PS-1 黄金の河 (Ponniyin Selvan) 2022年 167分
主演 ヴィクラム & アイシュワリヤー・ラーイ・バッチャン & ジャヤム・ラヴィ &カールティ & トリシャー他
監督/製作/脚本 マニ・ラトナム
"この大河に溺れよ!"
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今から千年以上前の黄金時代の夜明け前。チョーラ朝の空に彗星が現れた。それは、なんの予兆であったのだろうか…。
時に10世紀後半。
病に瀕したチョーラ朝の王スンダラ・チョーラル(*1)には、勇敢なる皇太子アーディタ・カリカラン(*2)とアルンモリ・ヴァルマン(*3)がいて、別々に王朝と対立する外部勢力征討で北と南へと出兵し続けていた。
北方の敵ラーシュトラクータ朝を征討したアーディタは、密偵の知らせから王都タンジャイ(*4)の不穏な動きを察知し、側近の将軍にして友人のデーヴァン(*5)にその調査と、父王およびパラヤライに住む妹クンダヴァイへの密使を依頼する。
王都へ向かうデーヴァンはその途上、インチキ僧侶ナンビと知り合って王朝の大臣たちが集まるカダンブル城の宴に紛れ込むと、そこで大臣たちが「現在の王スンダラ陛下は、若くして崩御されたガンダラディティヤ王(第4代王)から緊急処置として王位を継いだはずの弟君アリンジャヤ王(第5代王)の子供に過ぎない 。正当なる王位継承者は、ガンダラディティヤ王の正式な子息マドゥランタカ様にある」と謀議しているのを確認する。
その城には、マドゥランタカ皇太子と共に王朝の財務大臣にしてパシュヴール領主でもあるペリヤ・パズヴェッタラーヤル候、その妻ナンディニもいた。デーヴァンは、翌朝ナンディニの行列に割って入り、皇太子カリカランの名前を利用して彼女との密談の約束を取り付ける。タンジャイにて、デーヴァンを秘密裏にパシュヴール邸へ迎えるナンディニは、大臣たちの謀議の詳細を伝えつつ「貴方は、貴方の国を復興したいと思わない? そのための力を貸しましょう」とデーヴァンに協力を持ちかけるが、彼女は過去にアーディタ・カリカランと因縁浅からぬ仲であったのだ…。
挿入歌 Ponni Nadhi (ポンニ河を見なければ)
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原題は、タミル語(*6)で「ポンニの息子:1」。略称「PS-1」。
「ポンニ」とは、舞台となるチョーラ朝の中心地を流れる河の名前(*7)。劇中の台詞としては、王朝の後継者であり、後のチョーラ朝最盛期の王ラージャラージャ1世となる、アルンモリ・ヴァルマンを指す尊称として登場する(*8)。同時にその背景をなすチョーラ朝そのもの、チョーラ朝の歴代王統、チョーラ朝が生み出した文物全般を指す意味にもとれる…か?(しなくてもいい深読み)。
1955年に出版されたカルキ・クリシュナムルティ著の小説「Ponniyin Selvan」の映画化作前後編の前編で、西暦9世紀〜13世紀にかけて南インドに栄えたチョーラ朝の王位継承の混乱期(*9)を描く歴史大作。
日本では、2022年にSPACEBOXによる自主上映で英語字幕版が上陸し、2023年のIMW(インディアン・ムービー・ウィーク)パート2で「PS-1 黄金の河」の邦題で上映。2024年に一般公開。同年の鹿児島のガーデンズシネマ「秋のインド映画特集」でも上映。
タミル語映画のみならず、インド映画全体を牽引する映画人の1人マニ・ラトナムの放つ渾身の歴史大作前後篇の第1作。
過去何人もの映画人が映画化を試みながら、その都度果たせずにいたタミル地方を代表する歴史的偉人とその周囲の群雄割拠を描く歴史絵巻を、タミル映画スターたちを結集させて紡ぎ出すその重厚な迫力は、タミル的美学に則った時代劇の荘厳さを見せつけてくるよう。
複数の勢力がしのぎを削る戦国時代を舞台にして、実在の歴史上の人物たちで彩られる登場人物たちの群雄割拠具合は、一度見だけでは処理できないほどの情報量ながら、騎士デーヴァンを狂言回し的な主人公として動かすことによって、国内に蠢く陰謀に関わる重要人物たちの生き様を1人また1人とあらわにしていく。
