うそつきは警察の始まり (Phata Poster Nikhla Hero) 2013年 146分
主演 シャーヒド・カプール & イリヤーナー・デクルーズ
監督/脚本/原案/台詞 ラージクマール・サントーシ
"さあ、ヒーローの登場だ。目を見開いて何が起こるか見るがいい!!"
マハラーシュトラ州の片田舎にて、女手一つで息子を育てるサヴィトリー・ラーオの夢は息子を品行方正な警察官にすること。しかし、当の息子ヴィシュワースはそんな母の願いも知らずに映画スターに憧れていた…。
警官になりたくないヴィシュワースは、警察官採用試験をことごとく蹴って抵抗していたものの「今度ムンバイでも試験がある」と母親に聞かされるや喜び勇んで映画の都ムンバイへと出発。そこで試験を無視して俳優志望の連中と一緒に脚本家への売り込みを始めるが、オーディション用の写真を用意するために警察衣装で出歩いていた所、毎日騒ぎを交番に持ち込む通報屋のカージャルに発見され、本物の警察官と間違われて誘拐犯逮捕に協力することに!
しかも、その事件解決の報道が彼の写真付きで出回ってしまって、田舎の母親はこれを見つけて大喜び。「あなたの勇姿を見にムンバイに行くわ!」と言ってきたからさあ大変…!!
挿入歌 Dhating Naach (踊って踊って踊り続けろ!)
*ゲスト出演で踊ってるのは、パキスタン=チェコハーフの米国人モデル兼女優のナルギス・ファクリー!
歌のタイトル「Dhating」は口語で「踊る」「楽しむ」みたいな勢いのある掛け声…なのかな? 「Naach」はダンスの意味だそうだけど。
原題はヒンディー語(*1)で「ポスターぶち破って、ヒーロー登場!」だそう。
90年代から活躍するラージクマール・サントーシ14作目となる監督作。
日本では、2014年にIFFJ(インディアン・フィルム・フェスティバル・ジャパン)にて上映。
なんかもう、冒頭部分からレトロな匂い全開のコメディ映画で、前半はそれぞれの場面ごとに不条理な掛け合い漫才が続くシチュエーションコメディの応酬で、嘘の拡大によってどんどん混乱した状況を作り上げて行くさまは色々と既視感のある映画の作り。字幕を追わなくてもなんとなく状況がわかる親切設計が、どこまでもお気楽な展開をしてくれるので、気楽にアハハと笑ってればいい映画ではある(*2)。
とにかく、それぞれの役者が楽しそうに掛け合い芝居をやってるのが印象的で、それをきっちり無駄なく伝える画面に撮ってるプロ根性が楽しい。ま、それが映画全体の面白さに繋がってるかというと…ノスタルジー映画だねえ…って感じ。
劇中、警察になるよりヒーロー(=スター俳優)になりたい主人公が、周りの状況で「警察を演じ」ざるを得なくなり、警察の真似をしてるドタバタ騒ぎの中で嘘を続けざるを得ない「悪役」になり、隠された過去を乗り越えて、マフィアたちを取り締まる「ヒーロー」にいつの間にかなっていく。
こうした意識的な脚本的構造が最後まできっちり機能する、律儀で堅実なシナリオって意味ではインド映画の教科書的な内容。スポンサーやそれぞれの役者たち、不特定多数の観客の要望をきっちりまとめようとするとこうなります、みたいな映画ではある。
監督を務めたのは、映画監督兼プロデューサー兼脚本家のラージクマール・サントーシ。
タミル・ナードゥ州チェンナイにて、映画監督兼プロデューサーのP・L・サントーシの息子として生まれ、82年のヒンディー語映画「Ardh Satya(真実の半分)」にて助監督を務めて映画界入り。90年の「Ghayal」で監督&脚本デビューとなり、フィルムフェア監督賞と原案賞を獲得。続く93年の監督作「Damini − Lightning(ダミニ - 雷光)」でもフィルムフェア監督賞を受賞し、この映画でプロデューサーデビュー。その後も監督&脚本家として活躍する中、96年の「Halo」で役者デビューもしている。00年代に入ってからグッと監督作が減っているものの、そのキャリアの中でSF以外のほとんどのジャンルの映画を生み出している、多芸監督としても名を馳せている。
主人公の母親サヴィトリー・ラーオを演じたのは、1965年マハラーシュトラ州ボンベイ(現ムンバイ)に生まれたパドミニー・コールハープレー。
父親は音楽家のパンダーリナート・コールハープレー。母親はマンガロール系コンカーニー・ブラーミン家系出身のニルパナ・コールハープレー。姉は女優シヴァンギ・カプール(*3)、妹にやはり女優のテージャスウィニー・コールハープレーが、親戚には伝説的歌手ラータ・マンゲシュカールとアーシャ・ボースレーがいる。
子供の頃に姉と一緒に楽団に参加し、映画挿入歌などのコーラスを担当。72年の「Ek Khiladi Bawan Pattey」にノンクレジット出演したのち、アーシャ・ボースレーの推薦で75年の「Ishq Ishq Ishq」で本格的に子役デビュー。いくつかの映画に子役出演した後、一旦エア・インディアに就職するも、母親の勧めを受けて女優業に転身。80年の「Thodisi Bewafaii」「Gehrayee」「Insaaf Ka Tarazu」の3本で女優デビューとなり、「Insaaf Ka Tarazu」でフィルムフェア助演女優賞を獲得する。85年には、映画音楽家バッピー・ラヒーリーと組んでポップアルバム"Music Lover Dance Dance"をリリースしている。
86年公開作「Aisa Pyaar Kahan(このように、愛はどこにでも)」の撮影中に、プロデューサーのトゥトゥ・シャルマー(*4)にプロポーズされ、89年に結婚。翌年から映画界を離れるが(*5)、03年のマラーティー語(*6)映画「Chimani Pakhar」で女優復帰してスクリーン映画賞のマラーティー語映画主演女優賞を獲得。その後はヒンディー語映画界で活躍している。
90年代に大活躍していた監督の作ということで、色んな要素がレトロ風味に彩られつつ、親子劇・社会風刺・マサーラーアクション・数々の映画パロディ・ダンスミュージカルとロマンスPVが程よく混ぜ込まれた佳作。主役と悪役・脇役たちのカッコ可愛い演技を見てる分には、どこまでも楽しい映画でありますわ。
とりあえず、最初のシャーヒド演じるヴィシュワース初登場シーンで襲われていた女の子も可愛かったので、詳細が知りたいでする。うん(*7)。
ED Hey Mr. DJ
「PPNH」を一言で斬る!
・ビシュワースの売り込みが成功した時のシーンで、その介添え役だった脚本家ジョギが『ヤッター』って言ってるように聞こえるのですよ。
2018.8.17.
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*1 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
*2 後半にガラッと劇的な展開になって行くけど。
*3 悪役俳優として有名なシャクティ・カプールの妻で、女優シャラッダー・カプールの母親。
*4 別名プラディープ・シャルマー。
*5 一時的に93年公開作「Professor Ki Padosan」に出演、99年の「Rockford」でプロデューサーを担当して映画界に戻ってはいるけど。
*6 西インド マハラーシュトラ州の公用語。
*7 一瞬だけの出演だったけど。
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