Payanam / Gaganam 2011年 131分 AM09:40。チェンナイ空港からデリー行きの飛行機SJ957便が飛び立つ。 搭乗者には、パキスタン人親子、熟年夫婦、家出中の妻、就活生、神父、映画スターとその熱狂的ファン、州首相など、今日も様々な人々が集まっている。 飛行機の離陸から数分。機内前方トイレの前に集まっていた5人の男たちは、客室乗務員が操縦席のドアを開けた瞬間にトイレ内に隠していた拳銃を振りかざす!!「ハイジャックだ! 全員そのまま動くな!!」…突然の混乱の中、犯人の銃はエンジンシステムを撃ち抜いてしまい…!! AM10:20。飛行機はアーンドラ・プラデーシュ州ティルパティ空港へ緊急着陸。犯人グループは、管制室にハイジャックの事実を伝えると共に、「客室に爆弾を仕掛けた」と宣言。搭乗者全員を人質に篭城戦に入る。 空港には、事件解決のため内務大臣K・ヴィシュワナートを始め、国防関連の要人が招集。犯人グループの交渉役は、彼らに対し「人質解放のための100カロール(=10億ルピー)の身代金」と「カシミールで収監されているユスフ・カーンの釈放」さらに「逃亡用の輸送機」を要求。この事から、政府側はユスフ・カーン拘束時のチームリーダーだった軍人ラーヴェンドラ少佐を呼び出すが、対策会議は右往左往。メディアと国民は政府批判と情報リークを加熱させて、事態はより悪化していく…。 テーマソング Payanam タイトルは、タミル語(*1)タイトルの「Payanam」では「旅」。同時公開のテルグ語(*2)版タイトル「Gaganam」は「空」の意。 ハイジャックによる騒ぎを一部始終描いていくタミル語(またはテルグ語)+英語+ウルドゥー語(*3)の群衆劇。タミル版とテルグ版では、一部シーンや登場人物の名前が変更されている(*4)。2つのバージョンで、詳細に描かれたり端折られたりしてる部分が違う、その差異を探っていくのも一興(*5)。 さらに、ヒンディー語(*6)吹替版「Mere Hindustan Ki Kasam」も公開。 本作の製作中、その内容が、1999年に起こったインド航空814便ハイジャック事件に基づいていると報じられたものの、プロデューサーを担当していたプラカーシュ・ラージはこれを否定している(*7)。 とある1日の始まり。同じ飛行機の乗客となる様々な人々を紹介していく冒頭から、離陸後に突如その日常が崩壊し、ハイジャックテロによる恐怖と混乱、政府側や乗客側の犯人たちとのかけひき、非常事態で明るみになっていくそれぞれの人間性や人生模様が描かれていくサスペンス。刻々と過ぎていく時間表示や終盤の時限爆弾のカウントダウン表示など、ドキュメンタリー的な冷徹な距離感で撮影されているお話が、喜怒哀楽を色々に映しながら1回もダレる事なく様々な思いを飲み込んで進展していく。 製作予算の20%(*8)をつぎ込んだと言う、大規模な飛行場や飛行機セットを組み上げた美術班も圧巻ながら、そこでそれぞれに生き生きと描かれる各登場人物たちのエネルギッシュさもスゴい。インド人ってやっぱり人に揉まれ慣れてるなあ…といつも思ってしまうのは、ああ言う多人数の密室空間や距離が近いコミュニケーションでも、堂々と目を見て激論を交わし合う様を色んな所で見せつけられる事だよね…。実際に、あんなハイジャックが起こったら、果たして同じような剣幕でみんなが犯人に詰め寄るのかは知らんけど。 監督&脚本を担当したラーダーモーハン(またはラーダー・モーハン)は、1965年チェンナイ(?)生まれ。 友人の手伝いで、1996年の「Smile Please」で台詞担当として映画界入り。これに主演するはずだったプラカーシュ・ラージと以降親交を深め、彼のプロデュースによって04年に初監督&脚本作となるタミル語映画「Azhagiya Theeye」を公開。08年には、やはりプラカーシュ・ラージ プロデュース&主演の「Abhiyum Naanum(アビーと私)」でタミル・ナードゥ州映画監督賞と作品銀賞を受賞。このテルグ語リメイク作「Aakasamantha」でテルグ語映画監督デビューもしている。本作は、この次の映画で、5作目の監督作となる。 ハイジャックの長期化によって、それぞれの登場人物たちの心情、人生観の変化、それぞれの信じる正義や常識が揺さぶられていく様は、今日の不穏な世界情勢下では色々に読み取れてしまうのが良いやら悪いやら。搭乗者たちそれぞれに、事件の解決や平安をもとめて祈る姿が、宗教ごとに姿勢は違うものの、総体としては同じ姿に見えてる所も注目ポイント。 正義と正義のぶつかり合いをどこまで許すのか、搭乗者たちの総意と国民の総意・政府の総意の食い違いをどう乗り越えていくのか、報道の自由がもたらす弊害と情報共有具合、恫喝に対抗する搭乗者たちの試行錯誤…。