オーマイゴッド 〜神への訴状〜 (OMG − Oh My God!) 2012年 130分 ムンバイにて、ヒンドゥー教関連の古物商を営むグジャラート人カーンジー・ラールジー・メヘターは、その商売に反して大の宗教嫌い。家族がお祈りを唱えるのもお祭りに参加するのも嫌う無神論者の彼は、親戚のお葬式中に飲酒するわ、敬虔なヒンドゥー教徒に適当な神像を口八丁で高額に売りまくるわと、今日も向かう所敵なしの下町親父である。 ジャンマシュタミ祭(クリシュナ神生誕祭)当日。息子がヒンドゥーイベントに参加していると知った彼は無理矢理イベントに乱入して息子を連れ出し、そのために宗教家の怒りを買って「お前は神に滅ぼされるだろう!」と宣言される。そんな事は気にしないカーンジーだったが、突如起こった地震によって、カーンジーの店1つだけが壊滅的打撃を受けてしまったから吃驚仰天!! カーンジーは、以前から掛けてある保険金で店を再建しようと保険会社に乗り込むも、「今回の件は"神の仕業(=天災の意)"ですから、書類上契約対象外です」と拒否され怒り心頭。煮え切らない彼は、ついに自分をこうも陥れた"神様"そのものを訴えて賠償金を支払わせようと裁判を起こすことに…!! 挿入歌 Go Go Govinda (ゴー・ゴー・ゴーヴィンダ) *ゴーヴィンダとは、「牛飼いの主」の意で牧夫神クリシュナの尊称。クリシュナ生誕祭となるジャンマシュタミ祭でかかるかけ声になる。 このかけ声と共に、神話の中でクリシュナがやらかす悪戯"子供の手のとどかない所に吊るされた牛乳壷を、人間ピラミッドに登ってぶっ壊す"のが、ムンバイ周辺のマハラーシュトラ州で行なわれるジャンマシュタミ祭の恒例行事(映画で多用されることから、この行事はインド全国に拡大しているらしい)。 突然始まるジャンマシュタミ祭を祝う人々のダンスに乱入してくるのは、ダンスマスターとして有名なプラーブ・デーヴァ&その監督作の常連出演女優ソーナクシー・シンハー!! 特に必然性もなく登場するスター2人が本人役で登場するこのシーンで、「プラーブデーヴァとソーナクシーですよ!」「彼女はラウディ(暴れん坊)だよ。さっさと先に行けよ」と映画ネタで返すカーンジーに、偶像崇拝否定の彼の精神が透けて見え…る?(んなアホなw) 「宗教とか信仰ってなんやねん?」と言うテーマの、 グジャラート語(*1)舞台演劇「Kanji Virudh Kanji (カーンジーVSカーンジー)」を原作とする、ヒンディー語(*2)舞台演劇「Kishan vs Kanhaiya」を映画化した、大ヒットコメディ映画。 同年にニュージーランドでも公開された他、ハンガリー語吹替版やロシア語吹替版もあるそう。2015年には、テルグ語(*3)リメイク作「Gopala Gopala」、16年にはカンナダ語(*4)リメイク作「Mukunda Murari」も公開。 その映像プロットは、2001年のオーストラリア映画「The Man Who Sued God (神様を訴えた男)」も元にしていると、OPクレジットにある(*5)。 日本では、2017年よりNetflixにて「オーマイゴッド 〜神への訴状〜」のタイトルで配信されている。 お話は、口から先に産まれたような下町親父の気っ風のいい親父っぷりに始まって、インド全国の新興宗教家を相手取った「神様の意志とはなんぞや?」「人間は神様を利用してるだけではないのか?」「宗教ビジネスこそ、神の望まないものでは?」と言う、"信仰の民"インド人に対して挑発ともとれる絶妙な問いを通して、"神様"なるものの実像に迫っていく裁判劇。 元が舞台演劇だからか、軽妙な台詞の応酬と、傍聴席やTVの向こう側の人々の拍手喝采の様子など、舞台的画作りで作られていて、保険金を払いたがらない保険屋連中や、自分の意志に反した行動をとる人間を「異端者」と言って貶めたがる新興宗教家たちを煙にまく、"誰もが一度は考えたことのあるだろう"宗教ビジネスへの疑問をバッサリ表現しきってる所なんかは愉快痛快。 そして中盤以降、突如主人公の前に現れるクリシュナ神(*6)の泰然自若(神色自若?)っぷりに笑っていると、映画構造は実利主義の無神論者vs新興宗教家から、宗教の本質的意義vs宗教ビジネスへと変化していき、無神論を貫き通していたはずのカーンジーが各宗教(*7)を研究することによって本質的な「神の意志」「宗教のあり方」を提示するようになっていく。