KGF: Chapter 2 2022年 168分
主演 ヤシュ & シュリーニディ・シェッティ
監督/脚本/台詞/原案 プラシャーント・ニール
"人々が最も待ち焦がれた映画、降臨"
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ロッキーのKGF征服までが語られた直後、語り手である記者アナンドが突如脳溢血を起こして入院してしまった。
取材先を失ったディーパ・ヘーグデーは、これ以上KGFの情報が手に入らないかと失望しながらアナンドの病室を訪ねると、そこにいた彼の息子ヴィジャエンドラが取材への協力を申し出、アナンドの事務所を取材陣に解放する。彼らはそこの資料の山の中から、アナンドによってまとめられた新たなロッキーの物語…「KGF 第2章」を発見する…!!
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スーリヤワルダン亡き後、その後継者とならんとした息子ガルダ、その弟ヴィラトを殺害したロッキーは、KGFそのものを乗っ取って独立国家のように支配。バンガロール・マフィアへの牽制としてマフィアボスの娘リナ・デーサーイを人質同然にKGFの宮殿に迎え、2万人以上に上る金鉱労働者たちの生活改善に奔走しながら、今までの未採掘鉱山も含めたさらなる2年計画の金採掘を進めて行く。
しかし、そこに死んだと思われていたスーリヤワルダンの弟…幼少期からバイキングに憧れて狂戦士に成長したアディーラ…が帰還してくる。アディーラは、かって知ったるKGFへの隠し通路を使って、ロッキーたち現KGF住民の皆殺しを開始する…!!
その一方、KGFの違法採掘に関する法律違反の政治的介入を妨害してきたKGF創業メンバーであるDYSS党首グルパンディヤンが、中央国会にて台頭してきた新インド首相ラミカー・セーン勢力の奸計にかかって政界を追われ、ついに完全鎖国状態のKGFの真の姿が白昼の元に晒されることとなる。
そして1981年。インド首相直々の署名が発布された…「彼に関する一切の記録を残してはならない。国家の名において、彼と彼の王国の全てを抹殺することを認める!」
挿入歌 Toofan
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2018年の「KGF: Chapter 1」の続編となる、カンナダ語(*1)映画シリーズ第2作。
前作を越える100カロール(=10億ルピー)の予算で製作された史上最高額カンナダ語映画であり、やはり前作を越える1250カロール(=125億ルピー)の興行成績を達成して、国内史上4番目の興行成績を記録したインド映画となった(2023年現在)。
テルグ語(*2)吹替版、タミル語(*3)吹替版、マラヤーラム語(*4)吹替版、ヒンディー語(*5)吹替版も同日公開。
インドより1日早く英国、アイルランド、米国で公開が始まり、インド本国と同日公開でアラブ、オーストラリア、カナダ、ドイツ、スペイン、フィンランド、フランス、インドネシア、イスラエル、オランダ、スウェーデン、シンガポール、南アフリカでも一般公開されたよう。
日本では、2023年に「KGF: Chapter 1」と一緒に一般公開。2024年にはBS12にて放送。同年の東京の新文芸坐の「ようこそ、魅惑のインド映画の世界へ」でも上映されている。
前作「Chapter 1」と直接つながる前後篇ギャングスター抗争映画ながら、前作にあった各都市でのギャングたちとの戦い、KGFでの奴隷たちの叛旗からの革命をさらに拡大させ、アフガニスタン、ソ連などの外国勢力ともつながるアディーラ率いる狂戦士たち、中央政府によるKGF抹殺指令を受けたインドという国家そのものがロッキーたちKGFの事実を隠蔽しにかかり、その存在そのものを否定しようとして行く。まさに、敵は1ギャング集団から国家や国家間の外交的緊張そのものにまで膨らんで行くインパクトよ!
