インド映画夜話

Kick 2009年 155分 主演 ラヴィテージャー & イリヤーナー & シャーム
監督/脚本 スレンデル・レッディ
"これは…これは一体どう言うこと?"
"ゲームさ。ただのゲーム…刺激的だろ?"


挿入歌 I Don't Want Love (僕は愛を求めない)


 マレーシア在住の誇り高き少女ナイナは、再三にわたる父親からの「結婚しろ」攻撃を斥けていたものの、家族全員から一度会ってみろとせがまれ、しかたなく見合いすることを承諾。しかし、特急列車でデートする見合い相手の名前が"カーリヤン"と知ってものスゴい拒否反応をしめす…

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 以前、ハイデラバードにいた彼女には、カーリヤンと言う名前のボーイフレンドがいた。
 彼との出会いは、親友が親の反対する相手と極秘に結婚式を上げる事について相談していた時。突然現れたカーリヤンは親友の逃げ道をその母親に告げ口しつつ、その追手から恋人たち&ナイナを守って式場まで走破し、ドタバタの騒ぎの中結婚式を滞りなく処理してしまう。なぜ彼がそんな回りくどい事をしたのか? それは…「ゲームだよゲーム。キック(=刺激的)"だったろ?」
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 ナイナの思い出話に興味を持った見合い相手のカーリヤン・クリシュナは、彼女の話を受けてこう切り出す。「そんな奇妙な人間は、ハイデラバードに他にもいたかい? …僕はもう1人知っている。君に奇妙な恋人がいるように、僕には奇妙な宿敵がいるんだ…」


挿入歌 Dhim Thana (ディン・タナ)


 「Ashok(アショク)」のスレンデル・レッディ監督作4本目となる、09年の大ヒット テルグ語(*1)映画。
 翌10年にタミル語(*2)リメイク「Thillalangadi」、14年にはヒンディー語(*3)リメイク「Kick」、カンナダ語(*4)リメイク「Super Ranga」も公開。
 さらに、大ヒットにのって、2015年に続編「Kick 2」も公開された。

 イリヤーナー演じるナイナのヨガシーンから始まる静かでスタイリッシュな出だしからは想像もできない、ハイデラバードを舞台にしたナイナとカーリヤンのドタバタロマンス劇の前半、マレーシアを舞台にしたカーリヤン警部VS"キッカー"のカーリヤンとの丁々発止の騙し合い対決の後半とボリューム満点なのに、さらに無駄に長いコメディシーンと複数のコメディアンも物語に花を添えつつ、しっかりきっちり物語が盛り上がって1つ所に収束するその巨大風呂敷を畳む演出的手腕は凄まじい。

 "刺激的なこと"を求めるが故に次々と問題を起こす主人公カーリヤンと、それに振り回されつつ人の役に立とうと奮闘するナイナのキャラクターの完成度こそがこの映画最大の魅力。それを演じきったラヴィテージャーとイリヤーナー(・デクルーズ)のコラボ具合が120%引き出されている、その演出方法は色々と勉強になりますわあ。
 ラスト近辺で明らかになる、カーリヤンの本当の目的はそれだけでもビックリエピソードながら、その後も続く警察とのチェイスシーンなんかルパン三世なノリでお話を盛り上げまくる。コミカルな前半からの映画自体の自然な変身具合が、ボリューム的に満腹&満足感たっぷり。

 監督を務めたスレンデル・レッディは、1975年アーンドラ・プラデーシュ州カリームナガル県ジャミクンタ(*5)生まれ。
 05年のテルグ語映画「Athanokkade」で監督&脚本デビューし、ナンディ・アワード監督デビュー賞を獲得。続く06年の「Ashok(アショク)」以降、脚本家ヴァッカンタム・ヴァムシと組んで監督作を発表し続けている。本作ではフィルムフェアのテルグ語映画監督賞にノミネートされている。

 主役カーリヤン演じるは、ご存知ラヴィテージャー。本作と同じ09年には、ナヤンターラーと共に主演した「Anjaneyulu(アンジャネユール)」にも出演している。
 ヒロイン ナイナにはイリヤーナー・デクルーズ(*6)。06年の「Devadasu」デビュー以降順調にテルグスターとして爆進中の頃。09年には他に、「Rechipo」「Saleem(サレーム)」の2本に主演している。
 後半に準主役となるカーリヤン・クリシュナを演じたのは、1977年タミル・ナードゥ州マドゥライ生まれでカルナータカ州ベンガルール育ちのタミル人俳優兼モデル シャーム(生誕名シャームシュッディン・イブラヒム)。学生時代から映画俳優を目指してモデル業を初め、モデルコーディネーターを介して、映画監督デビュー作の準備をしていた撮影監督ジーヴァと出会い、そのタミル語監督作「12B」で主演デビュー。その前年の00年に、ジーヴァが撮影監督として参加していたヴィジャイ主演作「Khushi(幸福)」での端役出演が映画デビュー作となった。初主演作「12B」が大絶賛されて一躍タミル語映画界のトップスターに躍り出て、06年の「Tananam Tananam」でカンナダ語映画に主演デビューし、09年に本作でテルグ語映画デビューとなった。

 前半にまかれた伏線的"キック"の数々が、後半マレーシアに舞台を移してより反社会的側面を強化させていながら、その裏には大きな社会批判的メッセージが反映されていたと言うどんでん返しは気持ちいい限り。後にヒンディー語リメイクされた時は、そのメッセージは庶民を見下す成り上がり富裕層キャラに向けられていたものだったけど、オリジナルであるこちらは政治家や警察機関などの権力側全体に向いているのが特徴。それに対して、第3者的悪役とかが出てこず、主人公と裏主人公の警部の真っ向勝負になってる所が「ルパン三世」か「スパイ大作戦」のようなノリで熱い!
 ジャンプマンガ的と評されることもあるテルグ語マサーラー文法のそれを、ウマく換骨奪胎しつつ"愛・友情・勝利(+笑い?)"を描いていく物語のハイパワーさったらもう!!

挿入歌 Boss Memory Loss (ボス、記憶喪失だよ)



「Kick」を一言で斬る!
・【チャンドラムキ】といい【Gajini】といい『ラジニカーント(のマスク)が犯人だ!』と言い出したり、やたらタミル映画ネタが入るのはなぁぜ?w

2019.12.28.

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*1 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*2 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。
*3 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
*4 南インド カルナータカ州の公用語。
*5 現在はテランガーナー州所属。
*6 本作クレジット上では"イリヤーナー"のみの表記。