インド映画夜話

ラームが村にやって来る (Ramaiya Vastavaiya) 2013年 148分
主演 シュルティ・ハーサン & ギリッシュ・クマール
監督/脚本 プラーブ・デーヴァ
"僕のことを5年待てる? 10年待つことが出来る? …彼女は、ずっと待ってくれる。君と違ってね"






 パンジャーブ州の拘置所にて、禁固刑中の男ラグヴェールは夜な夜な妙な作業を始めていた。
 看守が尋ねると、彼は「もう結婚して母親になったはずの妹の、子供の名前を決めている」と答える。興味を持った看守は、彼にこれまでのいきさつを話してほしいと頼むのだった…。

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 その昔、富裕層の父の一方的な離婚によって母と妹共々路頭に迷った少年ラグヴェールは、心労から突然死してしまった母のお墓を守るため、その周りの農地開発をすることで村に住む事を許可された。妹ソーナーは、そんな尊敬する兄の元で貧しくも幸せに成長し、今や高校卒業を目前にしていた。

 その日、ソーナーの幼なじみリヤーが近々結婚すると言って、結婚式の手伝いにソーナーを借りたいと言ってきた。ソーナーが彼女のお屋敷にやってくると、待っていたのはリヤーの友達と言うお金持ち組。その中で、いちいち自分を追い回すチャラいNRI(在外インド人)と何度も衝突して大喧嘩してみれば、彼はシドニーからやって来たリヤーの従兄弟ラームだと言う!
 結婚式準備が進むうち、ソーナーとラームは色々な事件を経ていつの間にか逆にお互いを意識し始めるように。だが、ラームの親戚ドリーが彼との婚約を望んでいるのを知ったラームの母アシュウィニーは、一族を味方につけて邪魔なソーナーを追い出そうと計画。運悪くそこに結婚祝いにやって来たラグヴェール共々、罵詈雑言を浴びせて貧乏な農民兄妹を追い返してしまう!

 事の顛末をリヤーから聞かされたラームは、帰路途中に母になにも言わずインドへと取って返してソーナーの家を訪ね、彼女との結婚を願い出る…しかし、富裕層への怒りを静められないラグヴェールはラームを冷遇。それでも諦めず家に残り続けようとする彼に、ついにラグヴェールは言い放つ「ならば、オレの農地を1エーカーやるから、そこからオレ以上の収穫を上げてみろ」「牛や鳥の世話も全部お前がやってみろ」「牛小屋で暮らしてみろ」「…1つでも出来ないようなら、さっさと元の暮らしに戻れ」!!


挿入歌 Jadoo Ki Jhappi ([貴方が心をくれたから、私は代わりに] ただ抱擁だけを貴方にあげる [私は貴方に会えないのだから])

*ゲスト出演で踊ってるのは、2006年度ミス・ユニバース・スリランカ代表のジャクリーン・フェルナンデスと、プラーブ・デーヴァ監督自身!


 プラーブ・デーヴァの監督デビュー作となったテルグ語(*1)映画「Nuvvostanante Nenoddantana(貴方が来るのを、イヤと言える?)」の、プラーブ・デーヴァ自身によるヒンディー語(*2)版リメイク作(*3)。
 日本では、2014年IFFJ(インディアン・フィルム・フェスティバル・ジャパン)にて上映された。

 ただでさえ自分の監督作のリメイクなんてメンドくさそうな作業が予想されるって上に、自分の初監督作なんて監督自身が見たくもないんだろな……なんて心配してたら、まーーーーーったくそんな心配しなくていいほどきっちり丁寧に作られた良作になっててビックリですわ。それだけ愛着のある映画って事なんでしょかどうでしょか。

 お話そのものは、オリジナルのテルグ映画そのまま。舞台がアーンドラ・プラデーシュからパンジャーブに変更され、キャストがボリウッド仕様に(*4)、いくつかのシークエンスやモチーフが現代的になってる(*5)ってのはあるものの、風景はわりとオリジナルに近いロケーションで撮ってるのもビックリだし、テンションの盛り上げ方がより派手になってる所にプラーブ・デーヴァのキャリアの厚みを感じさせるのもさすが。そのアレンジ具合と、元の映画のプラス要素を引き出す技量具合に、やっぱプラーブ・デーヴァ映画はただの馬鹿映画ではないのだ! と確信させられる美しい良作……になってるはず。うん。

