インド映画夜話

Pulimurugan 2016年 162分
主演 モーハンラール
監督 ヴァイサキー
"狩りが、始まる"




 人喰い虎が多く住む密林の村プリユールに、ある日見知らぬ男が訪ねてきた。
 彼は、虎殺しの名人と名高い"プリムルガン(=虎のムルガン)"に仕事を依頼したいと言うのだが、村長は「今はこの村に彼はいない」と伝えてムルガンの素性を語り始める…。

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 ムルガンの初めての虎退治は9才の頃。
 弟の出産時に死んだ母の葬儀の後、父親を虎に殺されて孤児となったムルガンは叔父バララーマンと一緒に復讐を誓い、以来村にやって来る虎をその度ごとに殺していた。
 その後、成長して"プリムルガン"と呼ばれるようになったムルガンは、妻と娘と共に村の外に住んでいたが、街に住む弟マニクッタンからの癌治療新薬開発援助(材料となる違法麻薬栽培と、その場所の確保)の依頼と村人たちからの虎退治依頼を受けて村に戻ろうとした所、昔ムルガンと諍いを起こした森林保護官RKが復讐のためにやって来たと聞かされて、何処かへと身を隠さざるを得なくなる…。


プロモ映像 Pulimurugan Theme / Muruga Muruga


 大規模なタイ、ベトナムロケを敢行した大ヒットアクション・マラヤーラム語(*1)映画。
 マラヤーラム語映画史上初の売り上げ100カロール(=10億ルピー)クラブ入りを果たした一本で(*2)、同じくモーハンラール主演の大ヒット作「Oppam」「Drishyam (ビジョン)」を抜いて、マラヤーラム語映画史上最高売り上げを記録した。

 後に、テルグ語(*3)吹替版「Manyam Puli」、オリジナルと同名タイトルのタミル語(*4)吹替版、ヒンディー語(*5)吹替版「Sher Ka Shikaar」も公開。
 インド本国の他、米国、アラブ、クウェート、ドイツ、英国、アイルランド、イタリア、ケニヤなどでも公開されたよう。
 日本では、2016年にCellulid Japnによる英語字幕版で自主上映されている。

 まずなによりも、家族劇や社会派映画を得意とするマラヤーラム語映画界にあって、ここまで徹底したマサーラー・アクション映画が作られてたのね! ってくらい爽快かつパワフルなワイヤーアクションの数々が小気味いい一作。
 最初にイメージしてたよりは虎退治がそこまで話の本筋にならず、麻薬密売で潤うギャングたちとの抗争がメインになるあたりも、マサーラー色満開。ターザンか忍者みたいなとんでもワイヤーアクションの多彩さはすごいし、それを御年56歳(本作公開当時)のモーハンラールが自らやってるってのもトンデモね(*6)。虎は、1部CGと実際の虎との併用だったそうだけど(*7)、「なんかCGっぽいな」と感じるシーンはあれどあんまそういう事も気になんない出来。とにかく徹底して「人間、お前らを喰っちゃるぜー!」と攻めてくるジョーズ的なプレデターっぷりはステキ。

 まあ、お話そのものはムルガンの虎退治、弟や妻子との家族劇、腐敗警官との対立、地主の奥様と妻との三角関係対立コメディ、麻薬ビジネスで潤うギャングたちの暗躍と対立、地元村人たちとの交流…と、とにかくいろんな方向に話が広がるわりに同じシークエンスが繰り返されてる感じなので、微妙にとっ散らかってる感じには見えてきてしまうけど。
 特に、セクシー担当なのかなんなのか、地主の奥様ジュリー役で出てきたナミータは大した見せ場もないまま終わってしまった感じで、ムルガンの妻マイナ役のカーマリニ・ムカルジー共々女優の使い方がぞんざいなのがなんとも(*8)