それでも映画文法はマサーラー映画でありギャングスター映画であるから、強面な男たちがその美学に則ってさまざまな陰謀をめぐらして不敵に勝利するシーンの連続。
拡大して行く敵の規模によって、KGF炭鉱夫たちの救世主ロッキーの活動範囲も拡大し、金の密輸業から得られる莫大な経済力を前に迫り来る敵に対する前代未聞な対抗手段を編み出して行く爽快感が、次から次へと繰り出して行くあたり、映画中盤以降あたりにはもう感覚が麻痺して行く感じもある。
そんな前作から続くギャングスター文法の映画にあって異彩なる魅力を発揮するのは、今作の敵役たち。
特に、出てくる映画を間違えてやしませんか? って感じのアディーラ(*6)なんか、画面に出てくるだけで世界がレトロギャング映画から中世時代劇に強制的に変えられちゃう感じ。そのヴィジュアルは、マーベルのスーパーヴィラン サノスやカナダのTVシリーズ「ヴァイキング ~海の覇者たち~(Vikings)」から作られたそうだけど、70年代末を舞台とした銃火器の戦いで、なんで剣と鎧の集団戦による恐怖が描かれんねんって強引さが、映画に(超力押し的に)別のインパクトと魅力を足していて、ギャング映画的色彩に飽きてきたこちら側の目には優しかったですわ(*7)。
時代を超越した敵役に対し、ラスボス的に主人公たちに襲いかかるもう1方の敵となるのは、国内諸勢力を超越した新インド首相ラミカー・セーン(*8)。腕っ節ではなく、国家勢力として、インド国内の最大組織としてKGFを潰しにかかる指導者として、遠いデリーの政治家たちが想像する規模を遥かに超える工業都市に発展していたKGFとの心理的・物量的対比が鮮やか。ラミカー首相自身は、執務室から命令出すような動きの少ないシーンが多いものの、次々と暴露されるKGFの現状に対して危機感が跳ね上がって行く権力側の焦燥を描くことによって、こちらもギャング的絵面とはまた違ったインパクトが生まれて行ってましたわ(*9)。
そして、物語の前半である「KGF: Chapter 1」が主人公ロッキーの成り上がり物語であり、ロッキーが虐げられた奴隷たちにとっての救世主へと成長して行く物語であるなら、後編である本作はそのロッキーの、果てはKGFと言うイレギュラーな社会そのものの栄枯盛衰、一瞬の楽園を創造しながらも世界から否定され滅び去って行く滅びの美学を描く映画となって行く。
叙事詩「ラーマーヤナ」にしろ「マハーバーラタ」にしろ、数々の神話上の戦いを描きながら、その終幕は単純な善側の勝利で終わらず、回り続ける時代に呼応するように勝利側もまた滅びの運命から逃れられないことに注目するインドの物語文化を反芻するように、絶対的勝利者となったかのような本作主人公ロッキーもまた、母親の遺言(あれは予言?)通り、「富を抱く者」として死んで行く。その反復、「Chapter 1」冒頭で登場した政府命令によるKGF抹殺指令が、本作ラストに再度登場する運命的な示唆もニクい。なにしろ、この物語はあくまでKGF亡き後にそれを取材したとある記者が語る「人伝ての物語」であることは最初から示されていたし、それを聞く2018年の人間はKGFの存在すら知らないわけだからねえ…。
こうした、インドのヒーロー映画に見える「絶対者を希求する民衆」「権力層・富裕層への究極的不信感」と共に、「富める者も力ある者も、貧しき者と同様いつかは滅び忘れ去られる」と言う世代交代による無常感が描かれることによって、ただの善悪2元論に陥ることなく、かと言って無条件にアンチヒーローやピカレスクヒーローを称賛するだけに終わらず、人の世の無常、寂寞をもって社会なるものを見つめて行く市井の視線を意識させもするか(*10)。自らが奪い取り、暴き出した全ての財産を誰の手も届かぬところへ持ち去ってこそ、民衆が讃えるべき真のヒーローたり得るのか。ギャング映画という、反権力、力こそ正義の世界観の中に息づくインド物語のヒーロー像もまた、流れ行く世の変転の1形態を見つめるものなのですかねえ…。
……と綺麗閉めようとしたところにかかる映画ラストのラストに現れる「KGF: Chapt…」の小粋さよ。2018年パートのお茶汲み労働者君と一緒になって「えええええええええー!!!!!!」と目をひんむいてしまいますことよ。2作の中でやりたいことは全部やりきった感じもするけども、やれるもんならやって見やがれ、楽しみに待っててヤローじゃないかー!!!!!(*11)
挿入歌 Sulthana
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受賞歴
2023 SIIMA (South Indian International Movie Awards) 主演男優賞(ヤシュ)・主演女優賞(シュリーニディ・シェッティ)・撮影賞(ブーヴァン・ゴウダ)
2023 Nickelodeon Kids’ Choice Awards 南インド人気映画作品賞・南インド人気男優賞(ヤシュ)
「KGF: Chapter 2」を一言で斬る!
・(」°ロ°)」からしにこーーーーーふ!!!!!!!!
2023.11.17.
2024.4.6.追記
2024.9.20.追記
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*1 南インド カルナータカ州の公用語。
*2 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*3 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。スリランカとシンガポールの公用語の1つでもある。
*4 南インド ケーララ州とラクシャディープ連邦直轄領の公用語。
*5 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。フィジーの公用語の1つでもある。
*6 演じるのは、ヒンディー語圏の強面大スター サンジャイ・ダット!
*7 起こってる出来事は全然優しくないけど。
*8 演じるのは、やはりヒンディー語圏で活躍している映画スター ラヴィーナ・タンドン!
*9 こっちはまだ、同じ映画内世界だなとは思える。うん。ま、その分、ヒロインのリナの出番はだいぶ雑になった感があるけれど…。
*10 その象徴のように、本作は前作とは語り手もまた世代交代している!
*11 実際、あのシーンに盛り上がった観客の反応見て、プロデューサーは続編企画を動かしてると答えたそうだけど、さて…。