心のままに (Manmarziyaan) 2018年 156分
主演 アビシェーク・バッチャン & タープシー・パンヌー & ヴィッキー・コウシャル
監督/製作 アヌラーグ・カシュヤプ
"恋人=最高の夫?"
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パンジャーブ州アムリトサルに住む元ホッケー選手のルミー・バッガは、親亡き後スポーツ用品店を営む叔母一家のもとで暮らしつつ、近所に住むDJのヴィッキー・サンドゥーとの逢瀬を堪能中。
しかし、2人の関係が家族にバレたために家族会議の末、ルミーの婚活がはじまってしまう。
お見合い結婚なんかしたくないルミーは、散々ヴィッキーをけしかけるも彼は「愛してる」の一点張りで結婚の準備も家族への挨拶もしてくれない。一方、結婚相談所からルミーを紹介されたロンドン在住の銀行家ロビー・バーティアは、彼女の身辺を知るにつけ彼女への興味を強くし、1度見合い自体を断って来たにも関わらず再度お見合いを希望するルミーとの縁談を進めていく。
ヴィッキーとの仲を知りつつルミーと結婚しようとするロビーに、友達は怪訝な顔をするもののロビーは語る…「ルミーに会えば断らなかった理由が分かる。…でも、ヴィッキーの愛が本物なら誰もルミーを奪えない。それでも、俺のやり方でルミーを奪う」
プロモ映像 F for Fyaar
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鬼才アヌラーグ・カシュヤプの18作目の監督作となる、ヒンディー語(*1)ロマンス映画。
カナダのトロント国際映画祭でプレミア上映された後、インドと同日公開でオーストラリア、英国、インドネシア、オランダ、ニュージーランド、米国でも公開されているよう。英語訳タイトルでは「Husband Material (夫を構成するもの)」。
日本では、2021年のIMW(インディアン・ムービー・ウィーク)パート3にて「心のままに」の邦題で上映。翌2022年にDVD発売されている。
話としては、運命によって結ばれた3人の恋人たちのそれぞれの生き様の衝突を描く古典的なお話しながら、それによって振り回される周囲の人々の視点が入って来たり、「情動の恋」と「理知または打算の恋」が等価ではないにしろ比較されて描かれたりと、この手の話が苦手な身でも面白く見れてしまう仕掛けをきっちり描いてくれるロマンス映画になっておりました。洒脱というのもちょっと違う、「現代的な恋愛模様」から少し外した角度で紡がれる恋物語って感じ。
アムリトサルやカシミールを映す映像の美しさ、レイアウトの細やかさも映画の魅力を引き出してくれるし、アヌラーグ・カシュヤプ監督作に多用されると言う双子ダンス演出も粋だね!
インドの恋物語は、物語の進展というより人と人の距離の付いたり離れたりの繰り返し具合(輪廻的な愛?)に注目するのが多いけども、「情動の恋」に爆進していたルミーとヴィッキーの刹那的な人生観に対する「理知の恋」でルミーを揺さぶる大人な態度で悲しみを抑えるロビーとの落ち着いた恋愛観の比較自体が、人生を見据えた大人からの説教的でもありつつ、「激情の愛」を描いて来た世の有象無象の恋物語への当て付けのようでもある。
その都度の、恋愛の向いている方向に合わせた音楽の組み立ても注目して見ても面白い部分だし、そう思えばヴィッキーがDJで仲間たちと新曲ラップを作ってる最中という設定にも色々意味がかかってるようにも見えてくる。
この映画を彩る音楽を担当したのが、1979年マハラーシュトラ州ボンベイ(現ムンバイ)のグジャラート系家庭に生まれたアミット・トリヴェディ。
グジャラート州アーメダバードで育ち、ボンベイの大学時代にバンドを結成してアルバム発売もしていたそう(*2)。その後、舞台演劇やTV、マラーティー語(*3)映画の楽曲構成・BGM制作の仕事で活躍。
友人の歌手を通してアヌラーグ・カシュヤプに紹介されたことが縁となり、彼の監督作となる09年のヒンディー語映画「デーヴD(Dev.D)」の全挿入歌を担当して音楽監督デビュー。しかし、公開が遅れたためにその後の仕事となった「Aamir(アーミル / 08年公開作)」、1曲のみ担当した08年公開のマラヤーラム語(*4)映画「Anthiponvettam」の2本がクレジットデビューとなる。
「デーヴD」で、ナショナル・フィルムアワード音楽監督賞、フィルムフェアのRD・ブルマン(新人音楽)賞その他を獲得。その後もヒンディー語映画を中心に音楽監督兼歌手として活躍中で、様々なジャンルを融合させた新しい映画音楽の潮流を生み出す担い手となって注目されている音楽家の1人。以降も数々の映画音楽賞を受賞していて、本作でもスター・スクリーン音楽監督賞を贈られている。
焦らしに焦らしてくる3人の恋愛模様におけるそれぞれの思惑の交錯は、終始平行線を辿るので、そこだけに注目してるとなんだかなあと言う話にしか見えないはずなのに、パンジャーブ人たちの喧嘩っ早い口の悪さが加わって周りが常にその様子を探りにくる密度の濃いい人間関係は、そんな恋物語の騒動を側で見てるご近所さんの気持ちにしてくれて、なんだか妙に居心地のいい空間を作ってくれる。
ロビーの一見大人な態度でルミーを導く求道者スタイルなんか、なんでそんなに自信満々なの? って疑問はあるし、よくよく注目してると「彼氏のいる婚約者を俺のものにしてやる」と笑う態度もなかなかに気味悪いもんですが、対する情動に逆らえないルミーの煮え切らん態度もなかなかに業が深い。その時々の3人の態度如何で準備していた物事を全てオジャンにされる周りも溜まったもんではないけれど、そんな振り回される周りもわりとあっけらかんとしているのが、余計に微笑ましい状況を加速さてもくれているか(*5)。
やっぱ、結婚そのものが当事者だけで収まらない家族の問題としてのしかかってくる、インド…またはパンジャーブ…事情があるが故の、恋愛観であり結婚観が前提とされる恋愛物語の成立のさせ方でございましょうか。やっぱ、人生に大事なのは安定した夢の在り方ですよって!(そんな結論でいいのか…?)
挿入歌 挿入歌 Kundali (お坊さん、相性を占って)
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受賞歴
2018 Star Screen Awards 音楽賞(アミット・トリヴェディ)
2018 FOI Online Awards 主演女優賞(タープシー・パンヌー)・音楽賞(アミット・トリヴェディ)・女性プレイバックシンガー賞(ハリシュディープ・カウル / Chonch Ladhiyaan)・男性プレイバックシンガー賞(アンミィ・ヴィルク & シャヒード・マルヤ / Daryaa)・作詞賞(シェリー / Chonch Ladhiyaan)
2019 GQ Awards 驚異的演技賞(タープシー・パンヌー / 【Badola】【Mulk】に対しても)・特別業績賞(ヴィッキー・コウシャル / 【Sanju】【Raazi】に対しても)
「心のままに」を一言で斬る!
・やっぱ、現場でネクタイ締めるみたいなノリで、現場に来て初めてターバン巻くってのもアリなんだネ!
2022.10.1.
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