俺がここにいるから(Main Hoon Na) 2004年 175分 ファンが作った偽トレイラー。 印パ分離独立の日8月15日を前に、印軍のアマル・シン・バクシー将軍は、印パ対立緩和のためにお互いの捕虜を交換する「ミッション・ミラーブ(結合作戦)」発動を計画する。 その是非を問うために討論番組に出演した将軍の命をねらって、元軍人の反パキゲリラ ラーグヴァン一党がテレビ局を占拠! 将軍を助けようとゲリラと戦うコマンド隊員ラーム・プラサード・シャルマー少佐は、すんでの所でラーグヴァンを取り逃がしてしまった!! この襲撃で、ラームの父親でコマンド隊指揮官のシェーカル・シャルマー准将は殉死。 ラームは、死に際の父から「お前に隠していた事がある。お前には異母弟がいる。私の過ちで、お前の弟とその母親は家を出て行ってしまったんだ」と聞かされて…。 父の葬式後、バクシー将軍はラームを呼び出し、ラーグヴァンが娘サンジャナーの命をねらっている事実を知らせる。将軍は、家出した不仲の娘を秘密裏に警護するため、娘の通う大学へラームに潜入警護に行ってほしいと依頼。そして、父の親友でもありシャルマー家の問題を知っていた将軍は、1つの情報をラームに与える。「娘の通うダージリンの大学には、シェーカルの息子ラクシュマンも通っている」と…。 こうしてラームは、インド東部の西ベンガル州、ヒマラヤを望むダージリンの大学へ生徒として編入。サンジャナー(通称サンジュー)を取巻く若者たちと戯れながら、生き別れの異母弟ラクシュマンを探し始める。 その頃、ラーグヴァンもまたダージリン入りし、自分を軍から追放したシェーカルとアマルジートへの復讐のために、サンジャナーの周りの学生たちの命をもねらい始めていた…。 挿入歌 Chale Jaise Hawayein (風がため息をつくように [鳥がハナバチの如く飛ぶように、私はどこまでも彷徨い歩こう]) *ラームが行く事になった、サンジャナーの通う大学のファーストシーン。 軍人として育ったラームが触れた事もない若者たちの喧噪の嵐を、ありえないぐらいの長回しによる一発撮りで表現する!(大学校舎は実際にダージリンにある大学でロケされたらしい。劇中の大学生活描写は、シャールク主演の大ヒット作「何かが起きている(Kuch Kuch Hota Hai)」などのオマージュ) 90年代初頭から振付師として活躍していたファラー・カーンの初監督作(*1)にして、シャールク自身が立ち上げたレッド・チリース・プロダクションの第1作。公開されるや大ヒットを飛ばした超傑作映画だ! プロデューサーに、シャールク夫人のガウリ・カーンが就任。ヒロインのサンジャナーを演じたのは、モデル出身のアムリター・ラーオ。セカンドヒロインのチャンドニー先生役には1994年度ミス・ユニバースのスシュミタ・セーンが出演している。 セカンドヒーロー ラッキーを演じるのは、これが映画出演2本目となるザイード・カーン(*2)。前年もフィルムフェアでデビュー賞にノミネートされていたそうだけど、本作でもフィルムフェアで助演男優賞ノミネート止まり(それでもスゴいけど)。まだこの頃はなんとなくあか抜けていないけども、顔と手足がやたら長いくせに屋根の上から落ちていくショットが軽快でなんとも。うん(*3)。 日本では、2012年のIFFJ(インディアン・フィルム・フェスティバル・ジャパン)にて「メ・フー・ナ 俺がここにいるから」のタイトルで上映。字幕は乱れるわ、CMは入るわとスゴい事になってたそうだけど、シャールクファンが集合して大盛況だったそうな。 どこにでもいる普通の(ハッチャけすぎか?)大学生の間に、戦闘のスペシャリストが潜入してゲリラの攻撃から彼ら彼女らの命を守る…なんて書くと、なんかそんな映画かアニメが日本でもあったなぁ…とか脳裏をよぎりますが、そこはインド。