ピザ 死霊館へのデリバリー (Pizza) 2012年 128分
主演 ヴィジャイ・セートゥパティ & レムヤー・ナンビーサン
監督/脚本/原案 カールティク・スッバラージ
"その瞬間があるの…怪奇現象を信じる瞬間が"
"そんな出来事が、あなたにも起こる"
"その瞬間は…すぐそこよ"
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孤児院出身のピザ店員マイケル・カールティケーヤンは、ホラー小説デビューを狙う大学生の彼女アヌと同居中。
大学寮での体験から、幽霊ネタに並々ならぬ関心を寄せるアヌに「幽霊はいるよ」と脅され続けるマイケルだが、彼自身は超常現象の類を怖がりつつも本気で信じてはいない。
「大学寮の頃、同級生が自殺してね…。それ以来時々見るようになったの。貴方にもあるわ…そう言う瞬間が」
ほどなく妊娠したアヌと結婚したマイケルは、より仕事に精を出して家族としてやっていける生活費を稼ごうとしていたが、店のオーナー シャンムガムの家へ届け物をしに行った際、彼の娘プリヤが悪魔憑き状態で霊媒師から悪魔払いを受けている現場を見てしまう。その時のプリヤは、自分を"ニティヤー"だと名乗り、「なぜこの娘に取り憑くのか答えろ!」との霊媒師の問いに対し、急にマイケルの方を睨みつける…。
その現場からすぐに帰ったマイケルがことの次第をアヌに語ると、彼女は彼にそっと語りかける…「だから言ったでしょ…"その瞬間"が来たのよ」
その翌日の日没後。急ぎのピザ配達とオーナー宅への届け物を依頼されたマイケルが出て言って数時間後……シャンムガムが連絡を受けた時は、配達から帰って来たマイケルが先輩店員たちと乱闘を起こした上で「アヌが…アヌが…」とつぶやくだけで、茫然自失の姿を晒していた。「なにがあった? 説明しろマイケル!」シャンムガムの言葉に反応したマイケルは、ようやくのことで配達先で起きた恐怖を語り出す…!!
挿入歌 Rathiri (Arath Version) (夜を支配する王)
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カールティク・スッバラージの監督デビュー作となる、タミル語(*1)新機軸ホラー映画。
その大ヒットによって、テルグ語(*2)吹替版が公開された他、2013年にはカンナダ語(*3)リメイク作「Whistle(ホイッスル)」、2014年にはヒンディー語(*4)リメイク作「Pizza(ピザ)」、同年にベンガル語(*5)リメイク作「Golpo Holeo Shotti(この物語は…真実)」も公開。
日本では、2022年のIMW(インディアン・ムービー・ウィーク)にて「ピザ 死霊館へのデリバリー(Pizza)」の邦題で上映。同年には、新潟県の高田世界館で1日夜限定上映もされていて、翌23年のIMWでも上映。2024年にCS放送。同年の池袋インド映画祭@シネ・リーブル池袋でも上映。
さらにパラレルな続編シリーズも制作されていて、ディーパン・チャクラヴァルティ監督作「Pizza II: Villa」が2013年に、さらなる続編であるモーハン・ゴーヴィンド監督作「Pizza 3: The Mummy」が2023年に公開されてピザ・シリーズを構成している。
もーーーーーーこれだからインド人、信用できないんだよ!!!!!!!
と叫びたくなるドンデン返しの連続映画で、冒頭〜中盤まではよくある幽霊屋敷もののお話への丁寧な振りが語られるホラー映画なのに、後半から「ん? ちょっと待て。これって…」と気になり始めたあたりから物語は次々にあっちこっちへ変幻自在に転び変わって行く。1を聞いて10に膨らまして語るインドの語り文化が、ホラーと組み合わされるとここまワクワクする奇怪な物語を生み出すなんて、インド人スゲーーーーーーーーーーー!!!!!!!
