インド映画夜話

Kadhalil Sodhappuvadhu Yeppadi 2012年 127分/テルグ語版は125分
主演 シッダールタ(製作補も兼任) & アマラ・ポール
監督/脚本/原案/作詞/出演 バラージ・モーハン
"男と女が一緒になるよう決めた神様は、何を考えてるんだ…救いがないじゃないか!"




「じゃあ準備はいいね? 始めるよ。まず、2人の出会いから教えて」
「大学初日に彼女を食堂で見かけたことからなんだ。ちょっとぽっちゃりしてて可愛くてね」
「太ってなかったわ。今と同じよ」
「そうそう、今は痩せて美人になったよね。あの時は可愛かったんだよ」
「今は可愛くなくなったていうの!?」

 大学生のアルンとパールヴァティ(通称パールー)の仲が突如破局してからずっと、アルンの頭はパールーのことばかり。「もう終わったのよ」と断言されてしまって、二度と恋なんかしないと決意するアルンだったが…。
 2人の出会いは5ヶ月前。食堂に泣きながら入ってきたパールーを意図せず怒らせてしまったアルンは、翌日に謝ってきた彼女と日々交流する機会が増えて行き、友達公認の仲に。しかし、色々と共に過ごすうちにお互いの気持ちがなぜかズレ始めていって…。


挿入歌 Parvathi Parvathi (パールヴァティ [君は休憩中に僕の前から消えた])

*失恋の痛みを方々に訴えつつ「いまはそんな気分じゃないよ」と、はしゃぎ回ろうとする周りの大学生を無視する主人公アルンの身に、文字通り脈絡なく突然始まるミュージカル!(…に乗って、結局元気を取り戻す主人公の図)


 バラージ・モーハン監督デビュー作のラブコメ映画。
 もともとバラージ・モーハンの同名短編映画をリメイクした長編娯楽映画で、タミル語(*1)版「Kadhalil Sodhappuvadhu Yeppadi 」と共に、テルグ語(*2)版「Love Failure(恋愛失敗談)」の同時公開となった作品。
 マラヤーラム語(*3)吹替版「Pranayathil Uzhappunathu Engane」の他、ロシア語吹替版、英語版「Love Failure」も公開されてるよう。

 いやーーー今時珍しい、というほどではないだろうけども、そう言いたくなるくらいピュアなロマンス映画でございました。
 主人公の失恋から始まる映画は、主人公の語りモノローグ、周囲のその他大勢の人々の恋愛観をドキュメンタリー的手法で描きつつ、主人公の恋愛を出会いから終わり(&その後の展開)までいじらしいくらい可愛く描いていくと共に、現在進行形で主人公の前で行われるモテない男友達たちの片思い恋愛の様子や、ヒロイン パールーの両親の別居から離婚へと進む関係性の変化、友人知人の中に起こる失恋や新しい恋愛模様、その他大勢の男女の恋愛観を一問一答的に見せて行きつつ、お互いの気持ちのすれ違いや言葉のかけ違いをテンポよく見せていく、爽やかな一作。

 監督を務めたのは、これが監督デビューとなる短編映画出身のバラージ・モーハン。
 1987年タミル・ナードゥ州ティルチラーパッリ(旧トリチノポリ)にて、テルグ人の父親とタミル人の母親の間に生まれ、州都チェンナイの工科大学に進学。大学時代に高成績を修めつつ映画製作を始め、初の短編映画「Velicham」で映画賞を獲得していたそう。その後、両親を説得ののち工大を退学して編集と音響デザイン、演技を学んで09年のタミル語映画「Kulir 100°(零下100度)」に助監督として参加して長編映画デビュー。その後も映画・TV番組・短編映画制作で活躍し、いくつかの賞を獲得している。
 本作の原作となる同名短編映画を見た撮影監督ニーラヴ・シャーの推薦を受けて、本作で娯楽映画監督(&脚本&出演&作詞)デビューし大ヒットを飛ばす。その後もタミル語映画界で活躍しつつ、14年には監督作「Samsaaram Aarogyathinu Haanikaram(おしゃべりは病気の始まり)」でマラヤーラム語映画デビュー、17年にはタミル語&テルグ語Webドラマ「As I'm Suffering From Kadhal(カダルに苦しめられたように)」の監督にも就任している。
 本作は、原作短編映画でも助監督兼出演(*4)しているアルジュナン(・ナンダクマール)が同じ役で出演して映画デビューを果した作品でもあり、彼も以降のバラージ・モーハン監督作を始め、タミル語映画を中心に活躍を広げている。

 予告編を見たときは、めんどくさい彼女に振り回される純粋青年のお話なのかと思ったけど、出だしはそういうノリで始まるものの、本編そのものは男女での思考パターンや恋愛観のズレをコミカルに、時にシリアスに、大学生とその親世代の恋愛模様も等価に描いていく青春劇。失恋の痛みをスクリーンの向こうの観客に訴える主人公に、大学講堂の全員が「彼女は戻ってこないよ!」と合唱する演劇的画面のまあ楽しいことw

 この映画では、角度によってはディーピカっぽくも見えるヒロイン パールー演じるアマラ・ポールの爽やかさと強さが、いい具合に物語を補強してくれて、アルン目線で展開するお話の中で強すぎも弱すぎもなく、いじらしい恋人模様を良い配分で支えてくれる演技を見せてれまする。ま、終始髪の毛濡れてます? って感じに顔に垂れ下がる前髪が気にはなりますけども。
 そんなヒロインに支えられつつしっかり主人公を演じるアルン役のシッダールタも、いつもの純粋系青年主人公とはいえ、適度に頑固で適度に良い人演技が楽しい楽しい。会話のズレで破局した恋人関係の原因が、最後に至ってもちゃんと理解できてるのかどうか微妙な所も、鈍感主人公としていい塩梅でございます。
 まあ、一番笑ったのは、カフェデートの時に男女で考えてることの圧倒的な違いの比較と、その時のアルンのアホさ加減だったけども(*5)w

 劇中、主人公を含めさまざまな男女の出会いが恋に繋がっていく(*6)様を繊細に描いていく映画ではあるけれど、いくら罵られてもひっぱたかれても諦めないインド男子は、強いというか鬱陶しいというか。
 愛しているがゆえに相手を信じられなくなる恋人像が、大学生たちのみならず、パールーの両親にも等分に割り振られているのがニクい展開で、それぞれの破局具合・ラストに向かっての再生具合(*7)の差の付け方も効果的かつ「さあ、読み取ってね!」って言ってるようで楽しい楽しい人生賛歌な映画ですわん。

 まあ、それにしてもコップ投げつける時の怒ったパールーの肩の入ってなさ具合よ…。

挿入歌 Ananda Jaladosam



「KSY」を一言で斬る!
・「あんたのフェイスブックに写ってる女は誰!?」と言ってきたパールに「婆ちゃんが好きなタマンナーとアヌーシュカだよ」と答えるアルン……貴様、バーフバリを見てたな!

2018.6.2.

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*1 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。
*2 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*3 南インド ケーララ州の公用語。
*4 主人公の友人シヴァ役。
*5 女性側がどうかは知らないけど、男ってああだねって言われれば、そうねとしか言えないわー。
*6 あるいは再生していく。
*7 あるいはそのままの消滅具合。