ピンク (Pink) 2016年 136分
主演 タープスィー・パンヌー & キールティ・クルハーリ & アンドレア・タリアン & アミターブ・バッチャン
監督/原案 アニッルッダー・ローイ・チョウドリー
“彼女は「No」と言った。「No」は「No」だ。それは…「やめろ」という意味でもある”
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その夜。デリーの病院に駆け込んできた男たちは、重症のヴィール(=ラジヴィール・シン)を医者に引き渡しつつ「警察への報告書を作りますか?」との病院側の提案を一旦断っていた。
同じ頃、デリー郊外のアパートに急ぐ3人の女性たち…同室でルームシェアしているミナル・アローラ、ファラク・アリー、アンドレア・タリアン…は、平静を装いつつもその夜のことを忘れようと必死になっていた…。
その後、日常に戻ったかに見えた3人の女性たちの周りで「友人の目の弁償をさせてもらう」と不穏な電話の宣告から男たちの執拗な攻撃が始まり、3人が暮らすアパートの大家には脅迫電話と妨害行為が、ファラクは職を追われ、これらを通報しようとしたミナルは突如男たちに拉致され暴行された上で「事件を公にするな」と脅迫される。3人は警察に相談するも警察は大手政治家とつながるラジヴィール・シンの肩を持って彼女たちを一蹴。逆にミナルを殺人未遂容疑で連行し弁護士たちもこの件から一斉に手を引いてしまう!
ミナルを助けようと奔走するファラクとアンドレアが、八方手詰まりの絶望感に包まれる中、彼女らに手を貸そうと突然現れる男が…。
プロモ映像 Kaari Kaari
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インド社会にはびこる女性蔑視が引き起こす社会問題を、真っ向から描くサスペンス法廷ものヒンディー語(*1)映画。
日本では、2017年にNetflixにて日本語字幕版が配信。同年のSpacebox主催のICW(インディアン・シネマ・ウィーク) Japanで上映され、2022年にはJAIHOからも配信。2023年にCSムービープラスにて放送されている。
見る前は、高い評判を聞きつつも「また精神的にも画面的にも、おもーい映画なんだろうなあ」と覚悟が必要だと思ってたけども、どシリアスな話ではあるものの画面的にはそこまでキッツイ絵面はない(*2)。
問題の事件発生直後の混乱から始まる映画は、事件を隠蔽しつつ女性たちを社会的に抹殺しようとする男たちと、それに抵抗しなんとか状況の打開を図ろうとする一般人である女性たちの苦悩を平行に書いていきながら、その事件そのものが描かれないため、映画的にはハッキリと善悪が判明していつつも「嘘」の応酬による意外な展開もあって、最後までどう転がっていくかハラハラが続く傑作法廷ものサスペンスになっている(*3)。
女性たちが社会的に孤立し攻撃に晒され続ける前半、やっとの事で弁護士の助けを借りて始まる裁判劇が続く後半という構成の中、インド社会で続く女性差別・地域差別・宗教差別・職業差別・旧来的で高圧的な男権主義・政治的圧力に屈する社会倫理と言った歪みが、不条理な裁判のリアルさの中で存分にクローズアップされていく見事な脚本。
怪しさ大爆発なアミターブ演じるディーパク・セーガルの頼もしさが存分に発揮されるインターバル直前と、後半の裁判劇の中で見せる危うい飄々さのギャップが、より不安度を増していきながらも、そう言った社会の歪みを皆の前に叩きつける迫力のスゴさは、まさに必見。
そのアミターブに負けぬパワーを見せつける女性たち…中でも裁判の中心であるミナル演じるタープスィー・パンヌーの演技の迫力も凄まじい。”勇ましい女性”であるミナルのパワー、それが社会のすべてから攻撃され自身を見失っていく失意のどん底に追い込まれ、弁護人からの執拗な質問攻めにさらされ、いろいろな回り道をしながらも自分の言葉を取り戻していくミナルの姿の変転もまた、アミターブの演技に対して受けて立つ本編の顔となっておりました(*4)。
