Naveena Saraswathi Sabatham 2013年 132分(149分とも)
主演 ジャイ
監督/脚本 K・チャンドル
"元の場所に戻れる機会は2度。1週間後の機会に気づくか、または半年後に気づくか"
"もしどちらにも気づけなければ、死ぬまで島からは出られぬであろう…"
その日、天上界ではシヴァ神の命令を受けた聖仙ナーラダが、人間の知恵を試すあるゲームのために、地上界のタミル人4人を選出していた。
売れない役者クリシュナ、政治家の卵ゴーピー、アンバトゥールを支配する女ボスの夫兼炊事係ガネーシュ、そして代々伝統薬剤師の家に生まれたラーマラジャン。親友同士の4人は、ラーマラジャンの婚約成立を祝して酒に酔い痴れ、彼の結婚前にバンコクへの男だけでの独身旅行を計画する。その乱痴気ぶりを見ていたシヴァ神は、この4人こそ適正メンバーであると気に入り、早速ゲームを始めることを宣言。
こうして、バンコク旅行初日の夜をクラブで過ごしていた男たちはその翌朝、見知らぬ無人島の浜辺で目を覚ますことに…!!
挿入歌 Kaathirundhai Anbe (待っていたわ、愛する人)
タイトルは、タミル語(*1)で「サラスワティの現代の誓い」。
当初、タイトルは往年の名作タミル語映画「Saraswathi Sabatham(サラスワティの誓い)」と同じタイトルで発表されたものの、映画ファンからの抗議によって現在のタイトルに変更されたという。
基本的には4人の男たちのドタバタな台詞劇を中心にしたコメディ映画ながら、ヒンドゥーの神々が戯れに登場人物たちに試練を与える様は、劇中でも指摘される往年の名作タミル語神様映画である66年公開作「Saraswathi Sabatham」、65年公開作「Thiruvilaiyadal(神々の戯れ)」をネタ元としているよう(*2)。それら名作映画のパロディ作品…なんかしらん?
冒頭、太陽から始まって太陽系の惑星を順にカメラが追い越して行って(*3)の天界の登場に、神様たちがiPadやらiMacやら現代機器を使い倒してたり、タミル映画にものすごく詳しかったりする姿が楽しい。
タイトルに反して、活躍する神様はパラマシヴァンことシヴァ神がほとんどで、そこに食ってかかるパールヴァティと聖仙ナーラダの出番がその次くらい。申し訳程度にサラスワティも出てくるけど、タイトルの元ネタの映画見てた登場人物たちからやいのやいの言われて気分を害して退場しちゃうのが、なんともいとをかし。
劇中のタミル人たちとともに、ヒンドゥーの神様たちも口から先に生まれたように多弁な様子が「サスガやな」って感じですわ。そういえば、普通シヴァとパールヴァティの子供は第一子がガネーシャ、第二子がスカンダと言われてるようだけど、劇中では兄がムルガ(*4)、弟がガネーシャ(*5)となってるのは、タミル地方での設定なのかネタ元映画の設定なんかしらん?
人間側の主役ラーマラジャンを演じるのは、1984年タミル・ナードゥ州チェンナイに生まれたジャイ(・サンパート)。ミュージシャン一家の生まれで、親戚に音楽コンポーザーとして有名なデーヴァ(・チョッカリンガム)がいる。
少年期を音楽とともに過ごし、16才で02年のタミル語映画「Bhagavathi(バーガヴァティ)」に出演して映画デビュー(*6)。その後、ロンドンのトリニティ大学でキーボードを専攻して映画音楽業界を志望するように。
出演予定だった映画企画が頓挫したことで、映画音楽の演奏者として働き出すも、友人の勧めで受けたオーディションを勝ち抜き07年の「Chennai 600028」で主演デビューして本格的に俳優活動を開始。本作と同じ13年には、他に「ジョンとレジナの物語(Raja Rani)」に出演してフィルムフェア助演男優賞ノミネートされ、「Biriyani」にカメオ出演している。
本作では、なーんとなく太って声のしわがれたヴィジャイ、って感じに見えなくもなくも…ああ、石を投げないでー!
主役を食う勢いで存在感をアピールするシヴァ神を演じるのは、1969年タミル・ナードゥ州プドゥコーッタイ県ラヤバラム生まれのスッブー・パンチュー(別名P・Ar. スブラマニアム。本名スブラマニアム・パンチュー・アルナチャラム)。父親は、著名な映画監督兼プロデューサー兼脚本家のパンチュー・アルナチャラムになる。
88年のマラヤーラム語映画「Daisy」に子役出演して映画デビュー。92年の「Kalikalam」でタミル語映画デビューする。その後は父親の設立した製作プロダクション"P.A.Art Productions"に入ってTVドラマ出演や声優、プロデューサー補として働いていたそうで、10年の「Boss Engira Bhaskaran(ボスまたの名をバースカラン)」から本格的に映画俳優としてタミル語映画界で活動している。
映画前半は、口八丁のしょーもない生活をしている男4人の紹介と、その1人ラーマラジャンのロマンスを懇切丁寧に説明、それを天界から神様たちにどんどこツッコマせるほのぼのラブコメ。
中盤から、シヴァのゲームが始まって「青い珊瑚礁」のような無人島サバイバル劇がスタート。とは言っても、殺伐とした生存競争劇にもならないし、登場人物がそれぞれに人生を振り返るようなヒューマニティ展開もなし。婚約者の元へ帰りたいと言うラーマラジャンのモチベーションを主軸にしつつ、とにかく現状を受け入れてポジティブに生き残る術を見つけようとするタミル人たちの適応能力の高さのコミカルさが笑える楽しい映画でありました。
無人島の浜辺で自然と格闘する主人公たちの姿と、人工物に囲まれたセット撮影の天界の様子がいい対比になっている中、自然の力を象徴するはずの神様たちが文明の利器を活用して4人の男たちを眺めてワイワイ盛り上がってるなんて構図、色々と象徴性や関係性のねじれを意識したくなるけど、その辺はただの深読みになるんだろうなあ…と。
そう言う妙な深読みよりは、劇中に次々現れる往年のタミル映画ネタと、画面に色々現れるタミル文字を理解できるようになりたいもんだわあ…道は果てしなく長そうだけども。
挿入歌 Vaazhkai Oru (人生は1クォート分 [もっと水と混ぜてやれ!])
*無人島に飛ばされて絶望する皆を励まそうと、「生きる望みはあるぞ」と歌い出すガネーシュの図。
クォートは、ヤード・ポンド法における体積の単位。米英でその基準に違いはあるものの、イギリスでは1クォート=1.1365225リットル。
「NSS」を一言で斬る!
・男たちが、無人島に自作の家を作って最初にやることがセクシー女優のポスターを貼ることって正直な姿がなんとも(*7)。
2022.7.23.
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