インド映画夜話

Nagin 1976年 139分
主演 リーナ・ローイ & スニール・ダット他
監督/製作 ラージクマール・コーホリー
"なぜ私の愛する人は殺された? 彼がなにをしたと言うの?"
"ただ一人生き残ろうとは思わない。私が、あいつらに死を与えてみせる!!"



挿入歌 Tere Sang Pyar Main Nahin Todna (貴方との愛の交わりを、私はけして断つ事はない)

*04年のハリウッド映画「エターナル・サンシャイン(Eternal Sunshine of the Spotless Mind)」劇中にて、この歌が引用されているとかなんとか。


 神話に曰く。かつて、クリシュナ神に願いを聞き届けられた蛇は、人の形をとる事を許された。この伝説は、今に至るもなお生き続けている話である…

 ある日、密林にハンティングしに来たヴィジャイは、そこで鷹に襲われる奇妙な格好の青年を助ける。彼は、命の恩人のヴィジャイが蛇に関する小説のアイディアを探していると聞いて「人の姿に化ける蛇は、新月の夜に現れますよ」と語り、そのすぐ後に現れた美女と共に歌い踊りながら蛇の姿になって森の中に消えてしまう…。
 驚いたヴィジャイは、さっそく仲間たちにこの事を話すが、友人5人は鼻で笑うだけ。しかし、件の蛇たちが新月の夜に踊り遊ぶ声を聞きつけて皆でその現場を覗きに行くと、森の中で蛇と戯れる美女を発見。その時、仲間の1人キランが「女性が蛇に襲われている」と勘違いして発砲!! 雄の蛇を殺してしまう! 蛇は、"仲間を殺されると必ず復讐に来る"と言われている。これを恐れたヴィジャイたちは、蛇の姿に戻った美女を探すものの見つからないまま。その翌朝、キランの変わり果てた姿が発見される事に…。

 友人の死に驚き悪夢にうなされる男たちだったが、その1人ラジェーシュは恋人リタに慰められ、そんな彼女との結婚を決意する。その頃ラジェーシュの母の元に当のリタが現れ「今日はラジェーシュとは会っていない」と語っていた。 これを聞いたヴィジャイは驚愕し…!!


挿入歌 Tere Mera Mera Tera (君は僕の、僕は君のもの)

*メインで踊ってるのは、ゲスト出演のアルナー・イラーニー(かいな?)と、主要登場人物ラジェーシュ役のヴィノード・メヘラー、その彼女リタ役のヨギータ・バリ。
 にしても、主役級以外のバックダンサーたちの動きのぎこちなさよ…。



 タイトルは、ヒンディー語(*1)で「雌蛇」。
 同名タイトルで、1954年のヒンディー語映画、59年のパキスタン映画、81年のマラーティー語(*2)映画、13年のボージュプリー語(*3)映画などがあるようだけど、それぞれまったくの別の映画(らしい)。

 本作は、フランソワ・トリュフォーによる1968年のフランス映画「黒衣の花嫁」とその原作をアイディア元に、インドで人気ジャンルである蛇神映画要素でまとめた、マルチスター・ファンタジー映画。
 翌77年にテルグ語(*4)リメイク作「Devathalara Deevinchandi 」が、さらに79年にはタミル語(*5)リメイク作「Neeya」も公開。さらに、本作の監督ラージクマール・コーホリー自身によって2002年に再びヒンディー語でのリメイク作「Jaani Dushman: Ek Anokhi Kahani」も公開された。

 恋人を殺されて、6人の男たちへの復讐を誓った蛇が、その男たちの周辺の女性をも巻き込んで行なうリベンジムービーで、公開当時19才だったヒロイン演じるリーナ・ローイの代表作の1つ。
 アイディア元の「黒衣の花嫁」のようなサスペンスよりも、超能力で男たちに立ち向かう蛇と、それを向かい打つ男たちのアクションメインな牧歌的ファンタジーながら、6人のスターとヒロインを平等に扱おうとしたせいか、物語自体はやや強引で、シチュエーションコメディならぬシチュエーションスリラーな面が強い。
 色々ツッコミ所はあれど、空を飛ぶわ、殺しても復活するわ、毒で生き物どころか家具までも青く染めるわな復讐の鬼と化すコブラの「人間に化けない方が強くね?」って存在感と不気味さがなんとも。そんな簡単に屋内に蛇が侵入しないでくれ、って感じだけど、そういや私も祖父母の昔話とかで「布団敷いてちょっと離れてたら、いつの間にかその中で蛇がぐっすり寝てた」とか言う話は聞いた事あるなあ…。

