俺だって極道さ (Naanum Rowdy Dhaan) 2015年 139分
主演 ヴィジャイ・セートゥパティ & ナヤンターラー
監督/脚本/原案/作曲/歌 ヴィグネーシュ・シヴァン
"オレが極道に見えないってか?"
"www…貴方は極道なんかじゃないわ。ただの詐欺師よ"
ポンディ・パーンディ(本名ポンディッシェリ・パンディヤン)は、警察官の母の職場で育った少年。毎日、牢屋の中のヤクザを話相手にしてきた事で、次第に警察よりも極道に憧れるように…。
長じてパーンディは、母親から警官になることを望まれながら、内緒で仲間達と極道の真似事のなんでも始末屋を始めていたが、心からスレていけない一般人のまま。
ある日、警察に保護されていた聴覚障害の女性カーダンバリの電話のやりとり手伝いをすることになったパーンディだったが、そのまま彼女の携帯を持ち帰ってしまった。翌日携帯を返そうと彼女のもとを訪れながら、一目惚れした彼女の気を引くために携帯をそのままにして必死につきまとう。
「早く電話を返して。父さんに連絡を取らないと…」
「だって、君のお父さんはこの前電話に出なかったじゃないか」
「そうよ…父さんは、人を撃ちに行ったんだもの…」
「え…!?」
挿入歌 Thangamey
タイトルは、2006年のタミル語(1)映画「Thalai Nagaram(首都)」の有名な劇中台詞から取られたもの。
タミル語映画スター ダヌシュがプロデューサーについた、彼の自社プロ ライカ・プロダクション製作で、ヴィグネーシュ・シヴァンの2本目の監督作となるアクションコメディ。
インドと同日公開でフランスでも一般公開。日本では、2015年に千葉にてSPACEBOX主催の自主上映で(英語字幕版で?)初上陸。2021年のIMW(インディアン・ムービー・ウィーク)では日本語字幕版で。2022年にはIMO(インディアン・ムービー・オンライン)からDVD発売されている。
色々不穏な要素を持ちながらも、終始軽い語り口によるテンポの良いゆる系コメディな映画で、主演のヴィジャイ・セートゥパティとナヤンターラーがやたらと可愛い。出演作によって変幻自在なセートゥパティはともかく、今まで見て来た映画ではクール系美人な印象が強いナヤンターラーが、天然少女役を嫌味なくキッチリ演じていて素晴らしか。元々は音楽担当のアニルドを主役に迎えようとした企画だったと言う本作。主役2人は10代後半〜20才前後くらいの設定なんだろうけど、紆余曲折を経てセートゥパティ&ナヤンターラーとなったキャスティングの年齢不詳具合が、逆にいい感じに主役2人の存在感を底上げしてくれている。
物語も、主人公の生い立ちで警察とヤクザ野郎との対比を引き立てると同時に、話が進むとそれを少年時代の主人公に語っていた人物がヒロインの人生を大きく変えた事件の関係者であった事が判明していくと言った、軽快な語り口の中に様々に仕掛けられていく伏線とそれの生かし方も秀逸。ギャング達はギャング達の筋を通そうと強がる一方で、息子のために警察採用テストでデータの改ざんを頼む主人公の母親の姿という対比も皮肉が効いて微笑まし(*2)。
本作の監督を務めるは、1985年生まれのヴィグネーシュ・シヴァン。両親共に警察官の家で育ったそうな。
チェンナイの学校で演劇に参加し、その後短編映画をジェミニ映画連盟のプロデューサー達に披露した事で長編映画契約を結ぶ事に成功。企画の始動に様々な困難が伴いつつ、12年のタミル語映画「Podaa Podi(行け、彼も彼女も)」で監督&脚本&作詞&カメオ出演デビュー。その後にMV制作を手がけながら14年の「無職の大卒(Velaiyilla Pattathari)」に出演。15年の2本目の監督作となる本作でSIIMA(国際南インド映画賞)の監督賞を獲得して注目される。以降もタミル語映画界で活躍中。本作をきっかけに、女優ナヤンターラーとプライベートでも付き合うようになって結婚間近とかなんとか。
本物の極道が仕掛けた事件によって、後天的に聴覚障害を負ってしまったヒロインの復讐劇という主軸だけ見ると重い物語になるはずなのに、その復讐に手を貸そうとするパーンディの悪になりきれない善良さというか凡人さ、そんな彼とヒロインとの噛み合わないコミュニケーション、ギャング達を前にして一般人チームで襲撃をかけようとする凸凹さも、シリアスな状況をより笑いに変える楽しい仕掛け。
聴覚障害ゆえに現状をうまく捉えられずに妙な行動をしてしまうカーダンバリといい、そんな彼女にとにかく気に入られようとするパーンディの愛に正直な姑息野郎っぷりも妙に愛おしい。聴覚障害を隠したくて慌てるカーダンバリの可愛さは、ヴィグネーシュ・シヴァン監督だからこそ出てくるものなのかどうなのか…?(ゴシップ的な深読み)
まあ、後天的とは言え幼児期からの聴覚障害で、発音はあんなハッキリと通じる会話ができるのかな、と思わなくもないけれど、その辺は発音をしっかり身につけていてそれを維持でするよう心がけていたと思うことにしよう…。
そのディスコミュニケーション具合故に、主役2人は近距離で語り合う必要性が出てくるし、手助けを必要とするヒロインが「最後に私があいつを刺し殺す」と凄む迫力に怪しい魅力がついて周ることになるしで、2人の演技力と設定の妙がガッチリ噛み合った相乗効果に彩られた一本ですわ。
挿入歌 Naanum Rowdy Dhaan (俺だって極道さ)
受賞歴
2016 SIIMA(South Indian International Movie Awards) 監督賞
「俺だって極道さ」を一言で斬る!
・ここで、セートゥパティからナヤンターラーへ「オッケ、ベイベ?」って言うから、この後の【まばたかない瞳(Imaikkaa Nodigal)】で同じようなセリフが同じような顔の近さで印象的な扱いで出てくるのね…(タミル映画界の言葉遊びの奥の深さよ…)
2021.10.29.
2022.1.29.追記
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