インド映画夜話

Nagina 1986年 138分
主演 シュリーデーヴィー & リシ・カプール
監督 ハルメーシュ・マルホートラ
"昔の恋物語がよみがえる…。廃墟からの美女の歌は、懐かしい蛇神の声…"




挿入歌 Main Teri Dushman (我は敵なり)


 15年ぶりに、ロンドンから御曹司のラジューが帰って来ると言うので、お屋敷のみんなは大忙し。
 ラジューの母親は、幼い頃に家から送り出さなければならなかった息子の帰りを、今か今かと待っていた。

 その昔、6才のラジューは原因不明の不眠症と放浪癖に悩まされ、医者の勧めで叔父の住んでいるロンドンで静養することになったのだった。
 学校を卒業したことで故郷に帰ってきたラジューは、母と、亡き父に代わり事業を引き継いだ叔父のアジャイ・シン、その娘ヴィディヤに歓待される。

 次の日、ヴィディヤとともに馬車でドライブしていたラジューは奇妙な廃墟に惹き付けられる。「知らないの? ここは貴方の先祖の暮らしていた所よ。100年前に今のお屋敷に移ったんですって」
 ヴィディヤの説明が終わるやいなや馬が暴れだし、彼女は馬車から放り出される! 慌ててヴィディヤを助けおこすラジューの足元には、1匹のコブラが…。

 ラジューが再びこの廃墟に来たのは、それから数時間後。
 アジャイを送るジープが廃墟の入口でエンストしたためだった。なにかに呼ばれるようにラジューは廃墟に入り、奇妙な歌と鈴飾りの響きを聞く…。

 この偶然に、なにか記憶を刺激されるラジューは翌日一人で廃墟に赴くと、彼が入ってきたことに反応するように、廃墟から歌が聞こえてきて、その声の主の姿は四方八方に現れては消えて行く。

 "それは、忘れられた物語
 昔の恋物語がよみがえる
 来ると言った約束だけれど
 約束は破られ 来てはくれなかった
 あなたは忘れてしまった 恋物語を
 それは、忘れられた物語…"

 声の主の美女ラジニーは、ここはずっと昔から2人で遊んできた場所で、ラジューが忘れているだけだと語り、ラジューは彼女に魅了される。
 なにかを思い出せそうなラジューだったが、母親は「あそこには近づくんじゃない」となにも答えてくれない…。


挿入歌 Bhooli Bisri Ek Kahani (ある忘れられた物語[貴方の忘れた恋物語])


 原題の意味を探ろうと検索してもなかなか出てこなかったけれど、教えて頂いた所「コブラ(雌)」の意味とのこと(ありがとうございます!)。

 田舎の大豪邸に住む御曹司。霧煙る廃墟。妖しい美女。幼少期の埋もれた記憶…とくれば、もうハマープロなホラーの雰囲気。とは言え、お話自体はそんなホラーでもなく、民話調な「蛇女房」って感じ(しかもハッピーエンドで終わる!)。
 そういや、ハマープロってイギリスの映画会社だけど、インド映画界への影響ってあるんかね?(*1)

 80年代のボリウッドと言えば、ボリウッド・クイーンのシュリーデーヴィーの絶頂期。
 AFI(アメリカ映画協会)ならぬ、IIFA(インド国際映画協会)が選ぶインド映画ベスト100とかあったら、多分このシュリーデーヴィーのコブラダンスはミュージカル部門でランクインしていることでございましょう(たぶん)。

 そのキャリアは、4才時の1967年に、タミル語映画での子役から始まり(*2)、ボリウッドだけでも61本。タミル語映画に60本。テルグ語映画に64本(彼女の母語はテルグ語!)。さらにマラヤーラム語映画にも19本出演してると言う女王っぷり!(*3)
 とにかく、劇中での美人度はハンパなく、あんたのその目は、どうやったらそんなでっかく見開かれるのよ…と言いたくなるほどに、妖しく美しく輝いております。まさに観客は蛇に睨まれたカエル。敵役の祈祷師演じるアムリーシュ・プリともども、インド人の目玉は、ちょっと油断するとこぼれるんじゃなかろか…と言うくらいデカイからビビる。

 この2人の間に立つ主人公ラジュー演じるリシ・カプールの影の薄さったらもう…。平々凡々な男が、ある日突然美女と恋におちる…と言うのがインド映画のお約束とは言え、昔っからリシさんってあんま変わらないなぁ…(体型が)。
 ラジューの母親に見覚えがあるような…と思ったら、やっぱり「K3G」「KHNH」とかで主人公の祖母役で出演してたスシーマ・セスだった。ヴィディヤとの見合いを息子に拒否されて怒ってたと思ったら、ラジニーのあまりの美しさにあっさり「結婚しちゃいなさい」と言い出す母親役を好演(それってどうなのよ?)。

 幼い頃に、蛇と魂を入れ替えるられたことで命を救われたラジューの一件から、後半の話は、夫の魂を持つラジューと一緒になりたいと思うラジニー、人間に変身できる蛇の持つ呪力によって、無限の力を手に入れられると画策する祈祷師との対決に変わって行く。
 ラジニーの「最初はラジューを殺して夫の魂を取り返そうとしたけれど、貴方たち親子の姿を見ていて、それもできなくなりました」と言う気持ちの揺れ動きが、お話をより美しく、民話的色調に染め上げる(*4)。


挿入歌 Balma Tum Balma (夫よ。あぁ愛しの人よ[わけを言って])




2010.9.17.

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*1 「赤死病の仮面」とか大好きな私…ホラー苦手なくせに。
*2 噂では、本物の蛇と戯れる役だったそうで…。
*3 平均で、1年に4.6本以上に出演してるってことだなぁ… Wiki情報によれば。
*4 …とは言え、誰も不幸にしたくない、と語るラジニーだけど、ヴィディヤは十分不幸な目に遭ってるよなぁ…。