プレーム兄貴、王になる (Prem Ratan Dhan Payo) 2015年 164分 亡き王の後を継ぐプリタンプル王国の王太子ユヴラージ・ヴィジャイ・シンと、隣国の王女マイティリーとの結婚の日が迫る。 仲が良いながらどこか信用できない弟アジャイ・シンと、仲違いのまま口も聞いてもらえない異母妹チャンドリカーとラディカー姉妹を共に戴冠式と結婚式に呼べないことを悩むユヴラージだったが、突如何者かの陰謀から馬車ごと谷底へと突き落とされることに…!! その頃、アヨーディヤーの下町で貧乏劇団をやっている舞台俳優プレーム・ディルワーレーは、かつて被災地支援の時に見かけたマイティリー王女が近くにやって来るらしいと聞いて、同僚の俳優カンハイヤーと共にすぐさま劇団への寄付を募る名目で、彼女見たさにプリタンプルへと出発する。 そんなプレームを街中で見かけた王宮付護衛長官サンジャイは、彼の姿に驚きすぐに侍従長ディーワン・サーヒブに連絡。プレームを宮殿敷地内の秘密の地下室に招待する。浮かれてやって来たプレームだが、そこで見たのは自分そっくりの昏睡状態の男の姿! 「この方は、我が王国の王となられるユヴラージ殿下だ。先日何者かの陰謀で大怪我を負ってしまわれ意識不明のままである。王太子殿下がご回復されるまでの間、お前に殿下の身代わりをやってもらおう!!」 挿入歌 Prem Ratan Dhan Payo (愛[プレーム]と言う宝石を見つけよ) *多少ネタばれありにつき注意。 原題は、ヒンディー語(*1)で「愛、宝石、見出した」(*2)。もちろん、この"プレーム(愛)"は主人公の名前"プレーム"ともかけてある…のかいな? 99年の「Hum Saath Saath Hain(僕らは共に立ち上がる)」以来久々にバルジャーティヤ監督と主演サルマン・カーンが手を組んだ大ヒット映画。サルマンの役名プレームは、これら過去のバルジャーティヤ監督作共通の役名であり、その他の映画でもよくサルマンが名乗ることの多い縁起担ぎな役名でもある。 劇中の物語は、1952年のハリウッド映画「The Prisoner of Zenda(ゼンダ城の虜)」とその原作を元にしていると言う指摘もある。 同年に、テルグ語(*3)吹替版「Meymarandhen Paaraayo」、タミル語(*4)吹替版「Prema Leela」も公開。 日本では、2016年にIFFJ(インディアン・フィルム・フェスティバル・ジャパン)にて「プレーム兄貴、お城へ行く」のタイトルで上映。2020年に「プレーム兄貴、王になる」に改題されて一般公開! 23年には神戸インド映画祭、マーダム・オル・マサラで上映されている。 豪華絢爛、わかりやすい勧善懲悪、家族再生劇に一人二役のドタバタ劇と、なにからなにまでレトロな空気を漂わせる"古き良き娯楽映画"を体現したかのような一級娯楽作。 だれだ「歌い踊る豪華絢爛のザ・インド映画はOSOまで。もう出てこないだろう」とか言ったのは! …と言いたくなるほどに、ド直球娯楽要素を満載にぶち込み、歌と踊りは言うに及ばず(*5)、その衣裳、大規模セットやロケハン、大道具小道具、大規模な群舞、大げさな感情表現や物語展開…「昔のインド映画らしさ」を前面に押し出しつつ、決して懐古趣味に落ち入ることもない、今作ることの出来る「かつてのインド娯楽映画が目指していた映画」を作り上げていく。まさに、映画が夢の体現であることを謳い上げる一本であるし、インド映画界の重層さを見せつける一本。シリアスで重い映画が増殖する現代ボリウッドにあって、こんなお祭り映画が観客に受け入れられて大ヒットするなんざあ、インド人ってーヤツは粋なヤツだゼ! 物語は、仮面家族と化したプリタンプル王家の惨状に対して、世話焼き庶民として乗り込んでいくプレームが「おとなしく王様を演じろ」と言われているにも関わらず、その下町気質で次々と王室や王宮の面々の心を溶かし変えていくさまを中心に描いていき、その中で王女様とのロマンス、侍従長との疑似父子関係、渦巻く権力抗争、異母姉妹との確執と和解なども並行して描かれる。頑な王様が残して来た数々の禍根を、庶民主人公が1つ1つ解決して行くそのさまは、まさに爽快。 冒頭のラーマーヤナ劇で縦横無尽に活躍している主人公プレームは、まさに劇中でも王宮の協力者であり真の友人として人々に接しながら、時にクリシュナのように、時にラーマのように、あるいはハヌマンのように自由奔放な活躍を見せていく。どこか神話的、寓意的なおとぎ話のような物語は、現代インドを舞台にしながらもファンタジーな色合いが強い至福感あふれるひと時を体感させてくれる。ああ、映画って良いものだなあ…と感心してしまいますわ。 監督のスーラジ・R・バルジャーティヤは、1964年ボンベイ(現ムンバイ)のマルワーリー家系(*6)生まれ。 60年代から活躍する映画プロデューサーの祖父タラチャンド・バルジャーティヤの援助を受けて、24才の時にサルマン主演作「Maine Pyar Kiya(恋に落ちて)」で監督&脚本デビュー(*7)し、フィルムフェア作品賞を始めさまざまな映画賞を獲得。本作は7本目の監督作となる。歴代監督作は、共通してインドの伝統的結婚式と伝統音楽を主題としていると言われる。 監督業の他、レストラン"Bandra"や、祖父の代から続く映画プロダクション"ラジェシュリー・プロダクションズ"の経営も担当している(*8)。 プリタンプル宮殿ロケには、一部は美術セットを組んで、一部は実在のお城そのものに巨大セットを足して撮影されたそうで、こうした絢爛豪華な画面作りに即した舞台が、それなりに探せば出てくるインドの歴史的環境もなんともスバラしか!! 挿入歌 Prem Leela (愛の物語)
受賞歴
「PRDP」を一言で斬る! ・映画に出てくる"鏡の間"(これも全部撮影用セット!!)は、必ずなんかのっぴきならない事が起こる舞台ですなあ…(そして、いかにも命の危険な事故が起こりますよ、って所に建てる無駄なオレはやるぜ建築のバカバカしさよ…)。
2016.12.29. |
*1 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。その娯楽映画界は、俗に"ボリウッド(製作拠点ボンベイ[現ムンバイ]+ハリウッドの造語)"と呼ばれる。 *2 大した意味はないらしい。 *3 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。その娯楽映画界は、俗にトリウッド"と呼ばれる。 *4 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。その娯楽映画界は、俗に"コリウッド"と呼ばれる。 *5 サントラだけで10曲を収録! その全てを劇中で使用されている!! *6 北西インド ラジャスターン地方にあったマールワール王国を起源とするコミュニティ。 *7 公開は89年。祖父のプロデュース作品でもある。 *8 本作の製作プロダクションでもある。 |