インド映画夜話

カランとアルジュン (Karan Arjun) 1995年 175分(169分とも)
主演 サルマン・カーン & シャー・ルク・カーン
監督/製作 ラケーシュ・ローシャン
"これは執念の物語…執念こそが、物事を達成する力となる"




 石切場で働くカラン・シンとアルジュン・シンは、唯一の肉親である母ドゥルガーを敬愛する仲の良い兄弟。しかし、彼らの父親はかつて地主でもある名門屋敷の家督争いで実の弟ドゥルジャン・シンに殺され、母親は幼い兄弟とともに屋敷を追い出されていた。
 ドゥルジャンの野望は屋敷の全財産を手にすること。そのために、義弟たちに兄弟の殺害を命令し、2人はなぶり殺しにされてしまう。目の前で息子たちの死を見せられたドゥルガーは、半狂乱になって女神カーリーに復讐を誓うと、稲光とともに神殿の鐘が一斉に鳴り出した…!!
 同じ時刻、近くの病院にて別々の妊婦から赤ん坊がそれぞれに生まれていたことを、ドゥルガーはまだ知らない…。

 それから20年。
 2人の赤ん坊のうち、一方のアジャイは酒乱の父親に虐待されて育ちながらストリートファイトで生活費を稼ぎ、もう一方のヴィジャイは両親亡き後牧場主に引き取られて馬屋番に成長していた…。


挿入歌 Bhangra Paale


 タイトルは、劇中に登場する兄弟名で一般的な男性名だけども、その名義は叙事詩マハーバーラタに登場する好敵手同士の名前。
 "カラン"はカルナ(*1)を元とする名前で、"アルジュン"はアルジュナ(*2)のことでもある。

 サルマン&シャールクの2大スター主演による、マルチスター・リベンジ輪廻アクション・ヒンディー語(*3)映画。
 ヒットメーカーの映画監督兼プロデューサー(兼男優)のラケーシュ・ローシャンの7作目の監督作。後に主演男優として活躍する、監督の息子リティック・ローシャンが助監督として参加していた映画でもある。
 日本では、1998年の大インド映画祭にて上映され、ビデオ&DVDも発売。2017年にインド映画同好会でも上映された。

 OPが始まるまでの前世劇で25分もある(*4)濃厚でボリューミーな約3時間の映画は、女神カーリーの加護によって生まれ変わった兄弟の新たな人生を描きながら、前世の因縁と復讐の達成を描いていくそのパワフルさと妙にのんびりした展開を併せ持つ内容で、これも時代だねえ…と言う感じ。
 相変わらず濃すぎる敵役演じるアムリーシュ・プリの極悪っぷりが西部劇的であり、転生する兄弟たちの対比構造や前世とシンクロしていく行動理念、風車(*5)やマリーゴールドの野原などヒンドゥー的モチーフがそこに重ねられて、さらにそれぞれの恋愛劇・親子劇・友情劇が展開する映画構造の妙が素晴らしか。後世のボリウッドに多大な影響を与え続けているのが実感できる傑作でありまする。
 まあ、今見ると1つ1つのカットやシークエンスが長いし、登場人物たちの状況の飲み込み方がスピーディーすぎるところが気になってしまうけども、そこは90年代のスピード感ってやつでしょか。おおらかさが逆に妙なインパクトに繋がってるのが良きかなだけど、事あるごとに出てくるターミネーターのテーマをパクったBGMが気になってしょうがないゼヨ。

 復讐に取り憑かれる主役兄弟の母ドゥルガーを演じているのは、1947年インド連邦(*6)ベンガル州のラナガート(*7)に生まれた女優ラーキー・グルザール(旧姓マジュムダール)。
 公表されている誕生日を信じるならば、インド連邦がイギリスから独立したその日に生まれた人だそう。父親はベンガル地方で靴売りのビジネスマンをやっていた人とか。
 地元の女子校に通った後、63年に記者兼映画監督のアジャイ・ビシュワースと結婚するも数年で離婚。67年にベンガル語映画「Badhu Bharan」で映画デビューし、70年のヒンディー語映画「Jeevan Mrityu」で主演デビューする。71年の出演作「Lal Patthar」「Paras」の2本が大ヒットして以降、主にヒンディー語映画のヒットメーカー女優として大活躍。
 73年に詩人で映画監督兼プロデューサーでもあるグルザール(*8)と結婚。両者の間で後に映画監督兼脚本家となる娘メグナー・グルザールが生まれている(*9)。同年には「Daag: A Poem of Love」でフィルムフェア助演女優賞を獲得し、その後も数々の映画賞を受賞している他、82年の「Taaqat」で歌手デビュー、98年の「Pyaar To Hona Hi Tha」では衣裳デザインも担当している。03年のベンガル語映画「Shubho Mahurat」を持って女優引退したと言うけども、09年の「Classmates」で一時的に復帰しているそう。

