Mohan Kumar Fans 2021年 124分
主演 クンチャッコ・ボーバン & シディッキー & アナールカリー・ナーザル
監督/脚本/台詞/出演 ジス・ジョイ
"いつも貴方に、良き時が訪れますよう"
今日こそは、夢の叶う日。
長い旅の始まりになるのか終わりになるのか、分かりはしないけれど。なにしろこの旅は自分のためではなく、彼のためなのだから。彼は…僕と共にあるのだから。
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30年間表舞台から去っていた往年の映画スター モーハン・クマールが、新作映画の主演に帰ってきた。
かつての彼のファンや仕事仲間も彼の演技に魅了され、その復帰を祝いあう。その1人である映画プロデューサーのプラカーシュは、早速新進気鋭の監督を呼んで彼を主演にする映画企画を動かそうとするも、共演予定の傲慢な新人映画スターや昨今の映画館の回転の早さ、公開中の主演作の成績も相待って前途は多難。
一方、プラカーシュの知り合いで歌手を目指しながら教会の聖歌隊指導をしていた青年クリシュナヌンニは、TVの歌番組出場の機会を得てかつての教え子でありモーハン・クマールの娘でもあるスリーランジニーと再会し、2人で念願の歌手デビューする! 同時にプラカーシュの命令でモーハン・クマールの運転手も兼任することになって、彼の助手のような立場になっていく。今後のモーハンのためとして、スリーランジニーと共にナショナル・フィルムアワード出品のための必要書類を集め、デリーに送ろうとするのが様々な困難が…。
挿入歌 Mallike Mallike (ああ、ジャスミンよ)
2013年に監督デビューしたジス・ジョイの4本目の監督作となる、マラヤーラム語(*1)映画。
インドと同日公開で、アラブ、オマーン、カタール、米国でも公開されている。
往年の映画スターの復帰に伴う、映画ファンと映画業界それぞれの人々の熱狂と画策をゆったりのんびりなスローコメディで描く1本。
…のために、話が本格的に動き出すのにえらい時間がかかり、その間に伏線を撒きつつ進行するのは、ずっと日常の何気ない人々のやりとりの連続。それはそれで上品な日常ドラマ的ではあるんだけども、綺麗な画面で彩る朝ドラみたいな域を出ずって感じも。その分、ラストにかけて畳み掛けるどんでん返しの連続が、それぞれの登場人物たちの「優しい嘘」を基盤に展開する浪花節な情感を盛り上げる心地よさを作り上げていくのは、一見の価値あり?
古くからの映画ファンを魅了してやまない劇中の映画スター モーハン・クマールの人気ってものが、現代の人々の言動のみで表現されて過去の栄光が一切画面的には説明されない(*2)のは、意図的な演出ってやつなんでしょうけど、なんかオマージュ的な実際の映画スターが想定されてたり…するんですかいね? クラシカルな家族劇の演技で世間に評価されて騒がれ、一方で売り出し中の新世代映画スターはやたら尊大で攻撃的という対比があからさまなところも微笑ましくはあるけども。
映画スターが、文化人であると共に人格者である事に疑問は一切挟まれないで、そのスターを中心に周囲の人が動く事で新しい映画産業が出来上がっていく、その影響力を誇るような映画でもあるのか。まあ、物語は「そうそう簡単には、事は運びませんぜ」って冷静な視線で進んでいくわけですが。
監督&脚本を務めたジス・ジョイは、ケーララ州イェルナークラム県コーチン(現コーチ)のバザックカラ地区生まれ。
04年あたりから吹替声優として映画界入りした人で、13年にマラヤーラム語映画「Bicycle Thieves(自転車泥棒たち)」で監督&脚本&原案&作詞&ナレーションデビュー。続く2本目の監督作「Sunday Holiday(サンデー・ホリデー)」ではカメオ出演、本作でも映画監督役で出演している。
