし・感情表現の自然さがスンバラし(*6)。
 インドの他、タイロケも実施されたと言う劇中のチャンドリカ野生動物保護区の理想的リゾート地生活の様子は、楽しそうであるんだけどあれはあれで都会人から見た無責任な理想像って感じもしないではないよなあ…。

ED Garje Gajraj Hamara (ゾウが怒りの声を上げようとしている)


受賞歴
2019 上海 Jackie Chan Intarnational Action Film Week アクション振付賞(チュン・チーリー)・審査員選出特別賞(チャック・ラッセル)


「ガネーシャ」を一言で斬る!
・顔全体で見てると優しい感じなのに、象の目ってアップでみるとわりとキツめな感じがするのネ。

2021.5.3.

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*1 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
*2 南インド カルナータカ州の公用語。
*3 わりとしっかり演技してくれるし!
*4 いちおー短編映画には出演経験ありなんだそうですが。
*5 西インド マハラーシュトラ州の公用語。
*6 象の演技の自然さをどう判断するのか、って問題はこの際置いときますけど。ええ。