インド映画夜話

KILL 超覚醒 (Kill) 2023年 105分
主演 ラクシャ & ラーガヴ・ジュヤル & ターニャ・マニクタラ
監督/脚本/台詞 ニキル・ナゲシュ・バート
"連れて帰る…約束だ"




 NSG(国家治安警備軍)所属のアムリト・ラトールが訓練から戻った日、恋人のトゥリカ・シンから「どこにいるの!? 明日、父の命令で婚約させられるのよ!」というメッセージが。

 トゥリカの婚約式が執り行われるジャールカンド州都ラーンチーに急行してトゥリカと駆け落ちしようとするアムリトだったが、トゥリカは権勢を誇る実業家の父バルデーヴ・シン・タークルを恐れて駆け落ちを一旦は拒否してくる。
 そのまま翌朝には特急列車でニューデリーに帰るトゥリカだったが、アムリトと彼の同僚ヴィレシュ・チャトワールも彼女を追って同じ列車に乗り込み、アムリトは彼女と2人きりになると正式にプロポーズ。承諾を得て2人は結婚を誓い合うのだった……。

 その同じ列車内に、ファニ・ブシャン率いる武装強盗団も乗り込んでいた。彼らは、ダルトンガンジ駅から集団で乗り込んできて、他の車両への逃げ道を塞いだ後、特定車両の人々への襲撃を開始。トゥリカの美貌に惹きつけられたファニは、彼女の父親が有名な富豪と知って彼女たち一家の誘拐に作戦を切り替えようと言い出す。
 その騒ぎを目の当たりにしたアムリトとヴィレシュは、人々を救出するため狭い車両内で強盗団と戦い始め、ファニの叔父バッバンを殺してしまうと、ファニは復讐に憤る強盗団を一喝し「復讐は息子のラヴィに任せろ。俺たちは、タークルに金で償わせる」と宣言する…!!


プロモ映像 Kill (Kaawaa Kaawaa)

*わりとグロい映像があるので注意。


 2009年に「Saluun」で監督デビューした、ニキル・ナゲシュ・バートの6作目(*1)の監督作となる大ヒット・アクション映画。
 その物語は、監督自身が1995年に経験した列車強盗事件に着想を得ていると言われる(ホンマかよ!)。

 2023年のトロント国際映画祭でプレミア上映され、ミッドナイト・マッドネス観客賞部門で次席作品賞を獲得。世界中の映画祭で上映されたのち、2024年にインドで一般公開。日本では、2025年に一般公開されている。

 全編これ容赦ない血まみれアクションで評判になった大ヒット作。
 予告編を見た時から、80年代ボリウッド(*2)のようなバイオレンスもの映画かと思って覚悟して見てみたら……やっぱり覚悟完了してもなかなかに衝撃的な映像の連続でつないであるアクション全振り映画でありましたわ。
 前半はそれでも、列車内皆殺し事件の準備時間に割り振られていて、凄惨な殺し合いに至るまでのそれぞれの登場人物たちの背景、人間関係、状況説明の方に比重をおいた話運び。ショッキングな映像もあるはあるけれど「これくらいなら、特殊効果として目が処理してくれるから大丈夫大丈夫」と安心していたこちらの思惑を逆手にとって、復讐に全フリして覚醒する主人公の殺意が全開になったインターミッション後からは、まさに容赦なし流血アクションの数々のオンパレード。あれやこれやと連続する数々の殺害方法はドンドンとヒートアップし、次々とくる"痛い"シーンの連続でこちら側の感覚も麻痺してくるほど。映画全体の悲壮感もマシマシになり、延々と続く殺し合いの中での止まらぬ怨恨の渦がもたらすものがただ「虚しさ」へと直結していく語り口は、大戦争の末の鎮魂に注目する叙事詩の伝統へのオマージュでもありましょかどうでしょか(んなわけあるかい!)。

