インド映画夜話

Nanban 2012年 189分
主演 ヴィジャイ & ジヴァ & スリカーント & イリヤーナー・デクルーズ
監督/脚色 シャンカル
"友よ、君のようなヤツは他にいない。お前のマネが出来るようなヤツは…"






 その日チェンナイ空港にて、離陸直前の飛行機に乗るヴェンカト・ラーマクリシュナンの携帯が鳴り響く。
 「今日、パーリがやって来る」と言う大学の同窓生スリヴァトサンの知らせに、無理矢理飛行機を降りて、同窓の親友セヴァルコディ・センティルを叩き起こし、一緒に母校IEC(アイディアル・エンジニア・カレッジ)に向かう二人を出迎えたのは、スリヴァトサンただ一人だけだった。
 「今日この日、10年前は同じ学生だったオレたちの、"どっちが勝ち組になったか比べよう"と言う約束を果たそうじゃないか? …だけど、どうせヤツは来ない。負けを認めたくないだろうからな」
 大学時代、相部屋の親友だったヴェンカト、センティル、パーリ。しかし、パーリが卒業と共に音信不通になってはや10年。スリヴァトサンからウーティに彼がいると聞いて、3人はすぐに出発する…。

**********
 10年前。超難関を突破してIECに入学したヴェンカトとセンティルを待っていたのは、先輩たちの新入生いじめの儀式と大量の課題の山。しかし、そこに現れたパーリ(本名パンチャヴァン・パーリヴェンタン)だけは違っていた。
 自由奔放で、暗記型学習よりも独自研究や発想の転換に興味を持つ彼は、そのマイペースさから先輩や教授たちと次々衝突。ついには学長のウイルス先生(本名ヴィルマンディ・サンタナム)や、米国帰りのガリ勉"消音銃"スリヴァトサン、学長の娘リアの逆鱗に触れてしまい…
**********

 ウーティに到着した3人は、すぐにパーリの実家であるお屋敷を見つけるが、そこにいるはずのパーリは…


挿入歌 Heartile Battery (心のバッテリーが [低レベルなら、"All Is Well"でチャージしろ])



  タイトルは、タミル語(*1)で「友達」。
 タミル語映画界のトップスター ヴィジャイを主役に迎え、監督作全てヒットさせるシャンカル監督による、2009年のヒンディー語(*2)映画「きっと、うまくいく(3 Idiots)」のタミル語版リメイク作。公開後、オーストラリアのメルボルン国際映画祭でも上映されて海外でも大ヒットした。
 本作のテルグ語(*3)吹替版「Snehithudu(友達)」も公開されている。

 基本的には、オリジナルの「きっと、うまくいく(3 Idiots)」と同じ話で、キャストがタミル人俳優に、舞台がタミル・ナードゥ州に置き換えられてるのみで、カットやシークエンスそのものも極力もとの通りに作られている(*4)。その分、タミル人が楽しめるよう・わかりやすくなるように、微妙に強調されたり修正されたりしてる部分がより興味深い。
 冒頭、センティルがズボン履かないで外に出てきたのを「うわ」って目で見てる女性たちとか、"消音銃"スリヴァトサンの下品なスピーチを「なんなの」とドン引きして見てる女子生徒のカットが入ってる所なんて示唆的。

 まあ、それ以外は企画段階で「変更しないように」とかなんとか契約されたんでしょうなあ。「きっと、うまくいく(3 Idiots)」も、原作者の小説数編をミックスした脚本を、監督自ら原作者に語って聞かせた上で「もし1つでも不満な箇所があれば、その時点で映画化は見送る」と断言して映画化権を許可されたそうだし(*5)。

 この空前の大ヒット作のリメイクと言う大役を任せられたのが、タミル語映画界の巨匠シャンカル監督(本名シャンムガム・シャンカル)。
 1963年タミル・ナードゥ州クーンバコナム出身で、工業大学を卒業した後、舞台演劇を経て映画界入り。助監督から1993年のタミル語映画「Gentleman」で監督デビューし数々の賞を獲得して一躍人気監督に(*6)。96年の「インドの仕置人(Indian)」、98年の「ジーンズ(Jeans)」、01年の「ナヤク(Nayak)」、07年の「ボス(Sivaji)」など日本でも公開またはDVD発売された監督作を経て、大ヒット作「ロボット(Enthiran)」の製作中に本作の監督就任を承諾したそうな。元とほぼ同じ映画のはずなのに、本作のそこかしこにいつものシャンカルスタイルが散見されるのが、なんともいとをかし(*7)。

