Nimantran 1971年 123分
主演 ションディヤー・ローイ & オヌープ・クマール
監督/脚本/台詞 トルン・モジュムダール
“…やあクミ、久しぶりだね"
"長いこと、どこにいたのヒルダ? …あせらなくていいわ。全部わかってる"
クミが読書に目覚める劇中シーン
ガンガー(=ガンジス河)流域のベンガル農村部。
舟で伯母の住むバムンパラ村へやって来た、コルカタ育ちの青年ヒレンドラナート(通称ヒルまたはヒルダ)は、その伯母の家に母親と一緒に身を寄せている再従妹クムディニ(=蓮の意。通称クミ)と知り合う。お互いに軽口をたたき合いながら仲良くなって行く2人は、村の祭りや豊かな自然を通して農村地域の美しさ・楽しさを満喫し徐々に距離を縮めていく。そんな生活の中、ある夕暮れにクミはヒルダに問いかけるのだった…
「あなた、近所のシャビディと結婚するんでしょ? 聞いたわ」
「シャビディ? なんでそんな…」
「彼女じゃ釣り合わないとでも? だって…あの子は哀れみを誘うものね」
「…人は誰しも哀れだよ。君だってそうだろ?」
「…私は…」
挿入歌 Amar Dukhe Dukhe (我が人生は、悲哀に費やされて) / Janamdukhi Kapalpohra
タイトルは、ベンガル語(*1)で「招待」の意とか。
「大地のうた(Pather Panchali)」の原作者ビブーティーブーション・ボンドパッタエの原案を元にした、ベンガル語映画。
ベンガル農村部を舞台に、その理想的農村ライフを満喫する若い男女が、お互いに掛け合いによって愛情を育む様を主軸に描きながら、後半はその人生の紆余曲折によって結ばれそうで結ばれなかった青春が、遠い過去へ過ぎて行ったさまを回顧する人生の不条理を見せていく。
当初、饒舌で明るいお調子者然として描かれるヒルダとクミと言う似た者同士が、その交流を通して自分たちの境遇の違いを噛み締め、結婚を考えていながら果たせずに別れていくと、物語は、それぞれに望まぬ結婚を経験して全く違った性格に成長した2人の様変わりようを主題に綴り始め、2人の再会が起こす虚しさと嬉しさの交錯する感情の渦を詩的に描写する様は見事。最初と最後で全く異なる表情を見せる2人が、長い時を経て再開する時に見せるフラッシュバック演出と、その時のやつれながら昔の面影を残す表情を見せていく対比具合も素晴らしきかな。
農家で働くヒロインにしてはメイクバッチリなクミ演じる大女優ションディヤーのお美しさ・可愛らしさも素晴らしかですが、最初の少女然として若々しさに対して、後半の歳を重ねた感情を押し殺した寡黙な佇まいと言う全く異なる演技が見れるのも2重に必見ですよ奥様!
対するヒルダ演じるオヌープ・クマール(本名ソティヤン・ダース)は、1930年英領インドのカルカッタ(*2)生まれの男優。父親は有名な歌手兼男優兼作詞家兼コンポーザーのディレンドラ・ナース・ダース。父親を介して男優シシル・クマール・バドゥリーのもとで演技を特訓し、38年のベンガル語映画「Halkatha」で子役デビュー。早くから、舞台演劇や映画でその才能を認められて活躍を広げていき、48年の「Bankalekha」あたりから主演男優に昇格。主演男優の他、コメディ役者としても人気を博す。
本作と同じくションディヤーと主演した64年の「Palatak」で、BFJA(ベンガル映画報道機関賞)主演男優賞を獲得したのを皮切りに多数の映画賞を受賞し、ベンガル語映画界で活躍していく。
1998年、コルカタにて心臓発作で物故。享年68歳。
「大地のうた」に比べると、ベンガル農村地域の悲哀といったものはかなりの部分排除されて、牧歌的で理想的な農村スローライフが描かれていくものの、父親を亡くして叔父(?)の家に居候するしかないクミが、外の世界に希望を求めつつもそれが果たされないことを自覚してるあたり、「大地のうた」と通じる農民たちを取り巻く無情な現実がそこはかとなく見え隠れしている話でもある。
その叔父であるハイカーストな司祭によって、2人の交流のきっかけが始まると同時に、常に2人を罵る役として司祭が配され、結婚を決意した二人に対して決定的な因習を突きつけて2人の交流を終わらせてしまうと言う描写が、まー意味深すぎてもう。
そうした村の慣習に逆らえない若者たちが、まだ見ぬ世界や未来に希望を見つつ、大人たちを翻弄する無邪気な青年時代の終わりと共に人生のままならなさを受け入れざるを得なくなり、諦観の中に身を沈めながらも相手を想うが故に泣き顔も苦悩も見せず、ただただ「現状を受け入れる」ことだけが唯一「厳しい現実に対処し抵抗する」手段となっていくやるせなさ、だからこそ青年時代の思い出が一層の輝きと意味を持って個人個人の心の奥底に焼き付いていく様も、儚なくそれでいて美しい。
そういった、移りゆく人生のその時その時をしっかり演じきった主演俳優2人の演技とそれを実現させる映画的演出の卓越さ、そこに描かれるユーモアあふれる若い世代への視線は、なにはなくとも見て損はなさすぎるぜー!
挿入歌 Dure Kothay (どこか、遥か彼方で)
受賞歴
1971 National Film Awards ベンガル語映画注目作品賞・男性プレイバックシンガー賞(ヘーマント・クマール / Singhapristhe Bhar Kariye & Peeriti Boliya Ekti Kamal)
1972 BFJA(Bengal Film Journalists' Association) Awards 作品賞・監督賞・主演女優賞(ションディヤー・ローイ)・撮影賞(シャクティ・バナルジー)・助演男優賞
「Nimantran」を一言で斬る!
・ヒルダが撮ってたクミの写真、(ほぼありえないけど)上映・公開する時にはパンフと一緒に特典として同封してホシィー。
2020.5.15.
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