監督を務めたアニッルッダー・ローイ・チョウドリー(別名アニッルッダー・ローイチョウドリー、トニー・チョウドリーとも)は、2006年のベンガル語(*5)映画「Anuranan(共鳴)」で監督&脚本&プロデューサーデビューした人で、4本のベンガル語映画監督作を公開して本作でヒンディー語映画デビューとなる。
デビュー作で、国立映画賞の注目ベンガル語映画賞を獲得したのを始め、監督作は数々の映画賞に輝いている注目監督である。
話の中心である3人の女性のうち、裁判の渦中に巻き込まれるミナル・アローラ演じるは、最近活躍めざましいタープスィー・パンヌー。1987年ニューデリー生まれで、ソフトウェア・エンジニアを経てモデル業で注目され、10年のテルグ語映画「Jhummandi Naadam」で映画&主演デビュー。13年の「Chashme Baddoor(邪眼を遠くあれ)」でヒンディー語映画デビューとなり、主にテルグ語・ヒンディー語映画界で大活躍中。
ミナルとルームシェアする女性の1人ファラク・アリー役には、1985年ラジャスターン州ジューンジュヌ生まれでマハラーシュトラ州ムンバイ育ちの女優キールティ・クルハーリ。父親はインド海軍の軍人で、姉もインド軍付属医師をしているという。ムンバイの大学で経営学の学位を取得し、ジャーナリズムとマスコミニュケーションも修了。舞台演劇やCM出演を経て02年のオリヤー語&ヒンディー語映画「Dharini」で映画デビュー。10年のヒンディー語映画「Khichdi: The Movie」で本格的に映画女優活動を開始する。
ルームシェアする女性の最後の一人アンドレア・タリアンを演じるのは、本作が映画デビューとなるモデル兼シンガーソングライターのアンドレア・タリアン(*6)。メーガーラヤ州都シロン生まれで、父や兄弟はミュージシャンとして活躍してるとか(*7)。
「ピンク」というタイトルに反して、ピンク色が画面に(ほぼ)登場しない映画というのも、そのコンセプトと共鳴していくようで素晴らしか。
女性用とか女性専用なものに無条件でピンク色を配色するインド(を含めた世界?)において、女性の象徴色としてピンクを認めさせようとする社会の圧力そのもの、ピンクから喚起される様々なイメージが、こう言った性暴行事件の遠因を作っているのかもしれない、と言う声まで聞こえてきそうな皮肉たっぷりのタイトルに見えてしまうのは、深読みのしすぎですかねえ…。
まあ、最初タイトル見たときは「お、【Black】に続いてのアミターブのカラータイトルシリーズか!」とか、しょーもないこと考えてたのは秘密。
これが、映画見終わった時には劇中人物と同じく、主要4人の登場人物に握手して敬意を表したくなる爽快さと重厚さ。そのメッセージの重みが、全く嫌味に見えずむしろ高評価ポイントになる映画の見せ方・構成の仕方の妙には、ただただため息しか出ないほど。間違いなく超必見!!
プロモ映像 Pink
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受賞歴
2016 Star Screen Awards 作品賞・主演男優賞(アミターブ)・台詞賞(リテーシュ・シャー)・編集賞(アディティヤ・バナルジー)
2016 Stardust Awards 男優賞(アミターブ)
2017 National Film Awards 社会派作品賞
2017 Filmfare Awards 台詞賞(リテーシュ・シャー)
2017 Zee Cine Awards 批評家選出作品賞・批評家選出主演男優賞(アミターブ)・台詞賞(リテーシュ・シャー)
Golden Rose Awards ライジング・スター賞(タープスィー)
「ピンク」を一言で斬る!
・告訴側の弁護士の語りの、まあ嫌味&高圧的迫力の絶妙なヤなヤツ演技の凄まじさよ…。
2017.11.5.
2023.3.25.追記
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