様々なものを飲み込んで動いていく事件の推移は、見る人それぞれに色々な読み取り方が用意されているかのよう。特に小さなムスリマ(イスラム教徒の女性)と周りのやりとりが、宗教や国家の関係性の、多面的な表現になっている点も注目所。 主な登場人物は以下の通り。()内は演じた役者名。 ・対策本部関係者 N・ラーヴェンドラ少佐(ナーガルジュナ・アッキネンニー) 国防軍人。事件解決のために招集された作戦指揮官。過去に、犠牲を伴いながらカシミールにてユスフ・カーン拘束作戦を成功させている。 ナワーズ・カーン大佐(バーラート・レッディ) 国防軍人。ラーヴェンドラの助手。 K・ヴィシュワナート(プラカーシュ・ラージ) 内務大臣。犯人との交渉担当。 クリシュナムルティ 国家安全保障局アドバイザー。テロリストの要求拒絶派。 S・K・シャルマー(シャンカル・メルコート) 国内治安機関特別書記官。テロリストの要求拒絶派。 M・G・メノン カシミール統合事務官。テロリストの要求拒絶派。 ユスフ・カーン(スリチャラン) 世界最悪と言われたテロリストグループのリーダー。カシミール潜伏中にラーヴェンドラ指揮の掃討作戦にて拘束・収監されている。 ・搭乗者たち サンディヤ(サナ・カーン) 親戚の結婚式に参加するため、父親の同行を待てず先にデリー行きの飛行機に乗る。隣の座席の口うるさい男が気に入らない。 ヴィノード(リシ) サンディヤの隣の座席に座る皮肉屋。常に冷静。 ジャガデーシュ大佐(タライヴァサル・ヴィジャイ) 軍人。犯人と政府側の動きを、外部と遮断された機内からある程度分析予測する。 ディヴィヤー・プラサード(ジャヤスリー) 冷えきった夫婦関係に絶望し、無断で家出してきた女性。 ヴェンカト・ラマン/テルグ版ではヴェンカト・ラーム(モーハン・ラーム) 夫婦で子供の様子を見るためデリー行きの飛行機に乗る。 ラマン夫人/テルグ版ではジャーナキー・ラーム(スリラクシュミー) ヴェンカトの妻でいいコンビ。 "シャイニング・スター"チャンドラカーント(バブロー・プリスヴィラージ) 有名な映画スター。過去にユスフ・カーンをぶっ倒すヒーローを演じている。 バラージ/テルグ版ではスッバ・ラーオ(チャームス) チャンドラカーントの大ファン。彼が犯人をボコるシーンを見たいと熱望。 スバーシュ(エランゴ・クマラヴェル) 兄の勧めでデリーの会社面接に向かう就活生。社会革命に燃え、父親への態度が横柄。犯人たちに対しても強気。 Dr.ナラヤーナー・シャストリー(マノバーラー) TVの星占い師兼宝石鑑定博士。スバーシュの隣の座席に座り、話し相手になる。自慢話が多い。 ゴーピナート(バダヴァ・ゴピ) ものまね芸人。人を笑わせるのが好き。 アフシャーナー 両親と共に実家に帰るパキスタン人の女の子。チェンナイで3ヶ月間心臓手術とそのリハビリ治療をしていた。タミル語(またはテルグ語)はしゃべれず、ウルドゥー語と英語をしゃべる。 アルフォンソ神父(M・S・バースカル) 敬虔なキリスト教神父であり、犯人たちに対しも深い理解を示し「全ての宗教は同じ」と説く。精神集中のためにいつもルービックキューブをやっている。 プラヴェーン(ナラヤン・ラッキー) 麻薬常習者。 V・K・ラーマムルティ/テルグ版ではスーリヤ・シェーカル 州首相。近くアメリカ外交団との会合を予定している。 ・航空スタッフ ギリッシュ機長(ラヴィ・プラカーシュ) ヴィマラ・グプタ(ポーナム・カウル) 客室乗務員。 G・スリニヴァサン チェンナイ空港代表 ラクシュミー ティルパティ空港の清掃スタッフ ハイジャック機のトイレ清掃担当として機内に入る事を許可される。 ・報道陣 スリーニーヴァス INCリポーター。上司の命令で、ハイジャック事件の特報を狙おうとあの手この手で現場に迫る。 VFXメイキング
「Payanam / Gaganam」を一言で斬る! ・テロリストに壊されたエンジンシステムって具体的になんぞ? 詳しい方の解説プリーズ。
2016.5.2. |
*1 南インド タミル・ナードゥー州の公用語。 *2 南インド アーンドラ・プラデーシュ州の公用語。 *3 パキスタンの国語で、インドではジャンムー・カシミール州の公用語。 *4 私が最初に見たのはテルグ版の方。特にOPとEDの描き方が両者で違う。 *5 まあ、インドの別言語吹替版バージョンって、大なり小なりそんな変更は普通みたいだけど。 *6 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。 *7 ちなみに、このハイジャック事件を元に、2010年公開のマラヤーラム語映画「Kandahar(カンダハール)」が作られていたりする。 *8 記事によれば3カロール=300万ルピー。 |