冒頭の幽霊屋敷取材のファウンド・フッテージ(*6)な見せ方からして、「ホラー映画でしょ? 見せ方は心得てますよ」とでも言いたげな制作者側の映画好き度が見えてくる画面で、観客側もホラーへの期待度が上げていきながら、速攻で「これ本編とちゃうねん」とオトすシークエンスも軽快かつ楽しい。
その後の、本編で描かれる日常パートも丁寧に人物描写や舞台設定、伏線の数々を置いて行って、登場人物たちの油断ならなさ、行動原理を説明するとともに、そこから急に非日常のホラー空間へと一足飛びに繋げる不条理もスピーディー。ただのホラー映画なら冗長と言われるかもしれない前半の日常パートが、映画後半に俄然効果的な伏線として浮かび上がる計算された語り口も、観客側を信用しつつ「分かってますよ。これで終わらせるわけないじゃないですか」と求められているもの以上のものを出していこうとする作劇側のしてやったり顔が見えるようで微笑まし。
こんな挑発的な語り口の脚本を書き上げて監督デビューした、29才(公開当時)のカールティク・スッバラージの「娯楽映画」なるものの役割をしっかりつかんでる芯の強さが、ふてぶてしくもあり頼もしくもあり。こいつぁ、今後やってくれる映画監督ですよ!!(*7)
主演に、2010年の「Thenmerku Paruvakaatru(モンスーンの南西風)」から主演俳優として人気上昇し始めていたヴィジャイ・セートゥパティをつけた点でも、この映画の魅力が跳ね上がってる感もあり、ドンデン返し脚本の良さをきっちりしっかり演技で表現するヴィジャイ・セートゥパティの八面六臂な表情の変わり具合が最高。
そのヴィジャイ・セートゥパティが映画全編で活躍する中、出番が限定的ながらしっかり彼の演技を受けて立つ芝居を見せるアヌ役を演じたのが、1986年ケーララ州イェルナークラム県コーチ郊外のチョッタニッカラ生まれの女優兼歌手レムヤー・ナンビーサン。
父親は有名な劇団員スブラマニアム・ウンニ。兄(弟?)に、歌手兼音楽監督でマラヤーラム語(*8)映画界で活躍するのラーフルがいる。
幼少期に古典音楽を学んで作曲・歌手活動を開始。イェルナークラムの大学でコミュニケーション英語の学位を取得する間に、子役として1〜2本の映画に出演もしていたとか。2001年のマラヤーラム語映画「Narendran Makan Jayakanthan Vaka(ナレンドラの息子ジャヤカンタンの土地財)」で脇役出演して本格的に女優業をスタート。マラヤーラム語映画界で活躍する中、2005年の「Oru Naal Oru Kanavu(あの日、あの夢)」でタミル語映画デビューを挟みつつ、2006年のマラヤーラム語映画「Aanachandam」で主役デビューを果たす。以後、マラヤーラム語映画界での活躍が続く中で、2008年の「Andamaina Manasulo(綺麗な気持ち)」でテルグ語映画デビュー。同年公開のタミル語映画「Raman Thediya Seethai(ラーマを探すシータ)」でアナンダ・ヴィカタン・シネマ助演女優賞を獲得。2012年のマラヤーラム語映画出演作「Ivan Megharoopan」から挿入歌も担当して歌手デビューしていて、以降南インドの映画・TV・Webシリーズ界にて女優兼歌手として活躍中。数々の女優賞や歌手賞を贈られたりノミネートされている。
語りたがりなインド映画にあって、本作は初めて見た「明確な理由なく、突如ホラーに巻き込まれるホラー映画」なわけで、邦画に近い不条理怪談めいた感覚がインドにもあるんだなあ…と思っていたら豈図らんや。
その不条理ホラーからさらに二転三転する物語は、伏線の回収もそこそこに別の形で「語りたがり」な面を補強し、ホラー展開の後にその奥に潜んでいるものを暴露して行く恐ろしさ。風呂敷をたたむ前にひっくり返すインド話術の小気味良さが、しっかり映画の機能として仕掛けられていると分かった時点で、お話はホラーとはまた違う怖さを発揮する。00年代末期あたりから新機軸映画が次々に生まれてくるタミル語映画界の空恐ろしさを実感できる傑作でございますわ。
ああ、怖がりなくせにこの映画見ちゃうと、新機軸タミルホラーも色々チェックしたくなるよー(ビクビク
挿入歌 Engo Odugindrai (あてどなく走って)
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受賞歴
2012 SIIMA (South Indian International Movie Awards) 批評家選出男優賞(ヴィジャイ・セートゥパティ)・監督デビュー賞
2012 Ananda Vikatan Cinema Awards 脚本賞(カールティク・スッバラージ)・撮影賞(ゴーピ・アマルナート)・編集賞(レオ・ジョン・パウル)
2012 Vijay Awards 原案&脚本賞(カールティク・スッバラージ)・スタッフ賞・撮影賞(ゴーピ・アマルナート)
「ピザ 死霊館へのデリバリー」を一言で斬る!
・飲食店で子供が言うこと聞かない時に、店員に『この子に食べさせて』はありなの!?(主人公が、妊娠がわかった彼女との結婚を決意するシーンだけども)
2024.2.16.
2024.2.23.追記
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