主人公クリシュナヌンニを演じたのは、1976年ケーララ州アレッピー(現アラップーザ)生まれのクンチャッコ・ボーバン(通称チャッコチャン。ニックネームとしてチョコレート・ボーイとも)。
祖父は、ケーララ州最古の映画スタジオ ウダヤ・スタジオを設立した映画監督兼プロデューサーのクンチャッコ。父親は男優兼監督兼プロデューサーのボーバン・クンチャッコ。親戚にマラヤーラム語映画界の重鎮ナヴォーダヤ・アッパチャン、映画監督ジジョ・パンノーゼもいる映画一族クンチャッコ・ファミリーの一員。
81年のファーズィル監督作マラヤーラム語映画「Dhanya」に子役出演したのち、アラップーザの大学で商学士を取得しつつバドミントンをはじめとしたスポーツ全般で活躍。再びファーズィル監督に呼ばれて97年の「Aniyathipravu」で主演デビューし、共演のシャリーニーと共に人気を勝ち取って大ヒット。このコンビは、以降も何度も共演する人気スターコンビへと成長する。その一方で、クンチャッコ・ボーバン自身も大ヒット作を連発し続け、04年の「Ee Snehatheerathu」でケーララ州映画賞の審査員特別賞を獲得している。
05年に、ファンの女性と結婚して一時的に映画界を離れるも、08年の「Twenty:20」の挿入歌に参加して映画復帰。同年の「LollyPop(ロリポップ)」を挟んで、09年の「Gulumal: The Escape」で本格的に主演復帰する。以降も、マラヤーラム語映画で数々の映画賞を獲得する映画スターとして活躍中。
映画の他に、精神病の子供を治療するアル・ファシト医療センターや、著名人たちを集めたチャリテイーイベントを主催するC3(セレブリティ・クリケット・クラブ)を設立していたりする。
裏主人公とも言うべきモーハン・クマール役には、1962年ケーララ州イェルナークラム県ビピン島エダバナックカッド生まれのシディッキー。
兄に男優のアブドゥル・マジードが、息子に男優デビューしたシャヘーンがいる。
電気工学の学位を取得して、KSEB(=ケーララ州電力局)やサウジアラビアで電気技師として数年間従事。仕事を辞めてインド帰国の後、官立学校に通う中で演技に目覚めてモノマネ芸人として活動を開始し、85年のマラヤーラム語映画「Aarodum Parayaruthu」あたりから端役・脇役男優として映画界で活躍。90年の「In Harihar Nagar」で主役級デビューを果たしブレイク。
03年の「Sasneham Sumithra」でケーララ州映画賞他の次席主演男優賞を獲得し、同年のプロデューサーデビュー作「Nandanam(楽園のような庭)」ではフィルムフェア・サウスのマラヤーラム語映画作品賞他を受賞している。以降も、マラヤーラム語映画界で数々の映画賞を獲得する男優として活躍中。
ヒロイン的位置にいる、モーハン・クマールの娘スリーランジニーを演じたアナールカリー・ナーザルは、本作が映画デビュー作のようで詳しいデータが出てこない…。
特に社会批判とかはないように見える本作は、人情劇として情に厚い登場人物たちの優しさが、1つ1つの日常的事件を解決する様を描くのんびり映画なんだけども、その背景になんかモデルになるようなこととか仕組まれてんのかな…とか思わないでもない深読みしたくなる自分。
まあそもそも、業界人がそんなのんびりゆったり四六時中暇してていいのかとか言いたくもなるけれど、スローライフを満喫してるかのような劇中登場人物たちのゆったりととぼけた仕事具合は、羨ましくも見えるのもありしょーもなく見えるのもあり。
挿入歌 Mele Mizhi Nokki (上を向いて)
「MKF」を一言で斬る!
・映画賞レースにも出馬するというモーハン・クマール復帰作のタイトル「A Nearby Horizon」、日本語に訳すとなるとどういうタイトルが適当なのかが…むぅ。
2023.4.21.
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