インド映画夜話

Race Gurram  2014年 163分
主演 アッル・アルジュン & シュルティ・ハーサン(歌も兼任)
監督/脚本 スレンデル・レッディ
"オレと競り合えるなんて、思うなよ"




 母と言うものは、息子たちに自分と同じ平安と協調を望む。
 しかし、常に皆の中心的存在である兄ラーム・プラサードと、自由奔放な弟ラッキー(本名アッル・ラクシュマン・プラサード)の兄弟の場合は、その真逆な性格からずっと対立関係にあった…。

 長じて警官になったラームは、州内でも有名なマフィア首領マッダリ・シヴァレッディ逮捕を目標に捜査を続けていたが、政界進出を狙うシヴァレッディ一味は公権力を恐喝の末に味方につけてしまい、ラームの努力はなかなか実を結ばない。
 一方で無職のまま遊び暮らしラームを嘲笑し続けるラッキーは、父の家訓のもと感情を一切表に出さない美女スパンダナー・プラカーシュと知り合い、彼女の感情表現を取り戻して行く間に両思いになって行った。これに憤慨するラームは、スパンダナーの父親ビームにラッキーの人となりを悪意を交えて語って聞かせたことから、これを信じたビームはラッキーに「お前の兄が、お前を認めて『最高のカップル』だと言うまで、娘との仲は認めない」と宣言してしまう!!
 同じ頃、シヴァレッディ一味は目の上のたんこぶであるラームの暗殺計画を始めていて…。


挿入歌 Down Down (ダウン・ダウン)

*歌を担当しているのは、テルグ、タミル語映画界で活躍する歌手S・ターマンと、本作主演のシュルティ・ハーサン!!
 3分すぎのレベルアップするようなSEはなんなのー!?


 タイトルは、英語+テルグ語(*1)で「競走馬」。

 2014年度テルグ語映画界の最高売上を記録した、ドタバタファミリー劇&ポリスアクション。
 後に、マラヤーラム語(*2)吹替版「Lucky: The Racer」、ヒンディー語(*3)吹替版「Main Hoon Lucky: the Racer」も公開。
 クウェート、米国他でも公開されている。

 「Ashok(アショク)」や「Kick(キック)」のスレンデル・レッディ6作目の監督作となる本作は、「ラーマーヤナ」のラーマ兄弟の名前を継承する主人公兄弟の対立と家族愛を主軸にしつつ、多数の脇役俳優・父親俳優・悪役俳優を配置し、口八丁と幸運のみで全ての課題を突破するアウトロー主人公演じるアッル・アルジュンの魅力をこれでもかとアピールするパワフルかつドタバタなコメディ映画。

 悪役となる政治家や警察の高官たち、話を混乱させるメディア等を皮肉りつつ、大量の脇役たちを贅沢に使い倒し(*4)ラスト近くになって急にドラマチックな兄弟愛ポリスアクションへと消化させていく手腕もトンデモね(*5)。
 感動的な兄弟の対立と和解劇も、なんとなく贅沢に消費されるコメディアンたちの見せ場を繋ぐための狂言回し的な構成…にも見える? やたら登場人物が多いにも関わらず、軽快に話が転がっていく様が、ミュージカル共々ノリノリに映画を魅せていく楽しい作り。その分、それぞれのエピソードや登場人物の設定などには意外性のようなものは特になく、込み入った話も少ない。だからこそ、物語そのものよりそれぞれの役者たちの魅力に注目が集まる設計になってる感じ。

 笑わない怖がらないヒロイン スパンダナーも、主人公と出会ってすぐ普通の感情表現できる普通のヒロインに変わっちゃうし、演じるシュルティのいつもより大きい目(当社比)ももっと画面で大写しになるかいな、と思ってたこちらの思惑は華麗にスルーされてしまう使い捨てっぷりがなんとも。
 出番はシュルティより圧倒的に少ないけど、「あなたがいてこそ(Maryada Ramanna)」で日本でも知られる(…よね?)サローニーが後半セカンドヒロイン的に登場したのは、嬉しい驚き。ま、登場シーンはかなり短いんだけど…。
 ヒロインよりも重要キャラとして主人公と関わってくる真面目な兄ラームを演じるのは、「Kick」や「Oosaravelli(カメレオン)」でスレンデル・レッディ監督作に連続出演してるシャーム(別名キック・シャーム)。踊るシーンこそないものの、お互い憎み合いながら面倒を見ないではいられない兄弟を熱く演じてくれてナイスであります。
 狂気のラスボス マッダリ・シヴァレッディ演じるのは、ヒンディー語映画やボージュプリー語(*6)映画等で活躍するラヴィ・キシャン(生誕名ラヴィンドラ・シャヤムナラーヤン・シュクラー)。92年のヒンディー語映画「Pitambar」「Giraft」で映画デビューして、映画とTV界で活躍。本作がテルグ語映画デビュー作となり、この次のスレンデル・レッディ監督作となる「Kick 2」にも出演している。

 よくわからないながら、言葉遊びや過去映画のパロディネタも多数入ってる感じで、過去のテルグ語映画ネタとともに「ダバング(Dabangg)」や「チェンナイ・エクスプレス(Chennai Express)」と言ったヒンディー語映画ネタも次々出てくるノリの軽さも楽しい楽しい。ま、その辺のネタのわからない部分については、1つ1つインド映画を体験してってその積み重ねで理解度をあげていくしかないんだけど、毎度ながらその積み重ね度が半端ないインド人の映画共有感覚具合が羨まし。

挿入歌 Cinema Choopista Mava ([心配しなさんな、お義父さん。こんなとんでもない息子はそうはいないさ] さあ、最高の映画を見せましょう)


受賞歴
2014 Filmfare Awards 主演男優賞(アルジュン)・主演女優賞(シュルティ)・男性プレイバックシンガー賞(シンハ / Cinema Choopista Mava)
2014 Nandi Awards 男性コメディアン賞(ブラフマナンダラム)・吹替男優賞(P・ラヴィ・シャンカル)
CineMAA Awards 作品賞・主演男優賞(アルジュン)・編集賞(ガウタム・ラージュー)
2014 SIIMA(South Indian International Movie Awards) 監督賞・主演女優賞(シュルティ)・コメディアン賞(ブラフマナンダラム)・男性プレイバックシンガー賞(シンハ / Cinema Choopista Mava)・ダンス振付賞(ジョニー / Cinema Choopista Mava)
B. Nagi Reddy Memorial Award テルグ語映画驚異的娯楽映画作品賞


「RG」を一言で斬る!
・名前の配置以外、叙事詩要素の少ない本作だけど『優秀な兄を見上げるラクシュマナ視点のラーマーヤナ展開』ってのも、面白そうだネ(けど、ドロドロ展開は無しの方向でお願いしマッス)。

2021.11.20.

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*1 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*2 南インド ケーララ州の公用語。
*3 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
*4 ほとんどが、数エピソードのみの登場で消費されていくスピーディーっぷりったら!
*5 ラスト近くまで出番がないのに、急に出てきて全てを持っていくキル・ビル・パーンデーイ役のブラフマーナンダムの可笑しさったらもう!!
*6 別名ボージュプル語。インド東部のマガダ語群中のビハール語系統に属する言語。