ラームとラクシュマン、サンジューとバクシー将軍の家族再生を描くと同時に、印パ統一再生の夢を同時に紡ぎ出す脚本・演出術は、もー盛り上がるしかないですぜオッサン!! ま、ラームがあまりにも大学生たちに溶け込みすぎて任務放棄してやしないかとか、ラーグヴァンの復讐がなんか迷走してないかとか、後から考えると色々突っ込めなくはないけど、見ている分には次々と見せ場がやって来ては手に汗握る展開の数々と、映画の中にぶち込めるだけ色んな要素をぶち込んだやり切りました感が心底熱い。 初監督作にここまでの完成度の娯楽映画を造り上げるファラー・カーンの、その映画習熟度に度肝を抜かされっぱなしの一本。 当時スパイ映画をやりたがってたとか言う噂を聞くシャールクのためか、たびたび「マトリックス」のパロディアクションは出てくるわ、古典的感情表現の踏襲具合やら、過去の名作映画のパロディやらも満載。ラーグヴァンの手下を追いかけるラームのサイクルリキシャーの後ろに、名作「炎(Sholay)」でヒロイン バサンティが飼ってた馬の名前がチラッと書いてあるとか、言われないとわからないってばー!! (*4) 劇中、様々に現れる対立構造も複雑かつ緻密。 父親の元で育った愛人との子ラームと、母親の元で育った夫婦の正式な子ラクシュマン(共に「ラーマーヤナ」のラーマ兄弟からの引用名。叙事詩では正式な兄弟で異母弟に王位を一時的に譲るんだけども)と言う対比。 パキスタンに我が子を殺された復讐から、凶暴な反パキ軍人になって軍を追放されたラーグヴァン(*5)と、不義の子ながら父の愛を受けて父と同じ軍人として育ちインドを守護する軍隊に誇りに持っているラーム。 バクシー家とシャルマー家の家族の再生と、印パ統一の足がかりとなる作戦を邪魔するのは、同じインド軍人だった反パキイズムに燃えるインド人ゲリラと言う構図。 舞台も、インド北東部バングラデシュに近い高地ダージリンと、ミッション・ミラーブのために用意されたインド北西部パキスタンとの国境となるラジャスターンの砂漠と言う対比も、環境や色使いとして美しや。 ちなみに、かつてシャールク映画「たとえ明日がこなくとも」「家族の四季」のDVDが日本で同時発売された時に、発売元のアップリンクでシャールクファンを集めたイベントが開かれたんですが、その時「シャールクブームを起こすため、傑作『オーム・シャンティ・オーム』の劇場公開を実現させるために、次に日本でDVD発売するといいと思うシャールク映画はなんでしょう?」会議が開かれ、最終結論としてファンの間で推されたのがこの映画でした。ハイ(*6)。 挿入歌 Tumse Milke ([貴方を一目見た僕の心の] この苦悩) *女らしくなることに抵抗のあるサンジューは、大学1の人気者ラッキーを振り向かせられず自信喪失。そこでラームは、新任教師チャンドニー先生の手ほどきをサンジューに受けさせることで彼女は大変身する!!(どうやってもアムリターは可愛いのにねぇ)。 「口が開いてるゼ、おっさん」…とラームにやり込められるほどに、大学の全男子の眼を虜にするサンジューと、ラームを虜にするチャンドニー先生の美貌全開ミュージカル。
受賞歴
2013.3.8. |
*1 これの次が、かの名作「恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム」。 *2 元リティック・ローシャン夫人だったスザンヌ・カーンの弟。このカーン家は両親共に映画人の家系 *3 実際にあの救出方法だと、肩を脱臼しそうだけど…。 *4 ちょうどラームたちが見に行ってた映画が伏線になってはいたけども…ここの香港映画ばりのチェイスシーンも最高だゼ! *5 "ラグ一族"の意で「ラーマーヤナ」に置けるラーマ王子の称号。悪役の羅刹王ラーヴァンにもかけてある? *6 結局、先行発売された2作の売れ行き不振でお流れになったみたいだけど…。 |