 シャールク演じるヴィジャイの恋人役ソニアを演じたのは、1974年マハラーシュトラ州ムンバイ生まれの女優カージョル(・ムケルジー。結婚後はデーヴガン姓)。父親はベンガル人映画監督兼プロデューサーのショーム・ムケルジー。母親はマラータ人女優タヌージャ。妹も女優のタニーシャー・ムケルジーで、親戚も映画人の多い映画一族出身。
 子供時代に両親が離婚して母方の祖母ショバーナー・サマルト(*10)のもとで育つ。16才の時に学校の夏季休暇を利用して、ヒンディー語映画「Bekhudi(公開は92年)」で映画&主演デビュー。そのまま映画界に残る決意をして学校を中退して女優業を続けていく。本作公開と同じ95年には、ギネス級大ヒット作にしてフィルムフェア主演女優賞を獲得した「DDLJ 勇者は花嫁を奪う(Dilwale Dulhania Le Jayenge)」を始め5本の映画に出演。その後もトップスターとして活躍する中、97年には「Minsara Kanavu(電撃的な夢)」でタミル語映画デビューもしている。
 99年に男優アジャイ・デーヴガンと結婚し、夫婦で映画制作会社デーヴガン・フィルムズ(*11)を設立。さらに翌00年、自分の制作会社オンライン・ポータル・シネックスプロアを設立して映画ソフト・ビジネスに参入している。その他、児童教育や女性保護の慈善活動にも積極的に参加し、慈善団体大使に任命されて児童教育をテーマにした短編映画に参加していたりする。

 アジャイの恋人役ビンディヤー役には、1972年マハラーシュトラ州ムンバイの警察官の家に生まれたモデル兼女優マムタ・クルカルニー(本名パドマヴァティー・クルカルニー)。
 91年のタミル語映画「Nanbargal」で映画&主演デビュー。翌92年に「Tirangaa(三色旗)」でヒンディー語映画デビューする。93年に雑誌上でトップレス(腕で隠していたけれども)写真を公表したとして裁判にかけられ、15万ルピーの罰金刑を課せられたと言う事件で世を騒がせていたそうな。
 その後はヒンディー語映画界のセクシー系主演女優として活躍するものの、新境地開拓を目指した98年公開作「China Gate(チャイナ・ゲート)」制作中に、ラージクマール・サントーシ監督や女優ウルミラー・マートンガルと衝突したという噂が流れて、それをきっかけに出演作を激減させてしまう。少数の映画に出演しつつ色々な騒動に巻き込まれた後、映画界を去って米国に移住。13年に麻薬王ヴィッキー・ゴースワーミーと結婚している。

 復讐の女神カーリーの神話を狂言回し的に利用しつつ、物語構造にはラーマーヤナやクリシュナ神話とのシンクロも意識されているあたり、ヒンドゥー教的色彩の濃い映画な訳だけど、印象としてはそこまで宗教の匂いが前面に出てこないつくり。主人公兄弟の家の「シン」という名字がシーク教徒のそれなのかなあ…とか、敵役ドゥルジャンの義弟にイスラム名を名乗る人がいるってことは結婚相手の一族がイスラム教徒なのかなあ…とか思うものの、全員でカーリーへの祈祷儀式に参加してたりするあたりはインド的な「宗教の平等性」に配慮した結果でしょか。
 まあ、その辺はあんま気にしなくいで輪廻アクションのかっこよさに浸っていればいい親切設計な映画なんだけど、なにはなくとも主役級の人たちの若々しさや表情の豊かさが映画の魅力を最大限に引き出してて爽やかな印象を残してくれるのが高ポイントですよ!

挿入歌 Gup Chup Gup Chup (静かに、そして密やかに)

*屋外の饗宴に歌い踊る遊業放浪民たちの騒ぎの裏で進行する、主人公たちの罠…というミュージカル演出として、往年の名作「炎(Sholay)」の伝説的ダンスナンバル”Mehbooba Mehbooba(愛される人よ)”のパロディ的なミュージカル。


受賞歴
1996 Filmfare Awards アクション賞(ビクー・ヴァルマー)・編集賞(サンジャイ・ヴァルマー)
1996 Screen Awards 音楽監督(ラジェーシュ・ローシャン)


「カランとアルジュン」を一言で斬る!
・まだこの頃は優男風なスタイルを維持しているサルマンだけど、それでもマッチョ化の兆候はすでに始まってたのね!(リティックに「映画スターになりたいならマッチョになれ」みたいなアドバイスしたとかいう話は、この頃のことかいな?)

2017.12.15.

戻る

*1 クル王妃クンティーと太陽神スーリヤの間に生まれた、生まれながらに耳輪と黄金の鎧を身に着けていた弓の名手。その名は"耳"の意とされる。
 生まれてすぐ捨てられて御者に育てられたことから身分差別を受け、アルジュナたちと敵対するようになる。
*2 マハーバーラタの主人公。クル王妃クンティーと神々の王インドラの間に生まれた、クル王"蒼白の"パーンドゥの義子。
 その名は"白"の意とされる。カルナの異父弟。
*3 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
*4 うち、ミュージカルが2曲も入る!
*5 太陽や輪廻の輪を表すモチーフである車輪。
*6 インド独立〜印パ分離によるインド共和国成立の間だけ存在していた国家。インド連合とも。
*7 現西ベンガル州所属。
*8 本名サンポーラン・シン・カルラ。
*9 しかし、夫婦は74年に離婚してしまう。
*10 30〜70年代に活躍した映画女優。
*11 後にデーヴガン・エンターテインメント&ソフトウェアLtdに改名。