インド映画夜話

Mrugaraju 2001年 147分
主演 チランジーヴィー & シムラン
監督/脚本 グナシェカール
"臆病な者は毎日死を体験するしかない…だが、勇敢なる者の死は、たった1度だけだ"


挿入歌 Ramayya Padaletti

*じぇーじぇーじぇじぇ〜じぇ!
 インドが舞台なのに、その観光地化された部族民生活のジャングルは、アフリカン(風)ダンスで観光客を出迎えるよ!(いいのかそれで)
 主役ラジュー演じるチランジーヴィーと一緒にメインで踊ってるのは、タミル語映画界を中心にインド映画各言語圏で活躍する女優兼プロデューサーのランバー(生誕名ヴィジャヤラクシュミー・イェーディ)。


 南インドの密林にて、地下資源運搬のための国家事業として線路建設が始まる中、現場主任技術者プラサーブ・ラーオが人食いライオンに殺害される事件が発生する!

 皆がその後任を嫌がる中、その席に立候補した建築技師アイシュワリヤーは、早速現場の鉄橋建設工事を再開させるが、白昼現れたライオンに現場はパニック。次々に犠牲になっていく工員として雇われていた森の部族民たちは、恐怖から工事を放り出して全員帰ると宣言する。
 異様なライオンの迫力に圧倒されて身動きできなかったアイシュワリヤーに「人の味を知ったライオンを殺すには、彼の力を借りるしかない」と提案する現場副監督アッパンナ・ドラは、部族長の息子で森の動物たちを密猟者から守っている森林保護官兼観光ガイドのラジューに人食いライオン退治を依頼するのだが…。


挿入歌 Dammento


 タイトルは、テルグ語(*1)で「獣の王」。
 主人公のあだ名であり、その標的であるライオンの意味にもなっている? ヒンドゥー神話的には、「獣の王」といえばシヴァ神の別名としての意味も含んでいる…か?(*2)
 副題は「Wing of The Jungle」。

 1952年のハリウッド映画「ブワナの悪魔(Bwana Devil)」および1997年の「ゴースト&ダークネス(The Ghost and the Darkness)」(*3)をアイディア元にする、テルグ語映画。
 後にタミル語(*4)吹替版「Vettaikkaaran」、ヒンディー語(*5)吹替版「Rakshak, The Protector」も公開された。

 アフリカで起きた人喰いライオン事件を脚色した映画を元にして、インド辺境部を舞台に架空の人喰いライオンとの対決を描く本作。
 冒頭から、すすき野(?)の豊かな景色を映しながら、カメラが動いていくとその向こうに人工物の鉄橋工事現場が現れて来て、それを都会人の指揮のもとに古代的習俗を守る先住民たちが作っている様を描いていく。そこに現れてくる、自然vs人間、古代的習俗vs進歩的開発の対立構造が全編に貫かれたテーマになるわけだけど、そう言ったテーマありきになってるせいか微妙に説教臭い話にもなってしまっている。
 ま、そこにチラン兄貴演じるラジューと言う、対立構造を越える存在の主人公の縦横無尽の活躍が描かれて来たり、ヒロイン アイシュワリヤーとの因縁、部族民と都会人の協調と対立と、いろんな要素が重ねられていくのはいつものマサーラー構造。映画後半になると、ラジューとアイシュワリヤーの過去の因縁譚が中心になっていく分ヒロインの存在感・主人公感が強調されていて、登場人物の無駄遣い感は薄くそれぞれのキャラが印象的な出来。

 登場する人喰いライオンは、最初こそシルエットでおどろおどろしく登場するものの、アイシュワリヤーが現場に赴任するや白昼堂々姿を現し、合成映像ながら色々に暴れまわってくれて出番も多い。合成映像故に、使い回しカットが多いのはまあ、しょうがないよねと納得しておこう…(*6)。
 インド国内というには、アイディア元映画に引っ張られてかアフリカ的習俗が混ざってる感じのする劇中舞台だけど(*7)、現代でも獣害事件が時々報じられるインドで、ライオンって生息してるんだっけって調べてみれば、絶滅危惧種として国立公園内での保護対象になってたのね…(*8)。

 映画中盤から、線路敷設先の領主による妨害行為が話を複雑化させていき、さらにアイシュワリヤーの過去の結婚話が乗っかって来て、より主人公ラジューとアイシュワリヤーを苦しめる様、前半に主人公たちの良き理解者・助力者でありながら退場していくアッパンナ・ドラの思いを受け継ごうとする主人公たちの切なさ・儚さ演出も効果的。マサーラー映画定番の、無理解で専制的な権力者への復讐と、人喰いライオンとの決着が同時並行的に描かれることで、前半に説教くさくアピールされていた自然vs人間の構図はそれ以外の要素とうまく融合していって、古代的生活でも現代的生活でも共通する家族愛・親子愛の物語へとシフトしていくインド的物語の素晴らしきかな。
 ま、そんな過去があるはずなのに、最初のラジューとアイシュワリヤーの出会いが両者共に淡白な態度で描かれすぎでない? とかツッコムのは野暮ですかね。野暮ですわね。失礼しましった。

挿入歌 Chai Chai

*一流のダンサーになりたいなら、コップ一杯のチャイをこぼさずに踊ってみろ!!! 北風がバイキングを育てたように!!(波紋修行か!!!!)



「Mrugaraju」を一言で斬る!
・ブーメランって、人の腕をちょん切れるのか…攻撃力ありすぎじゃネ?(((゚Д゚)))

2020.8.21.

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*1 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*2 あれはネパールでの別名だっけ?
*3 両作ともに、実際にアフリカで起きた獣害事件を元にした映画。後者には、出稼ぎインド人労働者役で名優オーム・プリが出演してたりする!
*4 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。
*5 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
*6 カットごとに、大きさも違うような気も…しないではない。
*7 ジャングルに住む部族民の習俗に関しては、かなり偏見も入ってないか…と言う危惧が抜けないけれど。
*8 本作では、わりと皆様殺す気満々だったけど。