インド映画夜話

リンガー (Lingaa) 2014年 178分(DVD収録版は142分)
主演 ラジニカーント & アヌーシュカ・シェッティ & ソーナクシー・シンハー
監督/脚本/特別出演 K・S・ラヴィクマール
"これは…貴方方の子供達のためのものであり、貴方方の未来そのもの"
"それを、自分の手で作ろうとは思わないのか!"




 その夜、タミル・ナードゥ州ソーレイユール村にある植民地時代建造のダムにて、ダム査察に来ていた政府検査官が何者かによって殺された。
 彼は、騒ぎを聞きつけた村長に「村を…救いたければ、…シヴァ寺院の門を開けろ…」と言い残して事切れる…。

 70年以上も閉ざされたままのシヴァ寺院の扉は、かつてダムと寺院を共に建造したマハラジャ リンゲーシュワランの末裔でなければ、開けてはならない事になっている。
 村出身のニュースレポーター ラクシュミーが早速かつてのマハラジャの子孫を探し始めると、街の警察署に収監されているコソ泥リンガーこそがリンゲーシュワラン唯一の子孫なのだと判明!! わざわざ警察署を訪ねてリンガーを釈放させたラクシュミーは、彼に村の危機からの助力を願い出るが、リンガーは鼻で笑って答える…「祖父の遺産だと? 祖父が俺たち家族に何をしてくれた? 教師だった父は祖父から何も与えられず貧乏の中で死んだ。俺たち家族は、祖父からはその名声だけしか与えられなかった! 迷惑な話さ!!」


挿入歌 Mona Gasolina (美しきモナよ [彼女の笑顔はガソリンの様な明るさを放つ])


 タイトルは主人公の名前だけど、劇中でも重要な舞台となるシヴァ寺院に祀られるシヴァ神のシンボルのことでもあ…る?(*1)
 「ムトゥ(Muthu)」のラヴィクマール監督&ラジニカーント主演&A・R・ラフマーン音楽と言うトリオが贈る、タミル語(*2)マサーラー・アクション映画。
 同名タイトルで、テルグ語(*3)吹替版と、ヒンディー語(*4)吹替版も同時公開。
 その物語内容が様々に政治的に問題視されたために、数々の短縮バージョンが存在するそうな。

 インドより1日早くクウェートで、インド本国と同日公開でオーストラリア、フランス、英国、ノルウェーでも公開されたよう。
 日本では、17年にSPACEBOX主催の自主上映会で上映。同年の ICW(インディアン・フィルム・ウィーク)でも上映作に選ばれ、大阪ではラジニファン集結上映イベントも開催。翌18年にはインド映画同好会配給のもと一般公開。さらに、19年〜20年にかけて各地で開催されたインド大映画祭でも上映されている。

 植民地時代にインド人だけで作り上げた(架空の)ダムをめぐる、過去と現代双方のインド人たちの相克を描く熱い愛国的メッセージを中心に、アクションもロマンスも家族ドラマも盛り盛りのボリューミーな語り口は、毎度ながらお腹いっぱいになること請け合い。
 ラジニ初登場シーンを飾る"Oh Nanba(さあ、愛する友よ)"の華やかさも素晴らしく、ワイヤーアクションや演説シーン・台詞の掛け合いシーンの迫力はカッチョ良いながら、ダンスなどでは流石にラジニも腰が重そうな所に「ムトゥ」からの年月を感じてしまいましょうか。
 それでも、現代編のコソ泥ラジニと過去編のマハラジャラジニの2面性を演じきるラジニカーントのスター性は全面に出まくり、その強烈な父性は(特に過去編において)スクリーン全部でアピールされまくり。この人の魅力は、やっぱその次々と編み出される台詞の軽妙さと、それを何倍も魅力的にする身振りの変幻自在さでしょうか(*5)。
 キャスティング的には、これがタミル語映画デビューとなるヒンディー語映画スターのソーナクシーなんかは完全にメインヒロインとなるパワフルな魅力をアピールしているし(*6)、テルグ語コメディアンとして活躍するブラフマナンダムが、タミル語映画でもいつも通りのおバカキャラを貫き通して主人公たちを盛り立ててるしで(*7)、3言語同時公開戦略もバッチリ機能している賑やかさもプライスレス。古典的ヒロイン風に登場しながら、次の瞬間にあっさりどんでん返す強気ヒロイン演じるアヌーシュカもカッコええですが、序盤くらいしかメインの見せ場がなかったのが惜しかったかな。

 コソ泥リンガーが活躍する前半の「オーシャンズ11(Ocean's Eleven)」か「ミッション・インポッシブル(Mission: Impossible)」を茶化したような首飾り窃盗計画も楽しいものの、映画自体の扱いは完全に植民地時代のダム建設の方がメイン。中盤から後半にかけてイギリス人徴税官の差別的陰謀の中で、如何にインド人が1つにまとまり、独力で隷属状況下からの解放を勝ち取るかを盛大に語り尽くす愛国的メッセージは、外国人のこちらの目で見ても熱く感情を劇的にかき回してくれる。
 実際にカルナータカ州内に造成したと言うダム建設現場セットの壮大さも凄いし、実際の宮殿を借りてロケしたと言うマハラジャ宮殿の絢爛豪華さもトンでもね。ま、撮影時の裏話では色々と事件事故による苦労話は絶えなかったようだけど…そのロケーションの贅沢さは羨ましい限り。

 欲を言えば、勧善懲悪に分かれるドラマにおいて悪側キャラの極悪さがどれも主人公の絶対善に対してゆるい小物臭がするあたりかな…。憎っくきイギリス人の狡猾キャラも、徴税官のみで後の徴税官夫人やマドラス管区総督なんかは話のわかるインド人の味方的な感じになってるのは良いフックであるけれど(*8)、同時に話がタルくなる要因にもなってるからなあ…。カーストを越えたインド人の団結を謳いあげるシーンに、一緒になってインド人側で働くイギリス人が出てくるのは印象的なシークエンスでしたけれど。

挿入歌 Indiane Vaa (さあ、インド人たちよ [新たなヒマラヤを建てよう])


受賞歴
2015 The Ghanta Awards 最悪女優賞(ソーナクシー・シンハー / 【Holiday】【Action Jackson】と共に)


「リンガー」を一言で斬る!
・さすがラジニ様は、なんだかんだ言っても汽車から降りる時も牛車から降りる時もバイクに乗る時も、ダンスとは異なりなんとサマになってる身のこなしな事か!

2020.12.26.

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*1 嘘か本当か、主演ラジニの孫の名前に由来するタイトルネーミング、と言う報道も…。
*2 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。
*3 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*4 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
*5 なので、余計にダンスの硬さが目立ってしまうってのもあるけれど…。
*6 あんな健康的モデル美人が、貧困はびこる農村にいるなら今すぐインドに飛んで行きたいよー。
*7 この年、タミル語映画にはもう1本「Anjaan(大胆不敵)」にも出演してるみたいだけど。
*8 話のわかりすぎるきらいはありますが…。