インド映画夜話

Pournami 2006年 167分
主演 プラバース & チャールミー・カウル & トリシャー
監督/脚本 プラーブデーヴァ
"問題は、神の手では解決しない。自分自身が行動するべきだ"




 これは、その昔実際におこった出来事をもとにした物語である…。

 時に、1953年のアーンドラ・プラデーシュ州辺境の村デーヴニー・パトナム。
 450年の長きに渡り、一族の女性が古典舞踏をパールヴァティ寺院に奉納する伝統家系に生まれた少女ポウルナミは、その寺院に伝えられる故事…雨乞いのために、女神とその夫シヴァ神を呼び出そうと七日七晩踊り続けて雨を降らせた先祖の偉業…を父から伝えられる。12年ごとに奉納される次の舞姫に、ついに彼女が選ばれたのだと…。

 その10年後。新たな舞踏祭が近づく中、舞姫役のポウルナミが行方不明になり村中が困り果てていた。踊りを教わらなかったポウルナミの妹チャンドラカーラーはその頃、父の再婚相手カンタムに日々虐待され、亡き母と姿の見えない姉を思って泣く毎日。そんなある日、ポウルナミの舞踊練習場を改装して欧米スタイルのダンス教室を開きたいという不思議な男シヴァケーシャヴァ(通称ケーシャヴァ)が、彼女の家に訪ねて来る…。


挿入歌 Ichi Puchukunte (ギブアンドテイクの心情は素晴らしいわ [じゃあ、貴方の心を頂戴な])


 05年の「Nuvvostanante Nenoddantana(貴方が来たいというなら、私がイヤと言える?)」で監督デビューした、振付師兼ダンサーのプラーブデーヴァ2本目の監督作になるテルグ語(*1)映画。主演はのちに「バーフバリ」で主役を張ることになるプラバースが担当。
 タイトルは後半のヒロインの名前だけども、その語義はテルグ語で「満月」の意(*2)。

 本作(後半)の物語は、2001年のブラジル映画「ビハインド・ザ・サン(Abril Despedacado / Behind the Sun)」にインスパイアされたものとか。
 のちに、同名マラヤーラム語(*3)吹替版、ヒンディー語(*4)吹替版「Tridev Pyar Ki Jung」も公開された。

 監督作第1作では、テルグの自然とその土地で生活する人々の強さと美しさを賛美した映画を作ったプラーブデーヴァが、監督作2本目に描くのは、家族とその土地に息づくインドの伝統の美しさと強さ、その功罪。
 物語は3幕構成で運命に翻弄される姉妹を描いていき、前半は妹チャンドラカーラーの慎ましきラブコメの中で起こる女性が望まぬ結婚強制問題を、後半が姉ポウルナミのロマンスを中心にして家族レベルで対立する西部劇的復讐の連鎖を、主役シヴァケーシャヴァ(*5)の背景を狂言回しに展開させて、ラストにバラバラだった姉妹と家族の結合を見せて行く構成。
 物語的意外性はそこまででないかもだけど、そこに描かれる人と人の情の揺れ動きは時に静かに、時にコミカルに、時に意外なほど激しく表されて、その表現の多彩さと妙な新規性が目に残るテンポの良い映画。
 2人のヒロインの、姉妹と思えないそれぞれに別方向の美人度も半端なく、軽やかに美しい画面が可愛美し楽しい。

 物語的にはメインヒロインの位置にいるチャンドラカーラーを演じるのは、1987年マハラーシュトラ州ヴァサイーのパンジャーブ系シーク教徒の家に生まれた、女優チャールミー・カウル(本名スルディープ・カウル)。
 若干15才で、02年公開のテルグ語映画「Nee Thodu Kavali」に端役出演して映画デビュー。それが縁となって、同年にはタミル語(*6)映画「Kadhal Azhivathillai(愛は滅ばない)」とマラヤーラム語映画「Kattuchembakam」にて主演デビューし、ヒンディー語映画「Mujhse Dosti Karoge!(友達にならないか!)」にカメオ出演してそれぞれの映画界デビューすることになる。
 その後は短期間のうちにテルグ語を習得してテルグ語映画界で活躍し続け、05年の「Anukokunda Oka Roju(予想外の一日!)」でサントーシャム・アワード主演女優賞、CineMAAアワードの批評家選出主演女優賞を獲得。07年にはカンナダ語(*7)映画デビューとなる「Lava Kusha」に出演しつつ、テルグ語映画「Mantra」でナンディ・アワード主演女優賞を受賞してもいる他、「Chandamama(月)」ではこの年女優デビューしたカージャル・アグルワール演じるヒロインの声も担当。15年には、主演作「Jyothi Lakshmi(ジョーシー・ラクシュミー)」でプロデューサーデビューしている。

 2人のヒロイン&劇中の女性登場人物にモテまくるプラバース演じるシヴァケーシャヴァの色男っぷりの態度が、前半と後半で随分違う気もするけど、前半と後半でそれぞれに展開する恋物語がラストに向けて多重的に重なってくる展開も熱い。
 2人のヒロインの可愛さ、ファッショナブルさもいい感じに増幅され、それぞれに魅力を最大限発揮してくれるので、見ていて飽きないサービス精神も嬉しい。個人的にはヒロインの美しさとしてはトリシャー演じるポウルナミの方を、ラブコメ劇としてはコロコロ変わる表情が楽しい妹チャンドラカーラーの方を応援して行きたいデスネ。白い歯が闇夜に光って明かりの代わりになるなんて発想、初めて映像で見ましたわ。スゲえぞチャンドラカーラー! 素手でコブラをつかめるなんて強いぞチャンドラカーラー! でもやっぱり見ていてため息が出てくるのは、ポウルナミのアップのシーンだゼ! 放浪遊業民衣装のトリシャー可愛い!!(結局それかい)

 特徴的な建築が印象的な劇中のパールヴァティ寺院は、カルナータカ州に実在する世界遺産ハンピ遺跡群の1つヴィルパクシャ(*8)寺院だそう。あんな不思議な形の寺院建築が実在するとは、インドもほんと広いよねえ…。
 この寺院を背景に描かれるラスト近辺の舞踏儀式は、「炎(Sholay)」的でもあり、「バーフバリ(Baahubali)」的でもあり。「バーフバリ」への影響を探ってみたくなるプレ・バーフバリ的作品としても位置付けてみたくもあ…り?

挿入歌 Bharata Vedamuga (バーラタを聖典として [恒久なる舞踊を])

*わりとネタバレにつき注意。



「Pournami」を一言で斬る!
・劇中に色々登場する親兄弟が、みんな似てないねえ…w

2018.2.2.

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*1 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*2 ヒンドゥーの祭りが満月や新月を基準に日程を決めるように、劇中の舞踏祭も満月の日に行われると言う設定を強調するネーミング?
*3 南インド ケーララ州の公用語。
*4 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
*5 荒ぶる神シヴァと、牧夫神クリシュナすなわちヴィシュヌ神の化身の別名である”ケーシャヴァ”と言う三神一体の名前を持つ主人公!
*6 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。
*7 南インド カルナータカ州の公用語。
*8 シヴァ神の別名。