Run Baby Run 2012年 140分(180分とも)
主演 モーハンラール & アマラ・ポール
監督 ジョシィ
"…以上、カメラマンはヴェーヌ。レポーターはレーヌカーでお伝えしました"
今日も今日とて、政治家の汚職をすっぱ抜くTV局バーラト・ヴィジョンの看板アナウンサーレーヌー(本名レーヌカー)は、疑惑の大臣会見を狙って現場に詰めていた。
そこに、口八丁で抗議隊を丸め込んだ大臣めがけて靴を投げ込んで、怒りを爆発させる大臣側と民衆側の衝突を映像に収めるロイターの報道カメラマン ヴェーヌが現れる…。
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彼との出会いは、レーヌーがまだ新人だった頃。
その昔警察から暴行されかけた新人アナウンサー時代のレーヌーを助けて右耳を負傷したヴェーヌだったが、それをきっかけに親密になる2人はいつかお互いに愛し合うように。ついに結婚式を上げようと言う前日…友人からリークされた州首相の違法献金現場を押さえて、その隠し撮りに成功する! そのままNBI(インド報道局)の夜のトップニュースにしようと自分をおとりにしたヴェーヌは、レーヌーに映像データを持たせて先に局へと帰らせ、自分は州首相の取り調べを受けることになった。
だが、その夜のニュースは彼の映像は何も使われず、首相宅を無罪放免となったヴェーヌは局に飛んで帰る。「映像はどうなった」と局長に直談判すると「レーヌーは帰ってない。取材が間に合わなかったようだから予定通りの編成で放送してる」との答え。しかしその裏番組で、別のTV局バーラト・ヴィジョンがレーヌーの持っていった映像をトップニュースで放送していたのだ…!!
挿入歌 Attumanal Payayil
1978年に監督デビューした名匠ジョシィ監督の、78本目の監督作となるマラヤーラム語(*1)映画。
2012年度マラヤーラム語映画界最高売上を記録した大ヒット・サスペンス映画となる。
ポスターや劇中タイトルでは、アルファベット表記が「Run BaBBy Run (2つ目のBは左右反転)」と表記されている。
06年の同名ガーナ映画をはじめ、複数の同名歌曲があるけれど、すべて別物。
同名タミル語(*2)吹替版の他、テルグ語(*3)吹替版「Black Money」としても公開されているよう。
ジャーナリストである主役2人の関係性の揺らぎを軸に、前半は不可解なヒロイン レーヌーの裏切りに端を発する報道界の裏側と「作られた報道」の不正義を糾弾する展開。中盤から、その原因を作る政治家たちの腐敗と「公表される情報」とその裏で蠢くさまざまな思惑を露わにさせていくサスペンス劇へと発展していく。
わりとインドでは映画界とつながりの強い報道界に対して、その有象無象な裏側を描いていく舞台裏もの映画として作られている1本で、そこに表される各種ニュースを作り上げていくジャーナリストたちの悲喜こもごもをコミカルに・サスペンスフルに描きつつ、少数の人々によって作られていくセンセーショナルが抱える危うさ、スキャンダルを求める人々の心理の危険さを見せていくメディア批判めいた側面も強い。後半は陰謀が陰謀を呼ぶどんでん返しの連続がサスペンスをより劇的に盛り上げていく中で、各登場人物たちの抱えるいろいろな思いの連鎖が重く響いていく情感演出も見事なもの。ノリにノってる出演陣のパワフルな存在感と芝居の美しさもスンバラし。
監督を務めるジョシィ(・ヴァス。別名ジョシィ・マシュー)は、1952年ケーララ州ティルヴァナンタプラム県バルカラ生まれ。
小さな頃から両親所有の映画館に親しんで過ごし、長じて映画界での就職を志望してチェンナイに移住して助監督として働き始める。
78年公開のマラヤーラム語映画「Tiger Salim(タイガー・サリーム)」で監督デビューを果たして、以降もマラヤーラム語映画界で活躍。84年には「Dharm Aur Qanoon」でヒンディー語(*4)映画監督デビューして、87年の自身の監督作マラヤーラム語映画「New Delhi(ニューデリー)」のリメイク作として、テルグ語映画「Antima Teerpu(最終評決)」、カンナダ語(*5)映画「New Delhi」も監督してそれぞれの映画界でも監督デビュー(*6)する他、93年には「Airport(エアポート)」でタミル語映画監督デビューもしている。
アクション映画監督として人気というジョシィ監督作の本作。アクションもそこそこ入ってるけども、全体の雰囲気はドキドキ感が追求された火サス的なサスペンス劇と言った感じが強い。
やさぐれた報道カメラマン ヴェーヌ演じるモーハンラールの反権力的なギラギラ感、美貌マックスかつ正体不明な疑惑のヒロイン レーヌー演じるアマラ・ポールの峰不二子か! って飄々とした演技もお美しい。2人の良き理解者にして協力者となる編成局長(?)リシ演じるビジュー・メーノーンの全てを受け止める良き友人演技も嫌味なところがなく、主役2人の間を取り持つ接合的バランスの役どころが麗しか。
事件の黒幕はすぐに目星がつく軽いサスペンスな物語ながら、盗撮まがいの取材で作り上げられるニュース映像や、TV局の編集権を認めないことを条件に取材を承諾する主人公の姿、悪徳政治家の取材されていることを前提としたパフォーマンスやトリックの手法の数々などから、映像というものが如何に「作られ」「創られ」ていくかということに自覚的な映画構造それ自体が、観客に対して「さあ、私たちが何を言いたいか、わかるよね!」って問いかけてくる顔が見えてきそうなふてぶてしさもまた、映像の特性を効かせた映像トリックってやつでしょか。最終的にはジャーナリズムの正義を肯定的に描いてる映画ではあるものの、その裏に渦巻く「疑惑」は、政治家に向けた直球不信感と同レベルのものを報道会にも向けているのかも…しれない(*7)。
受賞歴
2012 Asiavision Awards 主演男優賞(モーハンラール / 【Spirit】に対しても)・ニューセンセーション歌手賞(モーハンラール / Attumanal Payayil)
2012 Asianet Film Awards 主演男優賞(モーハンラール / 【Spirit】【Grandmaster】に対しても)・キャタクター演技賞(ビジュー・メーノーン)
2013 SIIMA (South Indian International Movie Awards) マラヤーラム語映画主演女優賞(アマラ・ポール)・マラヤーラム語映画ダンス振付賞(ブリンダ / Attumanal Payayil)
「RBR」を一言で斬る!
・【バンガロール・デイズ】の時も思ったけど、インドのTV局やラジオ局は、部外者がそう簡単に入っていけるものなの…?(関係者然とした顔してたら、ってことなのかもだけど)
2022.3.25.
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