 前半の主役ソーナー役のシュルティ・ハーサンは、1986年チェンナイ生まれで、タミルヒーローのカマル・ハーサンと名優サリーカを両親に持つ映画一族出身。女優の他、歌手、モデル、ダンサー、音楽家としても活躍中。2013年には本作の他、1曲だけ歌も担当したヒンディー語映画「D-Day」、テルグ語映画「Balupu(うぬぼれ)」「Ramayya Vasthavayya(ラームはきっと来る)」の2本に出演してる。
 後半の主役ラームを演じるのは、これが映画デビュー作となるギリッシュ・クマール。1988年ムンバイ生まれで、本作のプロデューサーをしている父クマール・S・タウラニの計らいによって本作で主演する事になり、3年かけて身体を鍛え、ダンスを修得したとかなんとか。このラーム役でいくつかの新人賞にノミネートされている。
 本作で一番目立っていたのは、なんと言ってもラグヴェール役のソヌー・スード。1970年パンジャーブ州ルディヤーナー生まれの俳優兼モデルで、1999年のタミル語映画「Kallazhagar」で映画デビュー(*6)。以降、テルグ語映画・ヒンディー語映画を中心に主に悪役俳優として大活躍中。日本公開作・上映作でも「チャンドラムキ(Chandramukhi)」「ダバング(Dabangg)」「ワダラの抗争(Shootout at Wadala)」「ロミオ・ラージクマール(R... Rajkumar)」などで見る事が出来るので要チェック!

 監督のプラーブ・デーヴァ(*7)は、1973年カルナータカ州マイソール出身。父親は、カンナダ語映画を中心に南インド映画界で活躍していた振付師ムグル・スンダル。弟に、やはり振付師として活躍するラージュー・スンダラムとナーゲンドラ・プラサードがいる。
 古典舞踊を修得後、1988年のタミル語映画「Agni Natchathiram(炎の星)」からダンサーとして映画界入り。翌1989年のタミル語映画「Vetri Vizha」で振付師デビューして以降大活躍。1994年のタミル語映画「Indhu」で主演デビューし役者活動も開始。その他、ダンスアカデミー主催やダンスイベントの主催・出演など多方面で活躍中。
 監督としては、2005年のテルグ語映画「Nuvvostanante Nenoddantana(貴方が来るのを、イヤと言える?)」が初監督作。07年の「Pokkiri(悪党)」が初タミル語映画監督作となり、09年の「Wanted」以降ヒンディー語映画の監督も歴任するようになっている。

 元のテルグ映画と比べると、主演2人の顔が面長なせいか役以上に年上に見えてしまう感じで、とくにこれが映画デビューとなるギリッシュ・クマールのぎこちなさが前半部分では危うく見えない事もない。まあでも、その濃い顔に慣れて来た中盤以降はわりとしっくり馴染んでるように見えてくるから不思議。夜中の暗闇の中で佇むシュルティ・ハーサンは幽霊みたいで一瞬ビクッとしたがな!(*8)


挿入歌 Peecha Chhute (誰かがこの心を盗んだなら [私はトラブルから解放される。ラーマ神よ万歳!])







「ラームが村にやって来る」を一言で斬る!
・オリジナルもそうだったけど、田んぼに蒔く種がまばら過ぎませんか!

2014.1.9.

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*1 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*2 インドの連邦公用語。主に北インドで使われている言語。その娯楽映画界を、俗にボリウッドと言う。
*3 タイトルだけテルグ語だったりする。
*4 と言っても、主演の2人はボリウッドではそんなに馴染みのない人?
*5 ラブレターがスマホ撮影された醜態画像になってるとか、ミュージカルが1曲少ないとか。
*6 撮影自体は、後の2001年公開作となる「Majunu」の方が早かったそうな。
*7 またはプラーブデーヴァともクレジットされる。本名プラーブデーヴァ・スンダラム。
*8 まあこの映画は、後半ヒロインの影が薄くなるんだけどさ。