この主人公デーヴァンが、わりと陽気でノリが軽く、素直であまり裏表のない好人物として描かれることで、現代劇のマサーラーヒーローを見ているかのような分かりやすさを歴史絵巻の中に刻んでくれるのは、映画の導入としての配慮か、原作からしてそんな人物像になっているからか。原作も読んでみたいなあ…誰か訳して出版してくれないかなあ…(他力本願)。
このデーヴァンなる人物もしっかり実在の人物だけども、その出自に関しては諸説紛々だそうで、ヴァナール王族の裔という設定故に「王族の再興」という夢をナンディニに付け込まれる劇的な展開は、その諸説の中から採用されている1説だそうな。
全体の前編にあたる本作では、王宮内の陰謀劇は大きな伏線を各所に散りばめているとはいえ具体的な政変とかにはまだなっていない段階の王朝の内憂具合を描くにとどまり、その陰謀の最初の成果となる外敵パーンディヤ朝(*10)やランカ島(*11)との戦いが物語の中心。
そんな中で、王朝転覆を策謀する敵勢力と王朝を守ろうとする味方側勢力双方が入り乱れていく中を、誰が敵で誰が味方なのかの腹の探り合いをしていかねばならないデーヴァンの不安さ、不穏さ、そのお祭り的喧騒によってお話はいやが上にも盛り上げる。
なんといってもこの映画の1番の武器は、絢爛豪華なチョーラ朝の宮殿文化であり、雄大な南インドの風物のそれで、特にクンダヴァイやナンディニの衣裳やアクセサリー、その生活雑貨の類の豪華さ、贅沢さの極み。照明効果も相まって、その登場シーンの美しさ、麗しさ、厳かさは「時代劇かくあるべし」と言いたくなるほどの圧倒される映像美を構成している(*12)。
「バーフバリ」や「パドマーワト(Padmaavat)」と言った他言語圏歴史劇と共通する部分もありながら、異なる部分もある本作の重厚な歴史絵巻の絵作り、物語作りも比較して言ってしまいそうにもなるけれど、タミル地方と言うインド亜大陸南東部に暮らす、川辺の人々の暮らし、海の暮らし、チョーラ朝美術に彩られる宮廷人の暮らし、戦の中の暮らし、海の向こうのランカ島の暮らし、そこを拠点とする仏教僧たちの暮らし……と、様々な生活文化を並列して見せていく群集劇的絵作りの多彩さも、映画の重厚さに拍車をかけてくれる。そんな多彩な生活文化の中で浮かび上がる、それぞれの個人個人の生きる原動力となる種々雑多な愛憎のあり方が混じり合っていく時代の波の、個人〜集団までを捉える視線の広さもまた、この映画の魅力の一端となる麗しさでございましょか。
挿入歌 Devaralan Attam
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受賞歴
2023 Ananda Vikatan Cinema Awards 悪役女優賞(アイシュワリヤー・ラーイ・バッチャン)・音楽監督賞(A・R・ラフマーン)・撮影賞(ラヴィ・ヴァルマン)・美術監督賞(トータ・ターラニ)・メイクアップ賞(ヴィクラム・ガイクワド)・衣裳デザイン賞(エカ・ラカーニ)・視覚効果賞(NY VFXワーラ)・プロダクション賞(ライカ・プロダクション & マドラス・トーキーズ)
2023 Kerala Film Critics Awards 非マラヤーラム語映画作品賞
2023 ノルウェー Norway Tamil Film Festival Awards 作品賞・監督賞(マニ・ラトナム)・主演男優賞(カールティ)・音楽監督賞(A・R・ラフマーン)・作詞賞(イランゴ・クリシュナン / Ponni Nadhi)・K・S・バラチャンドラン賞(ジャヤラーム)
2023 SIIMA (South Indian International Movie Awards) 主演女優賞(トリシャー)・作詞賞(イランゴ・クリシュナン / Ponni Nadhi)・撮影賞(ラヴィ・ヴァルマン)・美術監督賞(トータ・ターラニ)
「PS-1」を一言で斬る!
・【パドマーワト】に続き、ここでもスリランカの仏教集団は洞穴に寺院を作ってる穴居生活してるけど、そうなの?(原始仏教集団は、そんな生活してたそうですが)
2024.9.4.
2024.9.20.追記
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