 国民を守るための軍人であり、恋人家族を守るために立ち上がる主人公に対し、親族40人の食い扶持を稼ぐために強盗団を結成する悪役側の容赦なき対立構造も清々しいほどの平行線。次々人を手にかけていながら「叔父貴を殺した奴に復讐させろ!」とか言い出す強盗団の交渉不可能な殺人鬼っぷりは、映画前半にはまだ機能していた「なにも殺さなくても…」的な手心を完膚なきまでに粉砕する。
 殺し合いの始まった車両内や車両外の暖色と寒色の照明効果もいちいち意味深でありつつ、その照明の色が飛び散った流血を隠す効果にもなり、車両間スペースの白色ライトに切り替わった時に浮かび上がる血だまりの衝撃を跳ね上げもするライティング演出も鮮やか。
 撮影に入る前に俳優陣に総合格闘技の特訓を行なったという、その身体のキレも美しいながら、リアル寄りの演出で統一された映画はアクションそのものを楽しませる画面を見せるというより、アクションがもたらす「痛々しさ」を強調する絵作りを意識しているようで、その意味では外連味的な爽快感は薄い。相変わらず、インドの殺陣は障害物などを利用した「見せない効果」を重視する舞台的な見栄を切りますし。

 まあとにかく、映画の8割強は特急列車内の狭い空間だけで映画の起承転結を描いていく豪胆ぷりは見もの。セットで作られた飛行機内を縦横無尽にカメラが走り回る「ニールジャー(Neerja)」にも通じる、閉鎖空間を右往左往する大量の人々をどう画面に構成するか、どう動かしどう見せるかって絵作りの苦労がにじみ出ているようにも見える。まあ、本作はわりとその場の流れで押し切ってる感じもするけれど…。
 それはともかく、「ロボット(Enthiran)」と言い「Ghajini(ガジニー)」と言い、インドの列車内はすぐ喧嘩が勃発する怖かところたい。列車内アクションと言う、アクションものの常道パターンを使って、よくこれまで劇的なアクションシーンを次々生み出すもんですわ。使い古されたと思われる娯楽要素も、見せ方1つ、使い方1つで全然違うものに化けるんですねえ…。殺し合いが続く中でも、平常に運行を続ける無慈悲な高速列車は、さながら銀河鉄道のよう…(とムリクリ綺麗に締めてみる)。



挿入歌 プロモ映像 Jaako Raakhe Saaiyan

*わりとグロい映像があるので注意。


受賞歴
2024 Bollywood Hungama Surfers’ Choice Movie Awards 悪役賞(ラーガヴ・ジュヤル)・先駆的作品賞・男優デビュー賞(ラクシャ)
2024 Lions Gold Awards 女優デビュー賞(ターニャ・マニクタラ)
2024 FOI Online Awards 助演男優賞(ラーガヴ・ジュヤル)・プロダクション・デザイン賞(マユル・シャルマー)・スタント監督賞(オー・シー・ヤング & パルヴェス・シャイクー)
2024 ELLE Beauty Awards 新世代・オブ・ジ・イヤー賞(ターニャ・マニクタラ)

2025 IIFA(International Indian Film Academy) Awards 悪役賞(ラーガヴ・ジュヤル)・男優スター・オブ・ジ・イヤー賞(ラクシャ)・撮影賞(ラフィ・メフモード)・音響デザイン賞(スバーシュ・サーホー & ラヴィ・ソニ)・再録音賞(スバーシュ・サーホー & ボロイ・クマール・ドーロイ・ラフール・カルぺ)
2025 Filmfare Awards 男優デビュー賞(ラクシャ)・プロダクション・デザイン賞(マユル・シャルマー)・撮影賞(ラフィ・メフモード)・編集賞(シヴクマール・V・パニッカル)・音響デザイン賞(スバーシュ・サーホー)・アクション賞(オー・シー・ヤング & パルヴェス・シャイクー)
2025 Zee Cine Awards 男優デビュー賞(ラクシャ)・アクション賞(オー・シー・ヤング & パルヴェス・シャイクー & スーボン・リー)
2025 Times of India Film Awards 悪役賞(ラーガヴ・ジュヤル)・男優スター・オブ・ジ・イヤー賞(ラクシャ)
2025 DPIFF(Dadasaheb Phalke International Film Festival) 演技・オブ・ジ・イヤー賞(ラクシャ)
2025 Critics’ Choice Film awards 編集賞(シヴクマール・V・パニッカル)
2025 News18 REEL Movie Award 男優デビュー賞(ラーガヴ・ジュヤル)
2025 Pinkvilla Style Icons Awards 男優デビュー賞(ラクシャ)
2025 International Iconic Awards 助演男優賞(パルス・ティワーリー)


「KILL 超覚醒」を一言で斬る!
・電車の入り口から頭出してたら、線路脇構造物とかにやられそうで、そっちも怖いお!(*3)

2026.6.5.

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*1 Webシリーズ監督含む。
*2 ヒンディー語娯楽映画界の俗称。

*3 ラ・ワンだと乗客がやられそうになってたじゃん?