 主役パーリ役は、映画一族出身のタミル語映画界のトップスター ヴィジャイ(公開当時38才!)で、本作でヴィカタン主演男優賞を受賞。本作公開の2012年には、同じく主演作「Thuppakki(銃)」と、ゲスト出演のヒンディー語映画「Rowdy Rathore(暴れん坊ラトール)」にも出演している。
 ナレーション担当でもあるヴェンカト役を演じたのは、チェンナイ出身で主にタミル語映画界で活躍するスリカーント(・クリシュナマチャリ 公開当時33才)。12年には、本作以外にもタミル語映画「Paagan」、テルグ語映画「Nippu(炎)」、マラヤーラム語映画「Hero(ヒーロー)」に出演。
 3馬鹿最後の一人センティルを演じたのは、やはりチェンナイ出身で子役からタミル語映画界の俳優になったジーヴァ(公開当時28才になったばかり)。12年は、本作の他に主演作「Mugamoodi(マスク)」「Neethaane En Ponvasantham(君は僕の黄金の春)」に出演している。
 ヒロインのリアを演じたのは、本作と同年公開作であるヒンディー語映画「バルフィ!(Barfi!)」にも出演してるイリヤーナー・デクルーズ。タミル語映画には、2006年の「Kedi」以来2本目の出演作となった。
 学長のウイルス先生には、役者兼パーソナリティのサティヤラージ(本名ランガラージ・スッバイアー)。大学で植物学を学んだ後、親の反対を押し切って映画界入り。1978年のタミル語映画「Sattam En Kaiyil」を皮切りにタミル語映画を中心に活躍中。本作で数々の助演男優賞を獲得している。両手だけでなく両足でも筆記できるウイルス先生なんかは、「きっと、うまくいく」見てるとなお笑える?
 "消音銃"ことスリヴァトサンを演じるは、役者兼コメディアンのサティヤン(・シヴァクマール)。映画プロデューサーの父を持ち、ウイルス先生役のサティヤラージの甥にあたるそうな。父のプロデュースのもと2000年に「Ilaiyavan」で映画&主演デビューし、そこから年に何作も出演を続ける人気者に。本作公開時の2012年には、やはりヴィジャイ主演作「Thuppakki(銃)」にも出演している。

 舞台となるIECシーンの一部に、ヒンディー語映画「スチューデント・オブ・ザ・イヤー(Student of the Year)」でもロケ地になっていたウッタラーカンド州デヘラードゥーンの森林研究所が出て来るのが「へえええええ」ってなもんで、ラストシーンの風光明媚な海岸シーンはアンダマン諸島で撮られたものとか。カシミールの寒冷地的幻想性とはまた違う、南洋的開放感のある美しい海岸も負けず劣らずの美しさでしたゼ!


挿入歌 Irukana (わかるか? そこにあるのものが [彼女のウエストダンスが見えるのか? イリヤーナーの細い腰が!!!])

*唯一、元の「きっと、うまくいく」にないタイミングで追加されたミュージカル。
 振付を担当したのは、ボリウッドで活躍する監督兼振付師のファラー・カーン!




受賞歴
2012 Vijay Awards エンターテイナー・オブ・ジ・イヤー賞(ヴィジャイ [Thuppakkiに対しても])・助演男優賞(サティヤラージ)
2012 Vijay Music award アルバム・オブ・ジ・イヤー(Aska Laska / マドハン・カルキー)
2012 Vikatan Awards 主演男優賞(Thuppakkiに対しても)
2012 Big Tamil Melody Awards 音楽監督賞(ハリス・ジャヤラージ)
2013 Filmfare Awards South タミル映画助演男優賞(サティヤラージ)
SIIMA Awards 助演男優賞(サティヤラージ)




「Nanban」を一言で斬る!
・赤ちゃん、でか!

2015.4.17.

戻る

*1 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。その娯楽映画界を、俗にコリウッドと言う。
*2 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語で、その娯楽映画界を俗にボリウッドと言う。
*3 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*4 もちろん、ロケーションは独自のものになってるから、撮影時の都合や演出意図などでの変更は多々あるけど。
*5 ただし、その後映画の大ヒットに伴い、著作権料をめぐって原作者が訴訟を起こし、"3 Idiotsの著作権は誰のものなのか"論争が勃発する騒ぎに発展したそうな。
*6 この映画は、翌94年にマヘーシュ・バット監督によるヒンディー語リメイク作「The Gentleman」が作られている。
*7 特にミュージカルシーンは完全にシャンカルワールド!