インド映画夜話

神が結び合わせた2人 (Rab Ne Bana Di Jodi) 2008年 167分
主演 シャー・ルク・カーン&アヌーシュカ・シャルマー
監督/脚本 アディティヤ・チョープラー
"シャル・ウィー・ダンス? 夫は姿を変えて妻に言った…"





 真面目だけが取り柄の冴えない男スリー(本名スリンダル・サーニー)の家に、結婚装束に身を包んだ美しいターニが連れられて来た。しかし、2人の間には会話らしい会話はない…。

 1日前。
 スリーは大学の恩師を訪ねにいって、恩師の娘ターニに一目惚れ。その時、ターニの婚約者一家が交通事故で全員死亡と言う知らせが入り、ターニは動転、恩師はショックで倒れてしまう! 死の床の恩師はスリーに、ターニと結婚して欲しいと頼むのだった。
「これは神様のお計らいだ…。天涯孤独になってしまう娘を幸せにしてやってほしい…」

 失意に沈むターニのために自室を明け渡したスリーは、上の階の物置で生活しながらターニの世話をする。顔を合わせない2人だったが、スリーの同僚たちが開いた祝賀会でターニは初めて人前に出て笑顔を見せた。
 パーティーの後、ターニはスリーに「優しくしてくれたことに感謝はするけど、貴方を愛する事は出来そうにない。でも、新しいターニになって良い妻になるよう努力する」と語る。それでもスリーは、彼女が失意から立ち直って自分を受け入れてくれた事を喜ぶのだった。

 ある日、ターニはダンス番組の大会広告を見つけ「ダンスを始めたい」と言い出す。快く参加費を出して彼女を喜ばすスリーだったが、ターニの笑顔を見ていたい彼は、美容師の友人ボビーの協力で、今時の若者風(?)に変装して会場に潜入する。
 偶然、ターニのダンスパートナーのクジを引き当ててしまったスリーは、正体がバレてないのを幸いに"ラジ・カプール"と名乗って彼女と付き合い始め、家では何事もないかのように元のスリーに戻る日々が続いていった…。


挿入歌 Phir Milenge Chalte Chalte (また会う日まで!)




 タイトルの意味は「夫婦は神によって創られる」(*1)。
 大・傑・作!
 映画という機能をフル活用したラストダンスシーンの、映像的テンションの高さと高密度な演出。全ての台詞・撮影カット・エピソード・音楽・小道具に至るまでが最後のシーンに集約されて行く怒濤の映像的快感!! もう、見終わった直後はため息しか出ず、我に返るのに時間がかなりかかる。これを見ずに映画を語ってはいけません!(無茶な断言!!)

 お話そのものは、ベタな3角関係を主軸とするラブコメなんだけど、その内の男2人が同一人物で、しかもスリーとターニは結婚済だし、ターニも別にドロドロの不倫劇を望んでるわけでもない。そんなちょっとひねった映画で、ベタベタな恋愛劇もこういう風にひねるといくらでも面白くなるし、新しいものが出来ると言う職人技的な映画(*2)。

 例によって、前半はラブコメで、後半はどんどんせつな〜くなるシリアスな恋物語。
 インド映画のコメディで大笑いできたのって、実はこれが初めてかも。特にシャールクのコロコロ変わる表情とか、突然バイクレースになる「Dhoom2」のパクリシーンとか、間のとり方も絶妙だしサービス精神旺盛すぎだ!!

 にしても、いくら変装ったって、ヒゲ剃って髪型変えただけで夫と気づかないのはおかしい! …って言うツッコミはまぁもっともなんだけど、そこはそれ。ボリウッドだしラブコメだから…と言うか、個人的には…
「あぁ…、あるよね。女の人って関心がない相手や嫌いな相手が目の前にいても、目にも入らなければ耳にも届かないって態度とる時。意識的ならまだしも、完全無意識で相手の存在を閉め出してることってしょっちゅうやってないか?」
 …なんて言葉にすると色々怒られそうな事思いながら見てたので、わりとすんなり受け入れられちゃった(*3)。ま、性格が正反対になるスリーとラジじゃ、ウザ度の種類が違うから、いくら妻でも気づきにくいんだと納得…できるようなできないような。

 劇中に何回も出て来るスリーとターニの食事風景が、2人の関係の微妙な変化をうまい事表現していて映画的に美しい。よ! 日本…もといバーラト1!!(*4)
 そうそう、日本と言えば後半ラスト近くに出て来る妙なジャパンエキスポも(日本人的には)必見。てゆーかインド人も、日本と中国とアメリカ製エセ日本イメージを区別できてないのねぇ。
 刺青した相撲レスラーが本気になって客をぶん回すとかあり得ないから! そもそも、土俵で手をついた時点で負けでんがな! フジヤマとか言って昭和新山を映すなって!!(*5) 考証担当したの誰だよぅ。ひょっとして前半に出て来るヒュンダイの車やバイクも日本製だとか思ってる?(*6)
 それだけ、ボリウッドと日本のパイプは細いのねぇ…。

 日本では、2010年に沖縄国際映画祭にて上映され、長編プログラムPeace部門でグランプリを受賞。2017年にはインド映画同好会にて「神が結び合わせた2人」のタイトルで、翌18年にICW(インディアン・シネマ・ウィーク)にて同じタイトルで上映されている。


挿入歌 Haule Haule (優しく甘くのんびりと)

初めての愛妻弁当をもらって、大喜びするスリーの図。
妄想と現実の混交具合と切り替え具合が、映像的に美しい。



受賞歴
2008年 Aaj Tak's Movie Masala Awards 作品賞・監督賞・新人賞(アヌーシュカ)
2009年 Filmfare Awards 男性プレイバックシンガー賞(Haule Haule)・シーン・オブ・ジ・イヤー賞
2010 Apsara Film & Television Producers Guild Awards 主演男優賞・新人女優賞(アヌーシュカ)・女性プレイバックシンガー賞(Tujh Mein Rab Dikhta Hai)
2010年 沖縄国際映画祭 長編プログラムPeace部門 グランプリ

2009.11.13.
2018.9.10.追記

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*1 インドの恋愛観・運命観で時々言及される常套句。
*2 …のために映画賞や批評家的な見方では評価されづらい…かも。
*3 実際、ラジと会う前のターニは、そう言う事もありそうな冷たい雰囲気をまとってるし。
*4 バーラト=インドの国内用正式名称。
*5 支笏湖はちゃんと"Sikotuko Lake"って言ってるのに…言いにくそうに。
*6 ま、あの会社の日本イメージな宣伝戦略だとなぁ…。