囚人ディリ (Kaithi) 2019年 146分
主演 カールティ & ナレイン
監督/脚本 ローケーシュ・カナガラージ
"その魂に、手錠はかけられない。"
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ある晩、孤児院にて…
「アムダ、明日10時に大事な人があなたに会いにくるから、今日は早く寝なさいね」
「大事な人…? 両親のいない私に会いにくる人なんて、誰がいるの…?」
同じ頃、大規模な密輸麻薬押収に成功した警察特捜部に対して、密輸団のボスの弟アンブは押収品回収と責任者追求、さらには裏切り者の処刑に乗り出していた。
押収品を一旦郊外の秘密倉庫に集めた特捜だったが、マフィアの潜入員によって毒を盛られ40人全員が意識不明の重体になってしまう! ただ1人、治療のため酒を絶っていた隊長のビジョイ警部補だけが行動可能であったのだが、遠方の医者に症状を伝えれば、5時間以内に治療しなければ仲間たちの命が危うい可能性が…!!
その時、ビジョイは部下が不審者だからとパトカーに繋いでいた男ディリを思い出す。大型車の運転ができると言う彼にトラックを運転してもらえれば、80km先の病院へ全員搬送は可能。しかし、実はディリは終身刑を減刑されて釈放されたばかりの身。夜が明ければ、10年会ってない娘との面会が叶うから面倒は困ると言う。
一方でタミル・ナードゥ州ティルチーの街中では、正体不明のマフィアボスの命令を受けたアンブ指揮のもと、無数の男たちによる押収品奪回のための警察署襲撃の準備が着々と進んでいた…!!
BGM Dilli's Swag
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原題は、タミル語(*1)で「囚人」。
映画全編が夜間の撮影のみで行われていて、その内容は76年のハリウッド映画「ジョン・カーペンターの要塞警察(Assault on Precinct 13)」の影響を受けていると指摘されている。
テルグ語(*2)吹替版「Khaidi」と同時公開され大ヒット。
その人気から続編への期待もささやかされたものの、ケーララ州コーラム在住のラジーブ・フェルナンデスによって自身の小説アイディアの剽窃であると本作のプロデューサーが訴えられ、その事実が確認できたとして補償金支払および続編やリメイク作の禁止が通告されているとか(*3)。
インドより1日早く米国で、インドと同日公開でフランス、英国、アイルランド、シンガポールでも一般公開。英国公開に関しては、激しい暴力と薬物シーンをカットした短縮版での公開となったよう。
日本では、2019年にSpacebox主催の自主上映にて英語字幕上映。2021年のIMW(インディアン・ムービー・ウィーク)にて日本語字幕付きで上映され、同年に一般公開。23年には神戸インド映画祭で上映されている。
いやーーーもう実に高密度で、爽快で、迫力満点の映画!
たった1晩の出来事を追う物語は、追っ手から逃げるビジョイとディリの主人公グループの視点、警察を追い詰めようとするアンブ率いるギャングたちの視点、双方がそれぞれに潜り込ませている潜入員たちの視点、ギャングたちの襲撃の標的となった警察署にたまたま居合わせてしまった老いた新任警官と大学生たちの視点…と、複数の立場から進行する物語を並行させて、それぞれのしがらみが絡み合って複雑な利害関係・対立構造が嵐のごとく変化していく目の離せなさ。危機また危機の展開も、その都度新しい状況の中で新しいしがらみを課せられた状態で襲ってくる、その絵面の強烈さも状況の過酷さも、話が進むにつれてどんどんヤバ味が加速するそのスピード感も、よくもそこまで考えるなという無数のアイディアに満ち満ちていて凄まじい。まさに1級品のチェイスアクションであり、サスペンスであり、スリラー映画でございますよ!
