インド映画夜話

Krishnam Vande Jagadgurum 2012年 139分
主演 ラーナー・ダッグバーティ & ナヤンターラー
監督/脚本/原案 クリシュ
"これは、神のみぞ知る運命の導き"




 アーンドラとカルナータカの州境に近いベッラーリの森林が焼かれていた。
 森の村々を焼き払い、大規模な採掘工事を始める実業家レッダッパは、地主の許可を盾に住民たちを一人残らず追い出している。人々は、取材陣に対してこの暴挙を訴え続けていた…。

 同じ頃、ハイデラバードの売れない親族劇団で名演技を誇る元孤児B・テック・バーブーは、育ての親でもある義祖父スラービー・スブラマニアム率いる劇団に興味ないまま米国移民の手続きを進めていた。
 彼が、演劇よりも米国で成り上がることが家族の暮らしのためだと祖父に明言したその晩、祖父は誰にも気づかれぬまま息を引き取ってしまう。葬儀の最中、祖父の遺品として「創造主クリシュナを讃えよ」という台本を受け取ったバーブーは、一族の故郷ベッラーリの祭で祖父が皆でその劇をやりたがっていたと聞かされ、心動かされて行くのだった。

 一方、いまやレッダッパに牛耳られるベッラーリにて、この惨状を取材する女性記者デーヴィカは、レッダッパに抵抗していると言うチャクラヴァルティ率いるゲリラ隊を探し出そうとしていた…。


挿入歌 Spicy Spicy Girl (刺激的に刺激的なあの娘)


 タイトルは、テルグ語(*1)で「世界の創造主クリシュナへの讃歌」。

 同時公開で、タミル語(*2)吹替版「Ongaram」が、後にはさらにヒンディー語(*3)吹替版「Krishna Ka Badla」、マラヤーラム語(*4)吹替版「Action Khiladi」も公開している。
 日本では、2019年のIndoeiga.com主催の「魅惑のテルグ映画・第3回ラーナー・ダッグバーティ編」にて自主上映。

 「バーフバリ(Baahubali)」の悪役俳優ラーナー・ダッグバーティが主演する、愛郷心溢れるマサーラーアクション。
 冒頭、クリシュナ神話をなぞるような悪役の暴挙を描きつつ、それにかぶせるように主人公のヒンドゥー神話劇を景気良く見せつけるテンポの良さ。それがそのまま登場人物たちの啖呵合戦の心地よさに重なり、クリシュナをはじめとしたヴィシュヌ十化身の神話をも狂言回し的に取り入れて、インドも家族も捨て去ろうとした主人公が、家族愛・祖国愛・故郷愛に目覚め、それらを滅ぼそうとする悪を徹底的に粉砕する怒涛の展開を盛り上げる。

 タイトルといい劇中ヒンドゥー劇といい、ヒンドゥー神話ネタが色々と仕込まれているのはわかるけど、ある程度のところまでしか理解できないのが悲し。アビマニュって誰だっけ…?とか、ヴィシュヌ十化身は何と何があったっけ…(*5)とかの基本的な部分と、それを暗喩的に物語展開に取り入れる作劇の重層的イメージへの理解ってのは、ムツカシイもんだゼ…。
 とは言っても、得意げにヒンドゥーの神様を演じるラーナー始め出演陣の歌うような口上のカッコ良さは「やっぱ、こういう下地があってこその、インド映画界特有の作劇法や存在意義というもんがあるんだよなあ」と納得してしまうほどの迫力でございます。
 この頃、微妙に垢抜けてない感じに見える(*6)ラーナーも、劇中劇の歌舞いた芝居(*7)は安定した存在感を見せつけてくれまする。

 そのラーナー・ダッグバーティ(生誕名ラーマナイドゥ・ダッグバーティ)は、1984年タミル・ナードゥ州マドラス(現チェンナイ)生まれで、アーンドラ・プラデーシュ州ハイデラバード(*8)育ち。
 父親は映画プロデューサーのダッグバーティ・スレーシュ・バーブ、祖父も映画プロデューサーのD・ラーマナイドゥになる、映画一族ダッグバーティ=アッキネンニー家出身。
 04年のテルグ語映画「Bommalata(人形劇 / 別意 袋いっぱいの夢)」でプロデューサー補を務めて本格的に映画界入り。06年の「Sainikudu(兵士)」で視覚効果コーディネーターを務めた後、2010年のテルグ語映画「Leader(リーダー)」で主演デビューしてフィルムフェア・サウス新人男優賞とCineMAA新人男優賞を獲得。翌11年に「Dum Maaro Dum(ラリっちまえ)」でヒンディー語映画でも主役級デビューして、Zeeシャイン・アワード新人男優賞を受賞。
 本作でSIIMA(南インド国際映画賞)批評家選出男優賞を獲得した後、13年には「Arrambam(始まり)」にゲスト出演してタミル語映画デビュー。その後はテルグ語映画界を中心に、3言語界で活躍中。
 15年の「バーフバリ 伝説誕生(Baahubali: The Beginning)」でナンディ悪役賞、アジアヴィジョン南インド男優賞、CineMAA悪役賞を、17年の「バーフバリ 王の凱旋(Baahubali: The Conclusion)」ではフィルムフェア・サウス悪役賞、SIIMA悪役賞、IIFA(国際インド映画協会賞)悪役賞を獲得している。

 相変わらず、インドの辺境地域はどんだけ危険地帯なんだってお話なわけですが、クリシュナ神話を踏襲するような出生の秘密、御者クリシュナよろしく車アクションや戦いの前に知恵を授ける主人公や賢者の存在、親から続く因果などなど神話要素を現代劇に引き移す手法の手慣れさ、物語の盛り上げ方は流石に巧妙。西部劇的劇中舞台も、その効果を十二分に発揮させてオリエンタルでありながらも刺激的。まあ、申し訳程度につけられたロマンス要素が「それいる?」状態だったのがなんだかな…なんだけど、その分、強い女性として活躍するヒロイン演じるナヤンターラーが楽しそうに演じてるのが良きかな。

 特に、本作で特徴的なのは古代さながらの生活を続ける(*9)ベッラーリの森に住む人々。街の人々とは生活レベルが違う中で、それでも生まれ故郷を離れたがらず、その生活の豊かさをアピールする人々が、その苦境を作り上げた街の実業家たちに憎悪をむき出しにする姿が、カタルシスであるとともに現代社会批判を含んだ愛郷心鼓舞へとつながっていく。そこに流れるメインテーマ"Krishnam Vande Jagadgurum"の迫力ったら、相当なもんですよ!!

挿入歌 Krishnam Vande Jagadgurum (世界の主たるクリシュナよ、我は貴方の中に避難所を求めん)

*わりとネタバレ注意。


受賞歴
2012 TSR - TV9 Natinal Film Awards 男優賞(コータ・スリーニーヴァサ・ラーオ)
2013 South Indian International Movie Awards 批評家選出主演男優賞(ラーナー)・批評家選出主演女優賞(ナヤンターラー)


「KVJ」を一言で斬る!
・186cmの長身が、さらに高く見えるラーナーの長い手足と面長な顔が、これでもかと画面を暴れまわるのに、さらにそこに加わるワイヤーアクションのわざとらしさが、もう!

2018.11.30.

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*1 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*2 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。
*3 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
*4 南インド ケーララ州の公用語。
*5 諸説あって、必ずしも完全に決められてるものではないけれど。
*6 ヒゲがないからかしらん?。
*7 &わりと軽快なコメディ劇も。
*8 現在は、テランガーナー州内にある両州の共同州都。
*9 焼き出されて、余儀なくそういう生活になった?