インド映画夜話

Mudhalvan 1999年 173分
主演 アルジュン & マニーシャー・コイララ & ラグヴァラン
監督/製作/脚本 シャンカル
"プカレンディ。彼は1日でこれだけの仕事をした。…もしこれが、10年続くならば!!"

むんむん様企画の第8回なんどり映画倶楽部にてご紹介頂きました!
皆様、その節はお世話になりました。なんどりー!



挿入歌 Azhakana Muthalvan(ああ、美しき悪魔よ! [君は僕の心を火のように燃やす])


  民放テレビ局QTVのカメラマン プガレンディは、タミル・ナードゥ州首相の地方視察を取材中、村の現状を首相に抗議する少女に一目惚れしてしまう!
 彼女…テンモーリを追いかけるプガレンディだったが、彼女の父親は「安定した公務員以外と、娘を結婚させるわけにはいかない」と彼を追い返すのだった!

 そんなある日、チェンナイの街中でバスの運転手と学生たちの小競り合いが暴動に発展。
 それぞれが与党支持者や各カースト団体の対立をあおり、制止すべき警察は「どの団体の主張も無碍には出来ないから、静観せよ」と言う州首相の命令で動けない。これを余す所なくカメラに収めたプカレンディは、重傷の学生を病院まで運んでトップニュースを飾る。

 このスクープを認められたプカレンディはレポーターに昇進し、その初仕事はなんと州首相との対談番組だと言う!
 緊張しながらもプカランディは番組内で、先日の暴動の責任が州首相にある事を問い始め、彼を追い込んでいく。ついには逃げられなくなった州首相は「なにも知らないくせに勝手なことを言うな!! お前も1日でもやってみればどんなに大変な仕事か分かるさ! …そうだ、そこまで言えるなら、やってみればいい!!」と言い放ち、カメラの前で決断を迫られるプカレンディは追いつめられた末に…「いいでしょう。可能ならばやりましょう!!」と発言し喝采を浴びる!!
 こうして、前代未聞の1日州首相が誕生した。どうせ1日ではなにも変えられないと思っていた政府関係者を前にして、プカレンディは…!!


挿入歌 Mudhalvanae (ああ、州長官よ)



 タイトルは「州首相」(*1)。
 コリウッド(=タミル語映画)界の巨匠シャンカル監督による一大ポリティカル・アクションの傑作! 公開後、テルグ語吹替え版「Okkadu」、シャンカル監督自身のヒンディー語版リメイク作「Nayak」が順次公開された。

 先にヒンディー語リメイク版の「Nayak(…の日本でのテレビ放送用短縮版)」を見ていたので「えぇーここまでそっくりに作ってたのか!!」って所に驚いてはいたものの、ある意味整理された(…シャンカル監督作にしては)映画の「Nayak」に対して、色々な新機軸の模索もフィルムに焼き付いている本作は、まーなんつーか、熱いネ!!
 ヒンディー版リメイクでは、政治批判と同時にマスコミ批判みたいなのも含んでいたけど、本作はその要素は薄く、その分コントシーンやアクションシーンが派手派手になってる感じ。テルグ語圏では吹替で大ヒットした本作が、ヒンディー圏では多少のアレンジのもと別キャストによるリメイクで公開されなければならなかったと言うのは、インド映画を見る上では大事な一面ですかいね。

 主役のアルジュン(本名アルジュン・サルージャ)は、カンナダ語映画界から出てきて、タミル語映画やテルグ語映画で人気を博している俳優兼監督兼プロデューサー。同じシャンカル監督作「Gentleman」(*2)では、タミル・ナードゥ州映画賞の主演男優賞を獲得している。アクション俳優としても人気な人だそうで、本作でも無茶なワイヤーアクションをドンドコ披露してくれます。企画段階では、主役はラジニカーントを予定していたそうだけども、色々と諸般の事情でラジニのスケジュールが空かず、より若いスターであるアルジュンに決まったそうな。
 その表情の多彩さ・芸の広さは、ヒロインのマニーシャーや敵役の州首相役のラグヴァランとも良い相乗効果を生み出していて、見ていて楽しい。そういや、幸せそうなマニーシャーって初めて見たような…。

 タミルのヒットメーカー シャンカル監督とスーパースター ラジニカーントとのタッグは、07年の「ボス (Sivaji)」まで待つ事になるけれど、本作のシャンカル独特のド派手演出は、すでに後の「ボス」や「ロボット(Enthiran)」にも通じるギミックがいっぱいだねと見てる間に皆さんと大盛り上がり。無数に増殖する人々や小道具、奇天烈な謎生物や衣裳・文様のダンス、男女の青春劇とコアな政治批判ネタの違和感のないコラボなどなど。さらには、爆風で垂直に吹っ飛ぶバイクやヤシの木、並走するバスを駆け上がるトンデモアクション等々、00年代のテルグ映画やヒンディー映画に登場する映像効果がすでにここで現れてるからビックリ。あの辺も、シャンカル監督作が生み出したネタなのでしょか?

 タミル・ナードゥ州の政治上の最高権力者は、選挙で選ばれる州首相(Chief Minister 行政機関のトップ。略称 CM)、他州から選出される官僚の州知事(Governor 立法機関のトップ)、最高裁判所長官(Chief Justice マドラス高等裁判所長官。司法機関のトップ)で構成されてるそうな。
 本作では、ラグヴァランが演じる敵役アランガナタンが州首相、その法的根拠を承諾するのが州知事として登場。本作のヒンディーリメイク作「Nayak」や日本公開された「ロボット」の日本語字幕では、CM=州知事と訳してあったけれども、これは誤りで、本来は全く仕事内容が違う役職なんだって。


挿入歌 Kurukku Chiruththavale (よう、綺麗な姉さん [貴方の唇は、僕を溶かしてしまう])




「Mudhalvan」を一言で斬る!
・カメラマンが上司命令でレポーターに昇進って、アリなんですか?

2013.9.20.

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*1 むんむん様にお教え頂いた所、わざと敬称が省かれてる言い方だそうで。
*2 93年公開でシャンカルの初監督作。