インド映画夜話

Mounam Pesiyadhe 2002年 148分
主演 スーリヤ & トリシャー & ナンダ
監督/脚本 アミール
"君の瞳が見つめる先、そこがスポットライトのあたる場所"



*これはファンメイド予告編?


 ガウタムとカンナンは幼馴染の親友同士。
 カンナンの父親の協力でレストラン経営に精を出すガウタムに対して、カンナンは親非公認の恋人マハー(本名マハーラクシュミー)とのデートに大忙し。そんなこととは知らない家族は、親戚の婚約者サンディヤーから逃げ続けるカンナンにもう呆れ気味。

 そんなカンナンが巻き起こす色々なトラブルを、周りにバレないうちに手を貸して解決するガウタムは、店の経営でもカンナン家に頼りにされていく。
 そんなある時、店に女性の声で電話がかかってくる…「ガウタム、あなたの事が大好きよ」。その声を聞いてから、ガウタムは声の主サンディヤーのことが気になって来るのだが…。


挿入歌 Eh Nanbane Kopam


 助監督出身のアミールの監督デビュー作であり、女優トリシャーの主演デビュー作(声は、声優サヴィタ・レッディの吹替)&男優ナンダの映画デビュー作となった、タミル語(*1)映画。

 2003年にはテルグ語(*2)リメイク作「Aadanthe Ado Type」が、06年にはテルグ語吹替版「Kanchu」、12年にはヒンディー語(*3)吹替版「Ghatak Returns」も公開された。

 それぞれに登場する男女や親子のすれ違いを描いた、ネット上では高評価の青春劇なんですが…ううううーん。ずっと動きのない会話劇で進行して、所々でスーリヤ演じる主人公がシメる(物語的、画面的に)、有望新人お披露目のために用意された企画って感じの映画か。
 伏線の回収具合にご都合性を感じなくはないものの、最後のどんでん返しは結構効果的ではありました。

 新人トリシャー&ナンダは、特にぎこちないとかいう感じもなく貫禄。役者として先輩のスーリヤ相手にも一歩もひるむことなく愛嬌振りまいて良きかな。特にナンダは、軽快な台詞も多くお調子者としての役どころを十二分に発揮してパフォーマンス力を存分にアピールしまくっている。それに対して、ずっと仏頂面して「無愛想で不器用な男」を演じるスーリヤの方が、窮屈そうな感じに見えて来てしまうのは、まあ脚本と演出のせいだよなあ…。トリシャー演じるサンディヤーとのデートが決まって一人で部屋の中で浮かれ踊る主人公は楽しかったけども。
 アクションやミュージカルダンスがあんま映画としての効果を発揮しないのは、そこが狙いの映画企画じゃないって事と、初監督&新人俳優の映画デビュー作ってことによる予算規模具合ってこと…なのかしらん?

 本作で監督デビューしたアミール(・スルタン)は、1967年タミル・ナードゥ州マドゥライ生まれ。
 経済学を修了して起業家として働く中で、99年公開のタミル語映画「セードゥ(Sethu)」の助監督(&端役出演)として映画界に入る。本作で監督デビューを飾り、自身の映画プロダクション"チームワーク・プロダクション・ハウス"を設立。以降、05年の監督作「Raam」ではプロデューサー&脚本デビュー。07年の「Paruthiveeran(綿布の主)」でベルリン国際映画祭のネットパク特別賞、フィルムフェア・サウスのタミル語映画監督賞他多数の映画賞を獲得する。08年、スリランカ内戦に関する州政府への抗議集会に参加したことで、一時逮捕されていたそう。
 09年のスブラマニアム・シヴァ監督作「Yogi(ヨギ)」で主演デビュー後は男優としても活躍。18年の「Vada Chennai(チェンナイ北部)」で、アナンダ・ヴィカタン映画賞の助演男優賞を獲得している。

 本作で後の大女優トリシャーとともに映画デビューした(*4)、カンナン役の男優ナンダ(・ドゥライラージ)は、1979年タミル・ナードゥ州コーヤンブットゥール(別名コインバートル)生まれ。
 映画プロデューサー S・タヌに勧められて映画を志し、チェンナイ映画研究所にて演技を特訓。97年にTVドラマ「Premi」に出演後、アミール監督に見出されて本作で映画デビューとなる。以降、タミル語映画界で活躍中。09年の「Eeram(水蒸気)」ではヴィジャイ・アワード悪役賞ノミネートされている他、18〜19年のTVトークショー番組「Sun Naam Oruvar」のプロデューサーを務めていたりもする。

 友情に厚いながら、無愛想で皮肉屋であるが故に周りから敬遠されがちな主人公ガウタムの、延々と仏頂面な演技が徐々に溶け出していく姿は見ものながら、地味すぎて演じるスーリヤの芸幅が心配になってきてしまうのは、ヒーローものを演じるスーリヤへの贔屓目ってヤツでしょか。
 主人公だけでなく、脇役も含めて割とわかりやすい感情表現を直球で演じすぎてるために、そのすれ違い劇が盛り上がるようで盛り上がんないのが、なんかなあ…。ま、そこまでハッキリとは描かれないながら、女性キャラのストーキングラブが出てくるのは新たな発見(*5)。
 文句言い合ってるわりになんだかんだで仲のいいガウタムとカンナンの義兄弟っぷりに、ヒンドゥー神話的隠喩を感じるべきか否か。単純にうまく言葉や行動で表現できない人間のダメダメさを描く愛嬌劇として楽しむのが、一番な気もしますなあ…。



挿入歌 Aadatha Aatamellam





「MP」を一言で斬る!
・「あなたの目は美しい」と言うラブレターを印象づけるためか、いつも以上にスーリヤの眼力が艶めかしく印象的(カラコン…? 元からあんな碧眼だったっけ?)

2024.11.13.

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*1 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。スリランカとシンガポールの公用語の1つでもある。
*2 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*3 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。フィジーの公用語の1つでもある。
*4 トリシャーは、ノンクレジットで99年の「Jodi」に出演経験済みではあるけど。
*5 タミル的ロマンスで言えば、女性側が男性を追いかける恋物語の方が伝統的に盛り上がるそうだけど。