この価値の転換が、宗教(*8)の再考をうながす一人一人の激論への起爆剤として機能する様は見事。さらに、そうして人気を勝ち取っていくカーンジーが、本人の意志に反して神様扱いされていく皮肉は、大笑いすると共に宗教と言うものの誕生を見るかのよう。 日本なんかよりも、各コミュニティ間の同質性重視が強いインド社会において、こうも活発な宗教論争(*9)が行なわれているってのは、知っておいて損のない事柄であるし、損どころか「じゃあ日本はどうなんだろう」と言う疑問によって日常の別の側面も見えてくるよう。 監督&脚本を務めたウメーシュ・シュクラーは、1994年の「Yaar Gaddar」(*10)で役者デビューした人で、ヒンディー語映画やTV映画やドラマ、グジャラート語戯曲などで役者、脚本家として活躍していた人とか。 07年に、アメリカのショートビデオ「In Winter Still」「Almond Blossoms」で監督デビューし、09年のヒンディー語映画「Dhoondte Reh Jaaoge(探し続けて)」でインドの長編映画監督デビュー。本作が2本目の監督作となる。 主役カーンジー役を務めたパレーシュ・ラーワルは、1950年ムンバイ(*11)生まれの役者兼プロデューサーで、今やBJP(インド人民党)の下院議員でもある。養父はグジャラート語演劇の俳優バチュー・サンパット。妻は1979年度ミス・ユニバース・インディアのモデル兼女優スワロープ・サンパット。 映画界へは、ノンクレジット出演を経て84年の「Holi」でクレジットデビュー。主に悪役俳優として80〜90年代に100本以上の映画に出演し、90年代以降からコメディ俳優としても活躍。93年の「Sir」でフィルムフェア悪役賞、ナショナル・フィルム・アワードの助演男優賞を受賞したのを初め、数々の映画賞を獲得している。08年にはTVドラマ「Jeevan Saathi: Humsafar Zindagi Ke」でプロデューサーデビューし、主演も務める本作が2本目のプロデュース作になる。 14年には、国からパドマ・シュリー(*12)を授与されていて、同年のインド総選挙ではアーメダバード東部地区にてBJP下院議員に当選している。そう思って本作を見てると、彼の弁論力のプレゼン映画のようにも見えて来ますな。 宗教と言う、ややもすると固く攻撃対象になりそうなテーマを扱いながら、根本的にはコメディ映画なので、アクの強すぎる登場人物たちの丁々発止、数々の台詞の応酬を楽しみながら、わりと豪快なゲスト出演者たちや、登場シーンはそんなでもないのに美味しい所を全部持ってくクリシュナ役のアクシャイ・クマールのとぼけた演技などなどがなんとも小気味良い。このサービス精神の旺盛さが可笑しくさわやかな後味で、終始笑いながら楽しんでしまえる娯楽作になってる所なんかは「さすが!」である。 プロモ映像 Don't Worry (Hey Ram) *前奏や間奏に使われているフレーズの1部は、同じくクリシュナ讃歌の歌であるこの歌からの借用…?
受賞歴
「OMG」を一言で斬る! ・ジャンマシュタミ祭の壷割り人間ピラミッド、劇中の様子見ると男女混合でピラミッド作ってるのネ!!(最近は、危険だからと禁止令が出てるみたいだけど)
2016.9.30. |
*1 西インド グジャラート州とダマン・ティーウ連邦直轄領、ダードラー及びナガル・ハーヴェリー連邦直轄領の公用語。 *2 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。 *3 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。 *4 南インド カルナータカ州の公用語。 *5 後から追加されたクレジットかしらん? *6 演じるのは、本作でプロデューサーも兼任しているアクシャイ・クマール! *7 ヒンドゥー、イスラム、キリスト教。 *8 すなわち、インド社会における各コミュニティごとの社会常識? *9 社会常識に対する問題定義や議論? *10 本作にも出演しているミトゥン・チャクラボルティ主演作!! *11 またはグジャラート州アーメダバードとも。 *12 一般国民に贈られる4番目に権威ある国家栄典。 |