主人公 (Nayak / 1966年ベンガル語版) 1966年 117分
主演 ウットム・クマル & ショルミラ・タクル
監督/脚本/音楽 サタジット・レイ
"映画俳優は、操り人形か?"
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世間を騒がす映画スター アリンダム・ムケルジーはその朝、急遽デリーで行われる映画賞授与式に出席するため長距離夜行列車に乗り込んでいた。
最新作の興行不振、朝刊を賑わす乱闘事件報道から逃れるために…。
飛行機搭乗券が手に入らなかったため、急な夜行列車の相部屋を確保しようとするアリンダムだったが、デリー行きの列車には一癖も二癖もある乗客が乗り込んでいる。映画嫌いの老人オゴル・チャテルジー、妻と病気の娘を連れた会社経営者ホレン・ボース、ホレンに取り入ろうとする広告マン プリティシュ・サルカル夫婦、そして映画に批判的な女性誌"現代女性"編集者アディティ・セングプタ…。
一般車両にて同席した夫婦との話し合いの中で、雑誌売上を上げるためにはアリンダムの取材記事を載せるべきだと言われたアディティは、乗り気はしないながらアリンダムへのインタビューを試みる。
「俺の人生は何度もあちこちに書かれてる。誰でも知ってるだろう?」
「それでも、今までのあなたの記事は面白いとは言えないわ。私が知りたいのは、そう……すごく有名になるのは、どんな気分?」
「そりゃ気分いいよ。最高だ」
「でも全てを手に入れた中で、何か寂しさや虚しさを感じない? 物足りなさとか?」
「…言ってどうなる? 何かいいことでも?」
1962年の「Kanchenjungha(カンチェンジュンガの休日)」以来、2本目のサタジット・レイ自身のオリジナル脚本となる、ベンガル語(*1)映画。英題「The Hero」「Nayak: The Hero」としても知られる。
2004年には、米国アカデミー・フィルム・アーカイブが本作の保管を発表している。
日本では、2025年の「サタジット・レイ レトロスペクティブ」にてデジタルリマスター版が上映。
ベンガル社会に揉まれる平凡人の苦悩を描くことの多いサタジット・レイ映画(*2)にして、オリジナル脚本で描かれるのは特異な才能によって業界を代表するほどの名声を獲得した映画スター アリンダム・ムケルジーの姿。
実在する長距離列車を舞台に(*3)、そのハウラー駅〜ニューデリー駅までの22時間もの旅の間に起こった乗客たちとの交流の姿は、群集劇的なものを内包しつつも、基本は主人公たるアリンダムの背景を通した内面の苦悩、外向きの表情の奥に隠れているスターの持つ影の側面を描き出して行く。
映画嫌いの老人やインド映画に批判的な実業家や編集者の、歯に絹着せぬ言葉にも如才なく対応してにこやかに対処するアリンダムの有名人としての身の処し方から、その裏側に隠した不安や苦悩を片時も見せようとしない頑なさは、映画冒頭の自宅での言動との差から終始アピールされている。ヒッチコック映画や黒澤映画にも似たアリンダムの悪夢(*4)シーン以降から、その生い立ち、演技の師匠との衝突、映画業界での軋轢などがどんどん具体化していって、彼の中に渦巻く人間的な苦悩がだんだんと露わになって行く姿は定番ながら、列車内と言う限定空間の中での会話劇で1つ1つを丁寧に見せて行く、その語り口によってそれぞれの登場人物たちのアクの強さもあって、みんなが生き生きとお話を推進させてく姿は全く飽きさせない構成。監督自身が語る「無関心とある種の嫌悪感から、共感的な理解へと変化して行く過程」が、それぞれの交流を通して描かれ行く姿はスリリングでありつつ詩的でもある。その映画スターの抱える苦悩が理解できればできるほど、過去の人々との関わりが呪いのごとく彼の人生を縛っている姿にある種の助けが必要であることがわかればわかるほど、一般時としての距離を取らざるを得ないアディティの哀しさもまた、ベンガル文芸的な人と人の距離感、関わり方の流儀でもあって静謐であります。
OPクレジットのエディトリアルデザイン的な画面構成も挑戦的で印象に強い。雑誌編集業も並行して行っていたサタジット・レイだからこそのアイディアか、はたまたヒロインの編集者アディティ・セングプタの存在ゆえの演出か。「書かれるもの」の背景に徐々に立ち現れてくる主人公の後頭部という見せ方も、あるいは皮肉たっぷりの演出でありましょか。
それにしても、寝台車両はともかく、22時間もの列車旅行でずっと椅子に座っているのも大変だろうなあ…。そら、食堂車とか車両連結部にその都度出て行きたくなるというものですわ。大陸は広い!
受賞歴
1966 独 Berlin International Film Festival 審査員特別賞・UNICRIT批評家賞
1967 National Film Awards ベンガル語映画銀蓮脚本賞
1967 デンマーク Bodil Awards 非ヨーロッパ映画作品賞
1967 Bengal Film Journalists’ Association Awards インド映画作品賞・監督賞・主演男優賞(ウットム・クマル)・脚本賞(サタジット・レイ)・台本賞(サタジット・レイ)
「主人公」を一言で斬る!
・日本映画は成長著しい、んだって!(60年代はまあ、元気な時代ですわあ)
2026.5.29.
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