ラ・ワン(Ra.One) 2011年 156分 英国のバロン・インダストリー社の新技術。それは、巷にあふれる無数の無線電波網を利用した"触る事が出来る"映像投射システムだった! この技術を使ってバロン社が手がけるのは、誰も見た事ないバーチャルリアリティゲーム!! そのバロン社ゲーム開発担当のシェーカル・スブラマニアムは、この頃息子プラティークとケンカばかり。ゲーマーのプラティークは、父親と衝突する中で「どうせなら、悪が勝つゲームでも作りゃ良いのに。良いもんヒーローなんてカッコわりぃ」と言い放つ。 シェーカルは、息子のこの捨て台詞をヒントに、魅力的な敵キャラが登場するモーションキャプチャー型格闘ゲーム「ラ・ワン」の開発に着手。全ては、息子を思っての父親としての行動だった。 「ラ・ワン」完成披露パーティーにて、母ソニアと共に招待されたプラティークは、共同開発スタッフの中国人アカシの好意で「ラ・ワン」をプレイできる事になり有頂天。 しかし、プラティークがゲームを中断して帰宅する中、ゲームはいつまでもリセットされず、画面上で悪役ラ・ワンが語り続ける。「ルシファー(プラティークのハンドルネーム)、もっと戦おう。お前を絶対に殺してやる…」 異常に気づいたアカシとシェーカルがプログラムを点検する頃、画面上のラ・ワンは電波網を駆使して自分の等身大フィギュアを元として実体化!! 彼の目的はただ1つ。プレイヤー"ルシファー"を殺すこと…! その頃、もう一人のプレイヤーキャラクターもまた、ゲームを抜け出して実体化していた。彼の名は、"ジー・ワン"……!! 挿入歌 Raftaarein タイトルは劇中に出てくる新世代ゲームのタイトルであり、そのゲーム内でプレイヤーが戦う事になる悪役の名前(*1)。 前年にヒンディー圏でも大ヒットしたタミル語映画「ロボット」に対抗するかのような、超ド派手なSFヒーローアクションの登場! 日本では、2012年に一般公開。事前に東京写真美術館での1円試写会や、コピー&ポスターの公募、ニコ動での特別試写会など色々と前代未聞なプロモが行なわれた。 「ロボット」に次ぐ大規模予算の投入、CGを使った大がかりな視覚効果技術の進化、ボリウッドではまだ珍しいSFヒーローアクション、久々のシャールクとカリーナの共演(*2)と、発表から大きな評判を呼んでいた映画ながら、蓋を開けてみたら「ん? …うーむ…」と言う感じ。 むぅ…と考え込んでしまう1つの理由は、「こう言うカッコいいシーンを作りたい!」と言うシークエンス重視で、そのための設定や物語を後付けでくっつけてみました的な映画構成な所。 結局ラ・ワンとジー・ワンは立体映像なのかロボットなのかナノマシン的ななにかなのかわかんないし、スーパーパワーを生み出す設定も説教くさいだけであまり物語的には意味がない…ような。その割には、ゲームシステムや映像システムのような設定部分への説明が長過ぎるのは、SFマインドみたいな部分がまだインド的にはなじみが薄いから…?(とも思えないんだけども…うーむ) 致命的なのは、劇中のゲーム「ラ・ワン」があんまし面白そうに見えない所でね…(*3)。 アクションシーンの多くは「ロボット」のオマージュと言うか対抗心めいたものが強いし、コメディシーンや家族ドラマのあたりはふた昔くらい前の作り。あぁ、懐かしい感じだなぁ…とか、「ロボット」的なのをボリウッドで作るとこうなるのか…と思えればそれはそれでいいかもだけども。 しかし、本作のシャールクはメチャクチャカッコいい! 最近、顎と首部分に年齢が出てきてしまって「キングも年をとったのぅ」とか思ってたけども、この映画に関してはどこから撮っても絵になる顔しておりましたがな。特に善のヒーロージー・ワンに扮するシャールクの、とぼけた演技と妙な強さで映る碧眼の眼力は最高ッス。数々の「ロボット」へのオマージュや、シェーカルをタミル人に設定したあたり(*4)は、「恋する輪廻」「RNBDJ」でも見せていたラジニへのリスペクト…なのだろか。突然のラジニ扮するチッティの登場は、まさにそのリスペクト故なんだろうけども。 ソニア役のカリーナもスンバラし! 現在、アイシュに変わり飛ぶ鳥を落とす勢いで活躍し続けるカリーナ・カプールの美しさ・強さ・演技力が存分に堪能できまする。ラ・ワンに操られていた時の妖艶(チャンマクチャロー!)な眼力の迫力ったらもう!同じ年に、サルマン映画でも主演出来る女優なんてカリーナだけじゃなかろか(*5)。 後半のラ・ワンを演じるアルジュン・ランパールも最高。シャールク映画では「ドン 過去を消された男」「恋する輪廻」と悪役やライバルとしてシャールクと対決する役が多い人だけども、今回もスンゲェカッコええですわ。燃えるラーヴァナ像をバックに迫ってる所なんかシビレてまうわ〜。 全体として、最近のサルマン映画とは違ったアプローチによる南北インドの混交映画を目指そうとしながら、かつ世界マーケットをねらったグローバル映画をも目指したインド映画……と言う所かもしれない。ま、いわゆるインド映画ファンの求める濃いいイン度が薄い分、インド映画未見の人にアプローチしたい映画ではある。 挿入歌 Chammak Challo (妖艶な君)
受賞歴
2012.8.25. |
*1 「ラーマーヤナ」の敵役である羅刹王ラーヴァナ(ヒンディー語名ラーヴァン)に因んだ名前。 *2 主演での共演となると、「Asoka」以来? *3 立体映像技術を組み込んでいるはずなのに、巨大スクリーン上での2体のキャラの格ゲー状態だし、ラストステージは銃撃戦で決着だし…。 *4 名前自体が南インドのハイカーストに多いものなんだそうな。 *5 サルマンとシャールクの仲の悪さは超有名。シャールクを褒めたってだけで、その女優を自分の映画に絶対使わないサルマンなんだけど…。 |