カプール家の家族写真 (Kapoor & Sons) 2016年 132分 タミル・ナードゥ州ニーラギリ県の避暑地クンヌール。 ここに住む、死んだマネが趣味のひょうきんな祖父アマルジート・カプールが心臓発作で入院したと言う連絡を受けて、英国ロンドンで作家生活をおくるラーフルと、米国ニュージャージーで職を転々としながら作家を目指す弟アルジュンが久しぶりに実家に帰省して来る。 ここ数日次回作がうまくいかないラーフル。成功した兄にコンプレックス気味のアルジュン。この兄弟を迎えたのは、この所夫婦仲が不穏なままの会計士の父ハルシュと母スニータ。 久しぶりの一家団欒もすぐにギスギスしはじめ、家に居づらくなったアルジュンは友人を頼ろうとして紛れ込んだパーティー会場にて、破天荒な女性ティアと出会い意気投合。翌日、クンヌールに仕事用の別荘を探すラーフルもまた、貸家を提供するティアと出会いいい雰囲気になるが…。 一方、病室ではしゃいで周りを驚かす祖父アマルジートは、命に別状はないながら「死ぬ前に、家族全員そろって写真を撮ろう」と言い出すのだが、カプール家の面々は相互に不信感を拭えないまま家族であり続けることに、徐々に苦痛を感じ始めていく…。 挿入歌 Kar Gayi Chull ([美しい君に] 僕は有頂天) 別題「Kapoor & Sons (Since 1921)」。 日本公開作「スチューデント・オブ・ザ・イヤー(Student of the Year)」に出演していたシッダールト・マルホートラ、アーリア・バット、リシ・カプールを迎えた、家族愛とその再結成を描く大ヒット ヒンディー語(*1)映画。舞台はタミル地方ではあるけれど、登場人物たちは全員ヒンディー語+英語でしゃべっている映画。 製作はダルマ・プロダクションズで、配給にFOXスター・スタジオがついている。 日本では、2016年のIFFJ(インディアン・フィルム・フェスティバル・ジャパン)にて上映。同じくIFFJで上映されたリシ・カプール出演作「ハウスフル2(Housefull 2)」にて、劇中に「Kapoor & Real Son」って文言が出て来てたけど、本作のネタ元ってことは、ない...よなあ。 インドでも有名な美しい景観をもつ避暑地クンヌールを舞台に、相互に秘密や不満を抱え、それでも家族としてつながっていこうとする、家族それぞれの人生と価値観が交錯する家族ドラマの傑作。 家族でありながら、家族であるからこそ、会話はすれ違い、価値観の衝突が繰り返され、家族だからとそれぞれの心の内を暴露すればするほど全てが狂っていく。そうした家族不和の会話劇を中心にして、クンヌールの夕景や家族をもたないティアとの奇妙な交流によって描かれる家族の再生は、常にどこかビター風味。 必死に家族関係を修復・維持しようとする兄弟たちの若さともろさ、もはや家族への期待をある程度諦めている両親たちの人生を積み重ねた重み、自由奔放に現代機器を使いこなしてマイペース爆進する微笑ましい祖父。家族写真を撮るために求められる、家族の一体化、家族協調の理想は、せわしない現代生活の中で時に微笑ましく、時に厳しく、次々起こる事件によって刹那的な関係が切れたり結びついたり、その一瞬一瞬に人の喜怒哀楽が次々と飲み込まれていく。 監督&脚本を務めたシャクン・バトラは、1983年生まれ。 デリー大学聖スティーブンス校でMBA(経営学士)を取得し、当初はビジネスマンの父親の手伝いをする予定だったと言うが、撮影技師を目指してカナダのバンクーバー映画学校に留学。ハリウッド映画界での仕事を経験した後、インドのエクセル・エンターテインメント(*2)に就職。 08年のヒンディー語映画「Jaane Tu... Ya Jaane Na(貴方が知ろうと…知るまいと)」と「Rock On!!(ロックオン!!)」の助監督(*3)に就任して映画デビュー。その後、12年の「Ek Main Aur Ekk Tu(1つを私に、もう1つを貴方に)」で監督&脚本デビューを果たす。本作は、これに続く2本目の監督作。 主人公の一人ラーフル・カプールを演じるのは、1981年パキスタンのカラチにてパンジャーブ+パシュトーン系の家に生まれたファワード・カーン(本名ファワード・アフザル・カーン)。 幼い頃は、湾岸戦争を避けるためにドバイ、サウジアラビアのリヤド、英国マンチェスターと海外を転々として、15才の頃に両親の故郷ラホールに戻ってそこで育ったと言う。 少年時代にバンドを結成してリードボーカルを担当。ギター、ベース、ドラムも一通り修得していたとか。大学にてコンピューター工学の学位を得つつ、演劇にも積極的に参加。子供の頃からアミターブ・バッチャンとリシ・カプールのファンだったそうな。05年に結婚した妻サダーフ・カーンと共に12年より"SILK"と言うファッションブランドを経営している。 TV番組出演を経て、07年のパキスタン映画「神に誓って(Khuda Kay Liye)」に出演して映画デビューし、ラックス・スタイル男優賞を獲得。その名声でボリウッドデビューも近いと思われたものの、08年のムンバイ爆破テロによって一旦はインド進出が見送られることに。その後、14年の「Khoobsurat(美しきもの)」がヒンディー語映画主演デビューとなり、フィルムフェア男優デビュー賞を獲得している。以降、印パ両映画界で歌手兼役者として活躍している(*4)。 皆が笑顔で写るための家族集合写真の裏で渦巻く、数々の火種。 一見どこにでも居るような家族を襲う、さまざまな確執は、山間のクンヌールの天気の移り変わりとともに秘めた激しさを暴露しあう。時によりそい、時に決裂していく家族の有り様は、厳しい現実を突きつけると同時に、家族こそが最後によって立つ砦である姿を浮かび上がらせていく。あまりにも厳しい衝突を繰り返すがために、それを乗り越えて来た家族が浮かべる笑顔の先にあるものとは…。 挿入歌 Buddhu Sa Mann (バカな心が、千の言葉を紡ぐ)
「カプール家の家族写真」を一言で斬る! ・あんな目の綺麗なお爺ちゃんにナリタヒ。これからの人生目標。うん。
2016.11.25. |
*1 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。 *2 ファルハーン・アクタルとリテーシュ・シディワーニーによって、99年に設立された映像制作プロダクション。 *3 「Jaane Tu... Ya Jaane Na(貴方が知ろうと…知るまいと)」では、さらに端役出演もしている。 *4 …ものの、16年のカシミールテロによって印パ間が再度緊張状態に入り、インドの映画プロデューサーズ協会はインド映画界から全てのパキスタン人を追放すると宣言されてしまっている…。 |