インド映画夜話

KOYLA 〜愛と復讐の炎〜 (Koyla) 1997年 167分
主演 シャー・ルク・カーン & マードゥリー・ディークシト
監督/製作/原案 ラケーシュ・ローシャン
"石炭の燃えるが如く…復讐の炎が今、燃え広がる!!"


ドイツ語版予告編



 地方領主ラジャの元では、全ての住民は彼の思うまま。女を囲い、男を虐げ、その資財を巻き上げようと誰も文句を言えない。

 そんなラジャの元で猟犬使いの仕事をする口の聞けない男シャンカルは、ラジャお気に入りの"飼犬"。領主への忠誠厚く、しゃべれないがためにどんな秘密も漏らす事はない。
 ある日、ラジャは領内の悪戯娘ゴウリを見初め、すでに囲っている愛人ビンディヤを無視してゴウリとの結婚を決意する。「どんな相手でも、顔を見るまでは結婚しない」と言うゴウリのため、彼女の養父母(彼女の伯父と伯母)に「見合い相手」としてシャンカルの写真を送りつけたラジャは、シャンカルに一目惚れしたゴウリをまんまと結婚式に連れ出す事に成功し、だまされたと知った彼女をよそに結婚儀礼を完成させてしまう!
 「お前が泣いて妻にしてくれと願うまで、お前の苦しみは続くのだ」と抵抗するゴウリを虐待するラジャだったが、これを知ったシャンカルは…!!


プロモ映像 Badan Juda Hote Hain (私の身体が引き離される [でも心までは…])



 タイトルは、ヒンディー語(*1)で「石炭」。
 日本では、1999年に「KOYLA(コイラ) 〜愛と復讐の炎〜」のタイトルでDVD発売されていました。

 しょっぱなから、荒野を馬で疾走するラジャたちと、犬よりも速く走るシャンカルの狩りで始まる西部劇的世界で始まる映画で、専制君主の領主の横暴が続く舞台でそれに反抗する主人公たちを描くアクション・ロマンス。望まない結婚を強いられて領主屋敷に閉じ込められるヒロイン ゴウリと、笛を吹く事が唯一の慰みとなる奴隷同然のシャンカルのロマンスとなれば、その物語構成は、伝統的にインド庶民層に人気なクリシュナ神話を基盤にしているのは言わずもがな。

 口がきけず、行く当てもないことから悪役ラジャに絶対の忠誠を誓う主人公シャンカルのまさに"飼犬"のような領主ラジャへの懐き方、半野生のような身体能力(*2)もキャラが立ちまくっててかわいカッコいい。
 ラジャ演じるアムリーシュ・プリの堂の入った悪役っぷりは、そりゃもう気持ち悪いほどの迫力。珍しい白髪ロン毛もわりと違和感ないけども、薄気味悪い笑顔とその爽快なまでの自己中っぷりが、主人公たちの反抗で壊されていくのは「やーいザマミロ」と同情の余地なしで見てしまえるほどの迫力であります。
 シャールクとは、94年の「アシュラ(Anjaam)」以来2本目の主役共演作となるゴウリ役マードゥリーは、「アシュラ」ほどではないにしても、またシャールクに人生を振り回される"耐える(&反発する)女"の位置でんな。後半どんどん影が薄くなるのは残念。

 高山地域っぽい傾斜のきつい風景が多いロケーションは、ヒマラヤの近くなんかなあくらいに思ってたけど、ネット情報だと舞台はインド最東部アルナーチャル・プラデーシュ州(*3)と書いてあって「へええ!」ってな感じ(ホント?)。

 監督のラケーシュ・ローシャンは、1949年ボンベイのパンジャーブ人家庭に生まれた映画監督兼プロデューサー兼俳優。父親は音楽監督のローシャン(・ナーグラート)。弟は、本作で音楽監督をしているラジェーシュ・ローシャンになる。
 1970年の「Ghar Ghar Ki Kahani」に端役出演して映画デビューし、翌71年に「Seema」と「Paraya Dhan(金の切れ目)」の2本で主演デビューする。その後、80年に自身の製作プロダクション"フィルムクラフト"を設立して「Aap Ke Deewane(君に夢中)」でプロデューサーデビュー。この映画で自身の出演と共に、息子のリティック・ローシャン(当時6才)を出演させてたりする。87年には「Khudgarz」で監督デビュー。以降、監督兼プロデューサーとして活躍していき(*4)、00年には息子リティックの主演デビュー作「Kaho Naa... Pyaar Hai(言って…愛してると)」で監督兼プロデューサーを務めて息子の華やかな俳優デビューを飾っていた。この大ヒット映画は、後に収益配分をめぐってトラブルを起こし、ラケーシュ・ローシャンを狙った銃撃事件が起こったりしたものの、01年のフィルムフェア・アワードを初め多くの映画賞が贈られ、名実ともにヒットメーカー監督へと登りつめることに。
 06年、その映画界への長年の貢献を祝してIFFI(国際インド映画祭)栄誉賞と、GIFA(グローバル・インド映画賞)が贈られ、15年にはアプサラ・アワードから業績賞が授与されている。

 中盤のシャンカルとゴウリの逃避行シーンは、緑濃い密林の中で音も立てずに追手を次々とブービートラップで殺していくシャンカルの容赦のなさと神出鬼没っぷりが、さながらベトコン映画のよう。ずっとお屋敷の飼育係やってた人が、なんでそんな技術持ってるのだろう…w
 後のラケーシュ監督作「Koi... Mil Gaya (なにかが…やってくる)」でも出てくる森中の野良象が本作にも出てくるけど、そんなんが突然現れるインド恐るべしぃぃぃ…!!


プロモ映像 Ghunghte Mein Chanda Hai (霞んだ月が夜空に広がり [八方を照らす])







「KOYLA」を一言で斬る!
・首を切られるシャンカルの、血が吹き出る一瞬のシーン、どうやって撮ったんだろ…。

2016.9.16.

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*1 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
*2 犬より速いはやりすぎ、とは言いたいけどw
*3 長年、印中間でその帰属を争う国境紛争地域。
*4 この人の監督作は、すべてKで始まるタイトルだったりする。
*5 結婚時のダウリー始め結納品の有無とか。
*6 屋内で靴を脱ぐのか脱がないのか等。
*7 多少メルヘン的なニュアンスも匂う?