Kalloori 2007年 140分
主演 タマンナー & アキル
監督/脚本/原案/台詞 バーラージ・シャクティヴェール
"友よ、勝利を我らに…平穏を探り出そう"
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その日、学生たちの集団がある道路脇の雑草取りに勤しんでいた。
誰一人喋らず、周囲からも意識されず、ただ皆で黙々と草を刈り続けていた…
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数年前。
スポーツ特待生枠で官立大学に入学したムットゥ(本名ムトゥセルヴァン)は、初日の通学バスの中で、久しぶりに地元の同級生たちと再会する。
皆が同じ史学科クラスであることを喜ぶ友人たちだったが、ムットゥはそのクラスの中で一人沈んだ顔をする見知らぬ美女ショーバナのことが気になっていた。彼女はほとんど一言も話さず、自己紹介も英語のみで「バンガロールから個人的な理由で一時的にこの大学に身を置いています。すぐにデリーの大学に移る予定です」と語る。
そんな彼女にちょっかいをかけようとする上級生からショーバナを守ったことをきっかけに、同級生たちは彼女の身の上話を聞いて友情を結んでいくが…。
挿入歌 June July Matham (6月と7月の棚に咲く花こそ [友情の花])
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タイトルは、タミル語(*1)で「大学」。
「バーフバリ」のタマンナーと新人男優アキルを主演に迎えた、バーラージ・シャクティヴェール3作目の監督作となる社会派青春劇。
ラストの展開は、2000年にタミル・ナードゥ州内で起こった実際の事件を元にしている。
テルグ語(*2)版「Kalasala」も公開。
最後の衝撃展開から逆算して作られたような青春劇。
インドの田舎の大学ってこんな感じなのね…と追体験してる感覚に襲われる、大学生たちのなんということもない日常の悲喜こもごもを繊細に積み上げていく本作は、その何気ない日常生活で交わされる会話・触れ合い・衝突の、1つ1つがかけがえのない素晴らしいものであることを見せつけてくる。
序盤、ただ一人大学に馴染もうとしないヒロイン ショーバナが抱える悲しみが吐露されると、同情した主人公側グループがそれぞれに彼女を支援し始める中で明かされる、それぞれの家庭にはびこる貧困・病苦・虐待・児童労働の実態も重い。大学に集まってくる学生たちが、それぞれに「大学生」として振る舞う校内生活の自由を手に入れつつ、家に戻れば全く違う現実と向き合いながら勉強と家庭事情を両立させて家を支えていると言う日常。それをおくびにも見せない各大学生たちの振る舞いの誇り高さ、やるせなさ、優しさの、なんと健気なことか。
劇中何回も繰り返される主人公ムットゥの帰宅シーンの、その家路の先をショーバナが見ることになる後半の衝撃度をはねあげさせる演出も見事。
昼休みに、それぞれの家庭事情の垣根(*3)を越えて皆でお弁当を分け合いながら楽しむ昼食スタイルは、青春劇の一つの理想形を描いていると同時に、インド社会の目指すべき1つの理想像でもあるかのよう。大学生たちの中で、ただ一人肌の白いショーバナを演じるタマンナーのキャスティング意図がものすごくはっきりして見えてくる構図も見事と言うか、あからさまと言うか…。
監督&脚本を務めたバーラージ・シャクティヴェールは、1964年タミル・ナードゥ州ディンディグル(現ティンドゥッカル)生まれ。
シャンカル監督(*4)の助監督として映画界入りし、02年の「Samurai(サムライ)」で監督&脚本デビュー。本作は3本目の監督作となり、これに続く12年の監督作「事件番号 18/9(Vazhakku Enn 18/9)」でナショナル・フィルムアワード注目タミル語映画作品賞他多数の映画賞を獲得する(*5)。
主人公ムットゥを演じるのは、1988年タミル・ナードゥ州ディンディグル生まれのアキル(生誕名モハメド・ファローク・メール・アブドゥル・ラザク)。
本作で映画&主演デビューして、ヴィジャイ・アワード新人男優賞にノミネート。以降もタミル語映画で活躍して徐々に出演作を増やしていっている。
それぞれキャラが立ちまくってる高校の同級生チームたちが、様々に衝突し和解し共に成長し合うエピソードの数々は、堅実に丁寧に、ともするとしつこいくらいゆっくりとその変化具合を描いていく。
それがために、ムットゥとショーバナの甘酸っぱい恋愛模様が引き立つと同時に、ラストに向けての社会の理不尽さを強調する要素ともなっていく。田舎にはびこる様々な人生上の苦難に耐えつつ、それぞれに友情を深めそれぞれに結びついていく大学生たちの強さと未来への展望が、一瞬にして摘み取られる不条理が、なぜそのまま社会に放置されたままになっているのか…。ネタ元となった実際の事件も、知れば知るほど「なんで、そんなことが!?」と驚愕してしまう事実で、日常を精一杯生きていく大学生の希望が簡単に潰される恐怖、それでも人と人の繋がりがそうした社会の不条理を爪の先ほどであっても変えていけるだろうと言う希望を見出そうとする、若い世代へ継承されるであろう社会変革を促す怒り・価値観の変遷・精神の豊かさを謳い上げんとする、その覚悟を描こうとした傑作でありましょうか。
挿入歌 Sariya Ithu Thavara (これは、夢か現か)
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「Kalloori」を一言で斬る!
・大学初日にお昼を食べる場所を探す友人たちの中で、いい場所を見つけたサンディヤが自分のカバンをそこに置いてみんなを呼びに行ってたけど、インドも席確保に荷物置いておくのね!(数歩分くらいしか離れなかったけど)
2020.4.10.
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