1夜の物語ってだけあって、あんだけ次々に強烈な事件が起こりつつも画面はずっと夜のシーンで、強面の男たちがその闇夜から続々現れてくるのは叙事詩を下敷きにした修羅の国描写にも見えつつ、見たことないような印象的なカメラワークを駆使しつつ、そのフィルムノワール的でありニューシネマ的な殺伐とした画面圧それ自体がまあカッコいい。
そこに、主人公ディリの「娘に会いたい」と言う切ない願望、ビジョイの潜入捜査中に殺された仲間たちへの哀悼の願いが、それぞれに闇夜の画面圧に対抗するような情感を付け加えてくれる。家族や仲間たちへの愛情や一体感が、人の命をなんとも思わない怒る修羅と化したギャングたちに対して足枷となり、逆に唯一の武器ともなり得る。殺伐としたギャング抗争ものでありながらも、そうした情感の伝播描写による湿り気が、映画に多重な感情喚起ポイントを作り上げていき、そのバランスの増減に見てるこちら側もいいように振り回される。ああ、その感情の波に身をひたす楽しさったら。
カールティ演じる寡黙な主人公ディリの、初登場シーンから「こいつは頼りになりそうだゼ!」な貫禄が「え? カールティってこんな太ましい人だったっけ?」って驚きもありつつ、額のシヴァ派文様を見せながら伏せ目がちに人と目を合わせようとしない弱気な態度に「全部フリでしょ? ねえねえ、全部フリなんでしょ?」って期待を裏切らない中盤以降の爆発ぶりが最の高。
口の悪い警官からの命令にトラックで突進しかけたり、ビリヤニを黙々と平らげてから出発の準備を始めるふてぶてしさもハナマルもの。わしゃあ、こう言う年の取り方をしたいもんじゃき……とか言いたくはなるけど、ワタスなんぞ道案内役の小間使いのヒョロ君レベルにもなれないかもだわあ。くすん。
ま、この映画における「ヒーローになり得ない一般人や脛に傷持つ人が、最大の危機の中でヒーローへと激変する」ってヒーロー像もカッコ良すぎて鼻血もの。
そのシャレにならない命の危機に、それぞれのキャラクターがそれぞれの覚悟を決めて行動を起こすまでの逡巡もきっちりとサスペンスしてて目が離せないし、そこからの逆転方法も最後までハラハラしまくり。人と人の優しさのすれ違いも、騙し合いの小狡さの錯綜も、しっかりドラマとして構築されて次の展開へと繋がっていくのもスキなし。全体としてはアクション映画であり一種のパニックムービーとして作ってあるんだろうけども、そこに描かれる感情の起伏の多彩さも、これからの映画へと受け継がれていきそうに感じられる技術と話術の高さを見せつけられている感じ。最終的な所で家族愛が物語を押し進める所なんかは、ホント上手いよなあ…と感心してしまいますよ。
所々、どうやって撮ったんだろう…と首をかしげるカメラワークもあり、夜中の撮影にやたらとエネルギッシュに暴れまわる役者陣と言い、映画がどうこう以前に生物としての元気さが半端ないなあ、とか、こう言う映画を見てると思うことでもありますわ。まず、そのパワフルさから見習いたいけど、そのためには体力作りとかからですかねえ…。
VFXメイキング
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受賞歴
2020 Ananda Vikatan Cinema Awards 助演男優賞(ジョージ・マルヤン)・スタント監督賞(アンバリヴ)
2020 Norway Tamil Film Festival Awards 主演男優賞(カールティ)・悪役賞(アルジュン・ダース)・編集賞(フィロミン・ラージ)
2020 Zee Cine Awards Tamil 人気監督賞・スタント監督賞(アンバリヴ)・悪役賞(アルジュン・ダース)・助演男優賞(ジョージ・マルヤン)
2021 SIIMA (South Indian International Movie Awards) タミル語映画作品賞・タミル語映画助演男優賞(ジョージ・マルヤン)・タミル語映画悪役賞(アルジュン・ダース)
「囚人ディリ」を一言で斬る!
・意識不明の重体を救う緊急事態と入っても、トラックの荷台にすし詰めにはされたくないよぅ(助かるならしょうがな…うーむ)。
2021.12.4.
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