 監督を務めるヴァイサキー(生誕名エベイ・アブラハム)は、1980年ケーララ州カサラゴド県カンハンガド生まれ。
 TVショーの司会を勤める時に芸名ヴァイサキーを名乗り始め、05年のマラヤーラム語映画「Kochi Rajavu」などの助監督として映画界に参入。10年の「Pokkiri Raja(暴れん坊ラージャ)」で監督デビューを果たして、年間最高売上マラヤーラム語映画記録を叩き出した。5作目の監督作となる、13年の「Vishudhan」では脚本&台詞も担当。本作の記録破りの大ヒットののち、サイジュ・S・S監督作となる18年の「Ira(犠牲)」ではプロデューサーデビューもしている。以降もマラヤーラム語映画界で活躍中。

 コーチやポーヤムクッティなどで撮影したというケーララの森林の美しさも必見。
 なんか「バーフバリ(Baahubali)」にも出てきてないかい? って渓流の涼やかさ、水と緑の豊かさ、森の中で生きる人々の野生児的強さも、叙情的でもあり楽しげでもあり。生活インフラも整っていない中で、それでも自然と調和して豊かにのびのびと暮らす姿は都会人の考える「前近代的理想生活」ってやつかもしれないけどさ…。
 まあ、それにしたって傾斜の激しい渓流の岩場でど付き合いアクションで人を吹っ飛ばすシークエンス作る大胆さもトンデモね(*9)。人喰い虎やコブラやがすぐに出てくるジャングルの中にあって、縦横無尽に走り回り、数々のトラップと手作り武器で虎もギャングもぶっ飛ばすプリムルガンの強烈な頼もしさは、なにをおいてもカッコEEEEEーーーーー!!!!!!

挿入歌 Manathe Marikumbe


受賞歴
2016 Asiavision Awards 人気作品賞・人気男優・オブ・ジ・イヤー(モーハンラール /【Oppam】と共に)・音楽監督賞(ゴーピー・スンデル)・女性歌手賞(K・S・チトゥラ / Kaadaniyum Kalchilambe)・撮影賞(シャージ・クマール)
2017 Vanitha Film Awards 主演男優賞(モーハンラール /【Oppam】と共に)・人気作品賞・男性歌手賞(ヴァーニ・ジャイラム / Maanathe Marikurumbe)
2017 Asianet Film Awards 主演男優賞(モーハンラール /【Oppam】と共に)・人気作品・オブ・ジ・イヤー賞・助演女優賞(セトゥーラクシュミー)・編集賞(ジャンクティ)・撮影賞(シャージ・クマール)・悪役賞(ジャガパティ・バーブ)・審査員特別賞(ピーター・ヘイン)
2017 National Film Awards 批評家選出特別賞(モーハンラール)・スタント振付賞(ピーター・ヘイン)
2017 South Indian Internatinal Movie Awards 監督賞・主演男優賞(モーハンラール)・女性プレイバックシンガー賞(K・S・チトゥラ / Kaadaniyum Kalchilambe)・批評家選出特別賞(ジャガパティ・バーブ)


「Pulimurugan」を一言で斬る!
・ムルガンの妻を襲おうとしてムルガンに返り討ちにあった森林保護官、その直後のシーンで僧侶っぽい人からふんずけられてマッサージしてもらってるシーンがあったけど、なんかの苦行かって絵面でしたねえ…(あれは、普通にやる民間医療行為かなにか?)。

2021.6.4.

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*1 南インド ケーララ州の公用語。
*2 売り上げ自体はさらに伸び続け、152カロールに達したとか。
*3 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*4 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。
*5 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
*6 モーハンラール自身が、スタントを使わず自分でやると宣言して撮影に入ったとか。
*7 インド国内では野生動物を使った撮影が不可だったため、まず南アフリカで撮影したもののうまくいかず全ボツ。その後、タイで豹と虎オーディションした上で、虎の方が説得力があるとして虎シーンを撮り直したそうな。
*8 それがよりマサーラー映画的って見えるは見えるけどさ。
*9 そのシーンではないらしいけど、撮影中に地元民から景観破壊されたと訴えられてたそうだけど。