 とにかく、この映画の売りは豪華な出演陣。
 ・物語の発端をつくるヴィジャイ役には、50年代後半から活躍するトップスター スニール・ダット(*6)。公開当時46才で、さすがにムサいおっさんにしか見えないけど、いいとこは全部持ってく主人公無双っぷり。無駄に胸毛ぼうぼう。
 ・その恋人スニータ役には、大女優レーカー!! 若かりしレーカー様も妖艶なお美しさであらせられます。もともと、ヒロインの雌蛇役をオファーされていたらしいけれど、それを断って後で激しく後悔したとか。ラスト周辺で、蛇役リーナ・ローイとの1対1の格闘戦シーンがあるのは、そんな裏話からの当てつけ演出?(しなくてもいい裏読み)
 ・雄蛇を殺すキラン役には、70年代から映画とテレビ双方で活躍する男優アニル・ダーワン(*7)。そこまででもないけど胸毛アピールあり。
 ・キランに続く標的ラジェーシュ役には、子役から主演俳優になって70〜90年代に活躍したヴィノード・メヘラー(*8)。イケメン然として登場しながら、やっぱり胸毛ボウボウ。
 ・ラジェーシュの恋人リタを演じるは、70〜80年代に活躍したヨギータ・バリ(*9)。
 ・1人呪術師に反抗するウダイ役に、70年代から映画とTV双方で活躍し、アカデミー会員でもあるカビール・ベディ。2010年にイタリアから共和国功労勲章(*10)を贈られてもいる人物。白人的な顔して、控えめながら胸毛健在。
 ・そのウダイが森の中で助けた村娘を演じたのが、71年度ミス・ワールド・インド代表のプレマ・ナラーヤン。ベンガル人女優アニータ・グハの従妹にあたる人。
 ・娘アヌーのために、蛇を殺そうと積極的に行動するスーラジ役にはサンジャイ・カーン(*11)。
 ・スーラジの妹ミーナ役を演じたのは、ヘーナ・カイサル。名作「Mughal-e-Azam(偉大なるムガル帝国)」の監督&製作を務めたK・アシフと、その映画にも出演している女優ニーガル・スルターナーの娘。90年代のインドのドラッグ王イクバール・ミルチの第2夫人になる人とか。
 ・人に化ける蛇への疑心暗鬼から恋人や仲間をも敵視するラージ役には、60〜70年代に活躍したフェローズ・カーン。男優ファルディーン・カーンの父親にあたる人。やっぱ胸毛ボウボウ。
 ・ラージの恋人ラージクマーリー役には、本作冒頭で「最後の出演映画」とクレジットされている女優ムムターズ。60年代から大活躍していた人で、74年にビジネスマンと結婚後、本作が引退作とはならずに77年の「Aaina(鏡)」をもって女優引退したけれど、90年の「Aandhiyan」で一時的に映画復帰。その後、10年の再現ドキュメンタリー「1 a Minute」にも出演しているとか。
 ・殺される雄蛇が人間に化けた時を演じていたのは、名優ジーテンドラ。30歳を越えてるわりには男優陣の中で一番若々しい姿しているかもしれない。他の男優たちに比べると控えめながらやっぱり胸毛アピール健在。

 タイトルロールの雌蛇役を演じていたのは、1957年ボンベイ(現ムンバイ)に産まれたリーナ・ローイ。
 イスラム教徒の父とヒンドゥー教徒の母の離婚後、10代にして映画界入りし、72年の「Zaroorat」で映画&主演デビュー(公開当時15才!)。翌73年の「Jaise Ko Taisa」でジーテンドラと共演して大ヒットさせ、一躍トップスターの仲間入り。77年の「Apnapan」でフィルムフェアの助演女優賞を獲得して、70〜80年代に大活躍する。
 83年にパキスタン人クリケット選手と結婚。88年の「Do Waqt Ki Roti」を最後に女優引退するも、後に離婚。92年の「Aadmi Khilona Hai(男はおもちゃ)」から女優復帰し、04年に妹(姉?)バルカーと共に演劇学校を開設。さらには国民会議派に加わって政界にも参加していると言う。
 本作では、主演オファーを当初サイラー・バーヌーやニートゥ・シン、ヨギータ・バリ、レーカーなどが断っての抜擢となり、代表作の1つと呼ばれるほどの演技力を見せつけ、フィルムフェア主演女優賞ノミネートされている。

 多くの女優が「悪役はやらない」と断ったと言う本作ヒロインの雌蛇を始め、命を狙われる男たちも底意地の悪い連中ばかりの悪役然としたキャラで固められている所に、単純な復讐劇にはならない「殺される前に殺す」図式が自然に成立する段取りになってるわけだけど、しっかりきっかり「復讐など虚しいだけだ」と言う説教も入って来る所は時代性か。嫌味なく善玉被害者の位置にいる、標的となる男のそれぞれの恋人たちが苦境に立たされるあたりに、多少女性蔑視に対する提言めいたものも表現されてるような…そうでもないような。
 まあ、今から見るとこれぞB級映画よね、ってノリでお気楽に見るのが一番な映画だけど、それにしても出演女優たちの妖艶オーラのハンパないこと。蛇に襲われるなんて考えただけで恐ろしいけど、ヒロインたちには襲われターイ…嘘です、あの"私はスターなのよ"オーラには蛇と同様太刀打ち出来る気がしませんわー。


挿入歌 Tere Mere Yaraane (君と僕の愛)

*画面内で踊ってるのは、ラージ役のフェローズ・カーンと、恋人ラージクマーリー役のムムターズ。
 ちなみに、ムムターズの娘の1人ナターシャは、06年にフェローズ・カーンの息子ファルディーン・カーンと結婚してたりする。世間は狭いですネ。







「Nagin」を一言で斬る!
・本物の蛇を顔のすぐ側に近づけて演技してる役者が、なによりトンデモねえ…

2016.7.29.

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*1 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
*2 西インド マハラーシュトラ州の公用語。
*3 北インド ビハール州やウッタル・プラデーシュ州周辺で使用される東部語群の1つ。
*4 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*5 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。
*6 妻が大女優ナルギスで、息子がかのサンジャイ・ダットになる。
*7 コメディ映画監督ダヴィッド・ダーワンの弟(兄?)。
*8 【Ek Main Aur Ekk Tu(1つを私に、もう1つを貴方に)】や【ラギニMMS2(Ragini MMS 2)】に出演している女優ソニヤー・メヘラーの父親。
*9 50〜60年代に活躍した大女優ギータ・バリの従妹で、ミトゥン・チャクラボルティの妻。
*10 6位等級カヴェリエーレ。
*11 リティック・ローシャンと結婚&離婚したスザンヌ・カーンや、男優ザイード・カーンの父親。